アルファエージェンシー細田善彦さん×毎熊克哉さんインタビュー

TBSドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」など話題作にも出演しながら、ドラマ史実に基づき「本物の武蔵」をリアルに描く本格正統時代劇映画『武蔵-むさし-』(19)では、主人公・武蔵を演じ、新境地を切り拓いた細田善彦さんと、映画『ケンとカズ』(16)で数々の映画の新人賞に輝き、NHKの朝ドラ「まんぷく」では「塩軍団」の森本を好演した毎熊克哉さん。アルファエージェンシー所属の30代俳優として、映画やテレビ、舞台など幅広い分野で活躍するお二人に、「アラサー俳優のリアル」について語ってもらった。

俳優と人生

――同世代の役者のことを意識はされますか?

細田 自分に時間があって、家でテレビを見ている時間が増えると、「あー、この人よく出てるなー」って思うこともあるけど、目の前の何かに必死で取り組んでいるときは、周りを見ている余裕がないです。

毎熊 お互い30代前半ですけど、この年齢になってくると、俳優自体が減ってくるんですよ。地元で稼業を継いでいたりとか。そういう意味では、同世代の役者に会うと「お互いまだ生き残ってるね」って感じで、逆にちょっと嬉しいんです。

左より毎熊克哉さん、細田善彦さん

――お二人には、これまで俳優人生の岐路はありました?

細田 俳優って、二十代前半が一番多いんですよ。

――俳優の仕事の本数が、ということですか?

細田 いや、「俳優」って名乗っている人たちが。もちろん年齢を重ねるほど役者としての味は出てくるとは思うんですけど、現実的にはどんどんきつくなるところもあるんです。そもそも俳優になるような人は、生活のことなんて考えていたら無理な瞬間があるのかもしれないですけど。「いい歳して、いつまでやってるんだ」みたいなことを周りに言われることもあるでしょうし、もし「結婚したいな」と思っても「今のままじゃ……」とかいろいろありますからね。

――なるほど……。

細田 実は、僕は俳優業を24歳のときに一度辞めていて、1年半ぐらいフラフラしていた時期があるんです。その時は、本当にこの先、自分が何をするべきか自問自答の日々でした。

――細田さんが俳優を辞めた理由とは?

細田 僕は15歳から始めたんですが、この仕事って急に、例えば前日とかにオーディションに呼ばれることもあって、なかなか東京を離れられないし、先々の予定が立てられないんです。仕事が入るのを指をくわえて待っている状況に「一生これが続くのか?」と思ったからです。そのときに、自分が1番やりたかったことは海外で暮らしてみたかったんです。そのことを、俳優の先輩に相談したら、「行くなら全部断ち切らないと行く意味がない。一度区切りをつけないと、どうしたって芸能界の動向をネットでチェックしたくなるし、せっかく海外に行くのに日本のことを気にするのはもったいない」と、背中を押してもらえて、僕は所属させてもらってた事務所を辞めて海外に行ったんです。

――そうだったんですね。

細田 僕の中で、海外って、アメリカだったんですけど、アメリカにいきなり行くのが怖かったからカナダから行って、慣れた頃にアメリカに行きました(笑)。毎日「今日はなにしようかなー?」って、過ごしていた日々だったんですけど、ニューヨークに滞在してた時に観光の一つとしてブロードウェイのショーにいってみたんです。そしたら、やっぱり面白くて、もう一度、エンターテイメントの世界に戻るのもありなのかな、なんて考えはじめてたら、現地の演劇学校に通ってる生徒の方と出会えて、それから飲みに行ったり話したりしてるうちに、自分は日本でこんなに真剣に芝居と向き合っていただろうか……って、改めて考えたりもして。

細田善彦さん

――毎熊さんはどうでした?

毎熊 僕が役者を始めたのは21ですが、芝居をやりたくてもやれない時期が長くて。ようやくこの2年くらいで、いろいろな人に助けてもらって、出来るようになってきたところなんです。だからもしかしたら35くらいの時に、僕も海外に行こうかなって思うのかもしれない。

細田 いやいや、もう行かなくていいですよ! むしろこの仕事と真摯に向き合って、一緒にもがいていきましょう(笑)

役作りについて

――細田さんは『武蔵-むさし-』で素晴らしい殺陣を披露されていますが、わずか3ヵ月で習得できるものですか?

毎熊 一口に殺陣と言っても、『武蔵-むさし-』は本格的ですからね。

細田 身体を大きくするためにはひたすら肉を食べ続けないといけないから、食費がかかって大変でした!それと、「殺陣稽古」はずっと体育館でやっていたんですが、いざ撮影に入ると足場が良いところなんて一か所もないんです。冬の撮影だったので雪が積ってたり溶けていたり、まともに走れないほど足場が悪い中では、なかなか感覚がつかめなくて。ちゃんと練習の時から実践を想定してやらなきゃいけないんだなって、改めて思いましたね。

――毎熊さんも役作りで苦労されたことはありますか?

毎熊 実は僕、そもそも怖い役を演じること自体、苦手と言えば苦手で……。

細田 えーっ⁉ それって、どういうことですか?

毎熊 きっと皆さんのなかには『ケンとカズ』のイメージがあるから、「もっと怖い人が来るのかと思ったよ」ってよく言われるんです。でも『ケンとカズ』の時もああいう役をやるのは初めてで、あの雰囲気を出すのは結構大変だったんですよ。だから「やれ」って言われても、そんなにすぐにはできないっていうのはありますね。

細田 僕も昔、犯人役ばかりやっていた時期があったんですよ。「ライフ」(07)というドラマで演じた役が強烈だったみたいで、いまだに言われますからね(笑)。いわゆるハマり役に出会えるのは嬉しいんですが、その後の後遺症もすごくて。

毎熊 ありがたいことなんですが、意外と辛い部分もあったりする。

細田 そうなんです!しかも、僕が当時すごく苦悩したのが、求められる役が全部「ライフ」になっちゃうことだったんですよ。他のアプローチを考えてきても「ライフみたいな感じでやって欲しいんだけど」って演出されたりとか。毎熊さんも『ケンとカズ』の、あの殺気のイメージでとか求められませんか?

毎熊 そう! そんなに簡単にキレられないって(笑)。

毎熊克哉さん、

【WEB限定】マネージャーの存在とは

――最後に、マネージャーさんに対する思いをお聞かせください。

毎熊 マネージャー業にとって一番重要なのは、実はマネージャー自身に人間としての魅力があることなんだって気づいたんです。打ち上げの席で誰よりも楽しそうにしているマネージャーさんの姿を遠くから見ていて、きっと僕ならああいう人と「また仕事がしたい」って思うだろうなって。細田さんはどうですか?

細田 僕にとってのマネージャーさんって、今の自分の立ち位置を再確認させてくれる「マイルストーン」的な役割なんじゃないかな。現場で散々好き勝手やって帰ってきたときに、「どうでした?」って毎回ジャッジしてもらえるっていう意味では、ある種の「道しるべ」みたいなところがありますね。

左より毎熊克哉さん、細田善彦さん

お二人の対談は、7月に発売するcinefilBOOKvol.3で、より深い内容をご紹介いたします!

■プロフィール

細田善彦
1988年、3月4日生まれ、東京都出身。映画『終の信託』(12)『羊の木』(18)などに出演。ドラマ「逃げるは恥だか役に立つ」(16)「真田丸」(16)「民衆の敵~世の中、おかしくないですか?」(17)「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(19)など数々のTVドラマで活躍中。 2019年4月に「ピア まちをつなぐもの」で、主演。さらに翌月の5月の公開映画『武蔵 ーむさしー』で主役の武蔵役を射止めるなど、今後注目の実力派俳優。

毎熊克哉
1987年3月28日生まれ、広島県出身。初主演作『ケンとカズ』(16)で、第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞等を受賞。18年の主な映画出演作は『北の桜守』『万引き家族』『私の奴隷になりなさい第2章 ご主人様と呼ばせてください』『私の奴隷になりなさい第3章 おまえ次第』『止められるか、俺たちを』と多数。NHK連続テレビ小説「まんぷく」出演も記憶に新しい。

text / reico watanabe
photo / hiroki kanayama
edit / sayaka yabe