『ドント・ウォーリー』監督ガス・ヴァン・サント来日記者会見

新作『ドント・ウォーリー』の日本公開を機に、10年ぶりの来日となる監督ガス・ヴァン・サントの記者会見が2月20日にザ・ペニンシュラ東京にて開催された。

オレゴン州ポートランドの風刺漫画家ジョン・キャラハンの半生を描いた本作は、もともと2014年に他界した俳優ロビン・ウィリアムズが映画化を熱望していた企画。それから20年を経て、彼に監督をオファーされたガス・ヴァン・サントがその遺志を継ぐかたちで完成させた。キャラハンを演じる主演のホアキン・フェニックスをはじめ、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラックと、熟達した魅力的な俳優たちが顔を揃えている。

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「とてもパーソナルな映画になると確信した」というホアキン・フェニックスの言葉どおり、本作はガス・ヴァン・サントのどこまでも優しく、親密な情感に溢れた眼差しに貫かれている。そして、その眼差しがホアキンの兄リヴァー・フェニックスが主演した『マイ・プライベート・アイダホ』以来、彼が辿ってきた道程へと向けられるとき、本作における「許し」が監督自身の深いところからもたらされたものであると実感するだろう。彼の言葉に耳を傾けながら、5月3日の公開日を心待ちにしたい。

今回は製作の発案者であった他界した俳優ロビン・ウィリアムズのことなどを含んだ製作の経緯や、映画の主人公となるジョン・キャラハンを語った記者会見の前半を報告します。

[記者会見]

〈本作の製作経緯について〉

本作は1970年代に活躍したオレゴン州ポートランドの漫画家ジョン・キャラハンの物語です。彼は事故によって車椅子での生活を余儀なくされ、アルコール依存症と闘い、地元ポートランドでもよく知られた人物でした。やがて依存症を克服した彼は、断酒をしながら大学へ通い、絵を描き始めました。その漫画はサンフランシスコを含む全米の新聞に掲載されて、一躍有名になったのです。彼のファンだったロビン・ウィリアムズが自伝『Don’t worry, He Won’t Get Far on Foot』を読み、映画化を考えたときに、彼と同じポートランド出身である私に声をかけてきたことから本作の企画は始まりました。

ガス・ヴァン・サント監督

〈他界した俳優ロビン・ウィリアムズへの思い〉

自伝の映画化権を買ったウィリアムズが、私に監督の打診をしてきたのが1997年のときでした。彼がジョン・キャラハンを演じたかった理由は、親友の俳優クリストファー・リーヴのためでもあったのです。ウィリアムズとリーヴはジュリアード音楽院時代の同級生で、リーヴは乗馬中の事故でキャラハンと同じ車椅子での生活を送っていました。そのリーヴへの思いが、キャラハンと重なる部分があったのだと思います。

その後、私はキャラハン本人の手助けを借りながら脚本化を進めていきましたが、アルコール依存症やそのリハビリ、車椅子での生活という題材がリスキーな要因だと思われたためか、製作側の躊躇もあって、企画は頓挫してしまいました。やがて2010年にキャラハンが、2014年にウィリアムズが亡くなり、スタジオも当初のコロンビア・ピクチャーズからアマゾン・スタジオへと移るなかで、ホアキン・フェニックスにこの企画の主演依頼を持ちかけたのです。ウィリアムズとは『ミルク』(08)のときに主演のショーン・ペンが演じたハーヴェイ・ミルク役を演じる予定で、そのときにスタジオで彼と会ったのが最期の別れとなってしまいました。

〈ジョン・キャラハンの人柄について〉

キャラハンとは友人を介して出会いました。彼のことを初めて知ったのは、同じポートランドの詩人ウォルト・カーティスを主人公にした私のデビュー作『マラノーチェ』(85)のときです。16㎜フィルムによる低予算で撮られたこの作品は、当時のドヤ街だったウォルトタウンという旧市街のコミュニティを舞台にしています。カーティスはそこにある食料雑貨店で働いていたのですが、その店でよくワインを買っていたのがキャラハンでした。詩人であるカーティスに、キャラハンは作家になりたいという野心を語っていたそうです。私もその当時からキャラハンが非常に高い理想を持っていたことに対する周囲の驚きをよく耳にしていました。

いまこうして彼の自伝を映画化するにあたって、私が1980年代にポートランドを舞台にして作った2本の映画(『マラノーチェ』『ドラッグストア・カウボーイ』(89))と、実際に彼が活躍していた時間がリンクして、当時の人物たちが繋がっていくのはとても興味深いことです。なぜなら、それらは当時のポートランドに息づいていたアンダーグラウンド文化を象徴していると思うからです。そのようなコミュニティのなかで、キャラハンは徐々にその名を知られる存在となります。やがて、彼のエージェントが『ザ・シンプソンズ』の作者マット・グレイニングと同じだったこともあって、彼らの助力が大きな成果を上げました。そして、人気ドキュメンタリーテレビ番組「60ミニッツ」(CBS)へ出演したことで、キャラハンの名前と作品は全米へと広がっていくことになります。

彼は「車椅子の漫画家」という肩書きで自分を揶揄し、際どい笑いで物議を醸しながら、人気を得ていきました。やがて自伝を書き、断酒とともに自らのクリエイティブな側面を発見した彼を、さらにまたロビン・ウィリアムズが発見するに至ります。キャラハンは人生の根源に苛立ちを抱えていました。それは赤毛である彼の容姿や、川沿いの街ダラスで育ち、ポートランドで文化を吸収した自分が、つねに社会から外れたアウトサイダーであることに起因しています。彼の人柄を要約するなら、短気で、可笑しく、楽しい気性だけれども、人前ではシャイでナーバスになってしまうような優しさを合わせ持った人間ということになるでしょうか。

ガス・ヴァン・サント監督

次回は主演のホアキン・フェニックスについて、そして彼の兄で夭折したリヴァー・フェニックスのことや今回の映画づくりについてなど、より映画製作の内実に迫った秘話をご紹介します。

(文・構成:野本幸孝)

ガス・ヴァン・サント監督×主演ホアキン・フェニックス
『ドント・ウォーリー』予告

ガス・ヴァン・サント監督×主演ホアキン・フェニックス『ドント・ウォーリー』予告

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[STORY]
オレゴン州ポートランド。アルコールに頼りながら日々を過ごしているジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)は、自動車事故に遭い一命を取り留めるが、胸から下が麻痺し、車いす生活を余儀なくされる。絶望と苛立ちの中、ますます酒に溺れ、周囲とぶつかる自暴自棄な毎日。だが幾つかのきっかけから自分を憐れむことを止め、過去から自由になる強さを得ていく彼は、持ち前の皮肉で辛辣なユーモアを発揮して不自由な手で風刺漫画を描き始める。人生を築き始めた彼のそばにはずっと、彼を好きでい続ける、かけがえのない人たちがいた・・・。2010年、59歳で他界した世界で一番皮肉屋な風刺漫画家の奇跡の実話。
 

監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
出演:ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック
音楽:ダニー・エルフマン 原作:ジョン・キャラハン
原題:Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot/2018年/アメリカ/英語/113分/カラー
配給:東京テアトル
提供:東宝東和、東京テアトル
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5月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町・ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他全国順次公開