夭折の俳人・住宅顕信(すみたく・けんしん)
すべてを俳句に捧げたその短い人生が、いま静かに現代を撃つ

人は、もがきながら生きている

住宅顕信――空前の俳句ブームのいま、その俳句と人生をみつめる

(C)戸山創作所

岡山に生まれ25歳という若さでこの世を去った俳人・住宅顕信(すみたく・けんしん)。

5・7・5の字数にとらわれない自由律俳句を詠み、生涯に残した俳句はわずか281句。22歳の時に得度し浄土真宗本願寺派の僧侶となった。空前の俳句ブームと言われる現在、その死後に日常をテーマとした俳句と生き様が脚光を浴びている。

その俳句と共にいきた稀有な人生を、生きづらさを感じながら生きる現代の中学生と重ね合わせて描いた『ずぶぬれて犬ころ』。

ドキュメンタリー映画『船、山にのぼる』『モバイルハウスのつくりかた』の本田孝義監督が初の劇映画に挑む。同郷の住宅の俳句と人生から「生きろ」というメッセージを感じ、オール岡山ロケと地元の熱い協力で本作を完成させた。

(C)戸山創作所

主演は『おんなのこきらい』『21世紀の女の子』で注目される木口健太。住宅を演じるために髪を短く切り、鬼気迫る演技で新境地を開いた。住宅の俳句に励まされる中学生・小堀を演じるのは岡山出身の新鋭、森安奏太。オーディションで見出された、繊細ながら力強い眼差しが印象深い。また 『アウトレイジ最終章』など数多くの作品で個性的な役を演じる仁科貴や、特別出演の田中美里ほか、実力派ぞろいが短くも強烈なひとりの人生を彩る。

(C)戸山創作所

(C)戸山創作所

(C)戸山創作所

撮影は『人のセックスを笑うな』『ニシノユキヒコの恋と冒険』(両作とも井口奈己監督)の鈴木昭彦。息の長いカットが過去と現在を繋いでいる。音楽は“あらかじめ決められた恋人たちへ”のリーダーで、近年は『モヒカン故郷に帰る』(沖田修一監督)、『武曲MUKOKU』(熊切和嘉監督)、ドラマ『宮本から君へ』(真利子哲也監督)など数多くの映画やドラマを手がける池永正二。一転して音数の少ない旋律が強い印象を残す。

人はどのように生き、そして去っていくのか。
どの時代にも通づる普遍的なテーマが貫かれる。

(C)戸山創作所

<住宅顕信(すみたく・けんしん 本名・春美)>
1961年岡山県岡山市生まれ。中学卒業後は下田学園調理師専門学校に通いながら、レストラン等で働いたのち、19歳で岡山市の清掃業に採用。この頃から、自由律俳句(5・7・5の字数にとらわれない俳句)と宗教に興味を持つ。
1983年、22歳の時に京都西本願寺で得度、浄土真宗本願寺派の僧侶となり、法名を顕信とする。この年、自宅に無量寿庵という仏間を作る。また、同年、1歳年下の女性と結婚。しかし、1984年23歳の時に、急性骨髄性白血病を発症し、岡山市民病院に入院。入院中に長男・春樹が誕生するが離婚し、以後、病室で育児を行う。入院中、俳句作りに没頭。全国に句友もでき、俳句誌にも投稿。病状が回復し、一時退院出来たこともあったが、回復するには至らず、1987年2月7日没。
生前残した俳句は281句。

(C)戸山創作所

映画に登場する33句

「あけっぱなした窓が青空だ」

「気の抜けたサイダーが僕の人生」

「若さとはこんな淋しい春なのか」

「うつむいて歩く街に影がない」

「春風の重い扉だ」

「雨音にめざめてより降りつづく雨」

「だんだんさむくなる夜の黒い電話機」

「針を持つ暖かき手が手をつつんでくれる」

「泣くだけ泣いて気の済んだ泣き顔」

「洗面器の中のゆがんだ顔すくいあげる」

「病んでこんなにもやせた月を窓に置く」

(C)戸山創作所

「お茶をついでもらう私がいっぱいになる」

「焼け跡のにごり水流れる」

「耳を病んで音のない青空続く」

「陽にあたれば歩けそうな脚なでてみる」

「レントゲンに淋しい胸のうちのぞかれた」

「深夜、静かに呼吸している点滴がある」

「月明り、青い咳する」

「両手に星をつかみたい子のバンザイ」

「抱きあげてやれない子の高さに座る」

「父と子であり淋しい星を見ている」

「夜が淋しくて誰かが笑いはじめた」

(C)戸山創作所

「淋しさきしませて雨上がりのブランコ」

「水滴のひとつひとつが笑っている顔だ」

「遠くから貴女とわかる白いブラウス」

「日傘の影うすく恋をしている」

「念仏の口が愚痴ゆうていた」

「何もできない身体で親不孝している」

「鬼とは私のことか豆がまかれる」

「捨てられた人形がみせたからくり」

「ずぶぬれて犬ころ」

「地をはっても生きていたいみのむし」

「何もないポケットに手がある」

<監督の言葉>

2014年春頃、私は仕事が行き詰まり、精神的にかなり不安定になっていました。そんな頃、なぜか以前読んだことがあった住宅顕信の句「ずぶぬれて犬ころ」が私の中で蘇ってきたのです。この句は、雨に濡れた犬の姿に白血病で闘病していた住宅顕信自身の姿を重ね合わせた句だと思います。少し自虐的な感じもしますが、私はこの句から、ぼろぼろになっても生きろ、というメッセージを受け取りました。
 2002年に住宅顕信及び彼の句が全国的なブームになった時に彼のことを知り、俳句も読んでいたのですが、その時はそれだけで終わりました。しかし、2014年に自分の中に住宅顕信の句が蘇ってきてから、再び彼のことが気になり始めました。未読だった住宅顕信の伝記「生きいそぎの俳人 住宅顕信―25歳の終止符」(横田賢一著、七つ森書館刊)を読みました。私自身、住宅顕信と同じ岡山県出身ということもあって、ますます彼に魅かれていき、いつしか彼のことを映画にしたいと強く思うようになりました。
 私はこれまでドキュメンタリー映画を主に作ってきました。ですから、住宅顕信を描く映画も、当初はドキュメンタリー映画として企画していました。しかしながら、住宅顕信は1987年に亡くなっていますから、ドキュメンタリーとして描くには、生前の住宅顕信を知っている方々に話を聞いたりすることしか出来そうになく、映画として面白くなりそうに思えませんでした。であれば、劇映画として住宅顕信のことを描きたいと思うようになっていきました。
 そうはいっても、私は大学卒業後は劇映画を作ったことがありません。全く不安がなかったと言えば嘘になりますが、どこかで、やれるという楽天的な気持ちもありました。
 実際に初めて劇映画を作る過程では、奇跡としか思えないような様々な出会いがあり、多くのスタッフ、役者、撮影場所、製作支援者の方々に助けられて、なんとか映画を完成させることが出来ました。
 2002年に住宅顕信のブームが起きてから、すでに時代も一回りし、地元の岡山でも住宅顕信のことを知らない人が増えています。映画『ずぶぬれて犬ころ』が、住宅顕信のこと、住宅顕信の句を知ってもらう契機になることを願っています。
2019年1月21日  本田孝義

(C)戸山創作所

製作:ケンシン・プロジェクト、戸山創作所

監督・プロデューサー:本田孝義

制作:竹井政章、皿井淳介 制作事務局:長尾直樹

原作:横田賢一「生きいそぎの俳人 住宅顕信―25歳の終止符」(七つ森書館刊)

脚本:山口文子

撮影:鈴木昭彦 録音・整音:高島知哉 美術:小林大記、田渕英明

編集:松尾太加志

音楽:池永正二

テーマ曲:「blast」あらかじめ決められた恋人たちへ 

キャスティング:東敬一 衣装:井上瑞穂 ヘアメイク:難波由華

出演

木口健太

森安奏太、仁科貴、八木景子、原田夏帆

脇田敏博、坂城君、柳田幸則 、渡辺厚人、金本保孝 、大岩主弥、宇田由美子、村上遥、寺角恵美 、俣野信和、三村晃庸

藤田京子、中嶋裕、網永成利、高橋和美 、田中芙実枝

講﨑香月、笹倉史子、木村隆信、井川翔太、鈴木颯、古山琥晶

田中 美里(特別出演)

2018年/日本/DCP/100分

配給:パンドラ
宣伝:スリーピン

2019年6月1日(土)〜ユーロスペースにてロードショー、以下全国順次公開
5/17(金)〜23(木)岡山 シネマ・クレールにて先行公開