平成最後の年、2018年。みなさまどんな年になりましたでしょうか?
個人的にはシネフィルで連載を始めさせて頂いたり、889FILMという団体で活動を始めたりと、色々と変化があった年でした。
そして今年は映画界で活躍された名優と言われる方が次々にお亡くなりになられ、ショックが続いた年でもありました。

今回は8月にお亡くなりになられた津川雅彦さんへの追悼の意を込めて今井正監督の「砂糖菓子が壊れるとき」を取り上げたいと思います。
津川さんの作品で何か取り上げたいと思っていて一番最初に思いついたのがこの作品。
この津川さんの役、最高に好きなんです。
こちらの作品は曽野綾子さんの同名小説を原作としていて、マリリンモンローの生涯をモデルにしていると言われております。
主演の千坂京子を演じるのは若尾文子さん。もーう、可愛すぎますよ。

※本文にはネタバレが含みます。ご注意ください。

あらすじ
売れない女優・千坂京子(若尾文子)はお金に困りヌードモデルをしたこともあったが、映画プロダクションの社長・工藤(志村喬)に見初められ「櫛」という映画の準主役に抜擢される。
しかし間も無く工藤が亡くなり女優の仕事もうまく行かない。
工藤の葬儀で知り合った新聞記者・奥村豊(津川雅彦)と深い仲になるものの、奥村は京子の気を自分からそらす為、大学の聴講生になることを勧める。
大学で出会った天木教授(船越英二)は知性的で京子はすっかり尊敬し慕うようになるが、天木も京子の肉体と美貌に惹かれた男に過ぎずショックを受ける京子。
そんな姿を見かねた奥村は再び映画界と京子を繋ぎ、京子は美貌と魅力的な肉体で女優としてスターへの道を登っていく。
施設で育ち家族の愛を知らない京子は結婚に対して強い憧れを持ち、野球選手の土岐(藤巻潤)と結婚するも間も無く破局。
続いて結婚した作家の五来克己(田村高廣)も京子の精神的支えになろうとするがうまくいかない。
女優として認められたい、幸せな家庭を築きたいと願う京子であったが精神的に追い詰められていき・・・

その1【京子を見守る男】・・・津川雅彦さん

私が物心ついた時にはもう大御所俳優だった津川さん。
こんな若い姿をみたのはこの作品がはじめてでした。
だから初めて見たときは一瞬誰だかわからなかったのです。
「ん?この人、、なんか誰かに似ているような」みたいな感じ(笑)
当時の年齢は27歳!わっかーい。
でも27歳にしては風格ありすぎて、ダンディなんですよね。
私は30代後半くらいかな?って思って見てたのに。
あんな大人っぽい20代今じゃ考えられん。
この作品の津川さんはイマドキって言葉がしっくりするプレイボーイ感がすごいです。
これは今でも通ずるイマドキ感。
情婦がいるとか京子に普通に言うし、今で言うセフレ?
当時は情婦なんて言っていたのか。。なんか嫌ですね。笑
そして結婚相手の事を「右を向けと言えば3年でも向いているやつ」と言ったり。
男女の関係において清々しいくらいにビジネスライク。
こういう役ってなかなかものにするのが難しいと思うんです。女子に嫌われがちだから。
なのに津川さんは全然嫌味がなくて、女の私が見ても嫌いにならない。むしろ好き。
カラッとサラッとしているんですよね。
はじめこそ京子と男女の関係になるものの、その後ずっと京子を見守り続けて助けてあげる。
男女の友情みたいな関係になるのが素敵で、この映画の好きなところ。
そして何を考えているのかわからないところも魅力的。
これは監督の要望なのか、津川さんの自分の役の掴み方なのかわからないけど、何を考えているかわからない人ってなぜか魅力的だったりしませんか?
なんかね、それを奥村という人物を作る上で奥深くさせている。
観客がこの人って京子のこと本当はどう思っているんだろう?って想像しちゃう。
京子のこと心配しているように見えて実は利用しているんじゃないかとか・・・
そうすると知りたくなるからより深く見入っちゃうみたいな。
作品を作る上での技の一つ。また一つ勉強になりました。

劇中写真

blog.livedoor.jp

その2【京子にぞっこん単細胞男】・・・藤巻潤さん

京子と初めに結婚する相手、野球選手の土岐を演じる藤巻潤さん。
このお方はまぁ、スポーツマンという役がこんなにハマるか!というくらいハマり役。
女優として活躍する京子に惚れて知人を介して紹介してもらい、もう京子にぞっこん。
土岐と結婚して幸せを手にしたように思った京子でしたが、そう上手くいくはずもなく・・・
仕事でセクシーな衣装も着るし、忙しくて家事も完璧に出来ないし。
理想的な妻を求めている土岐にとっては想像していた結婚生活とは全然違う。
セクシーな衣装を着るな!と怒っていたかと思えば、京子をどこへも出したくないんだ!大好きだ!と泣いちゃったり、忙しい人。
いつでも全力投球な人柄がとっても似合う藤巻さん。
それに対して京子も純粋だから応える。
ケンカのシーンは二人のバカップルさに笑えちゃいます。
お似合いっちゃあお似合いなんだけどなあ。
バカっぽい役を演じるのって中途半端だと見ていて覚めてしまうけど、突き抜けているのでホントにそんな人なのかと思ってしまいます。笑
「女は二度生まれる」の時の藤巻さんはそれもまたお相手は若尾さんなのですが、若尾さん演じる主人公の小えんが惹かれる好青年の大学生を演じられてて。
だからこそ、こんなぶっとんだ役に違和感を与えないのが素晴らしいなと。
藤巻さん自身が持っておられる”爽やかさ”みたいなものを役に対して上手引き出しているのではないだろうか。
2度目に結婚する作家の五来と対照的になる熱い男を見事にぶっちぎって演じられております。
最後、マスコミから京子を庇うシーンはそのキャラクターが生かされた良いシーンだったなあ。

その3【京子に無いものを持っている女】・・・山岡久乃さん

京子が2度目に結婚する相手、五来の奥さんを演じられているのは山岡久乃さん。
今、おばあちゃん役と言ったらこのお方!と言っていいほど。
山岡さんもおばあちゃん役しか見たことなかったから、この作品を見ても全く気がつかなかった。
五来夫人は女流作家として活躍されており、知的な女性。
京子が憧れる”頭の良さ”を持ち、それを職業にして自立している。
作家・五来の奥さんとしてはまあ理想的でお似合いです。
登場はたったの1シーンのみ。
時間にして約1分半!なのにめちゃめちゃ印象強くて、存在感がある。
京子と五来の関係がばれて、五来の家で3人で話し合うシーンなのですが、五来夫人しか喋っておりません(笑)五来夫人の独壇場です。
そのたった1分半にお互いがお互いをどう思っているのかが分かる。
夫を取られたと言うことに関しては五来夫人は敗者。でも、負けた感が全然しない。
ああいう場での余裕の出し方がすっごい大人だった。
「きっとこの二人は上手くいくはずない」って思っているんだろうなっていうのが伝わってきたんですよねー。
その余裕感が観客の妄想を掻き立てる。きっとこの後もなんかあるなーって。
京子に無いものを五来夫人は持っていて、五来夫人が持っているものを京子は持っている。
しっかり対比できる安定感でした。

千坂京子という女優は肉感的で外見も美しくて天然で・・・
同性から好かれないタイプというのでしょうか。
私も初めて見た時はこういうタイプ嫌いだなーって思いながら見ていたけど、自分にないものを持っているから嫌いなんだろうなって思う。
あんな風になれたらなっていう願望が、嫌いという感情を引き出すんですねぇ。
この作品を見ていると、人ってホント無い物ねだりだなと思います。
天真爛漫なキャラクターで沢山の人から好かれて、男性からも女優としても人気がある京子だけど、承認欲求が満たされない。
周りから見ればもう十分じゃない?って思うのに。
学問のない自分に自信がないから、女優として認められたくて京子は賞を獲りたがる。
そして家族の愛情を知らないから、自分は子供を産んで普通の家庭を築きたいと願う。
でも自分が欲しい物ってなかなか手に入らないもの・・・
欲しいのは、たくさんの人の薄っぺらい好意よりも、たった一人の絶大な愛。ですかね。
それにしても日本でマリリンモンローを出来る人は若尾文子さん以外に居ないんじゃないかって思います。
あんなにチャーミングでセクシーで、ちょっと抜けているおバカな感じも素敵なんだな。
可愛すぎて笑えちゃうシーンがたくさんです。
この作品の若尾さんのファッションやヘアメイクはほんっと可愛くて、女子にとってはそういうところも見所の一つです。
そして最初のタイトルインがかっこいい!今井正監督のセンスの良さが伺えます。
3年前にDVDが発売されましたので、いつでも見られますよ。

椿弓里奈(つばきゆりな)
1988年生まれ、京都府出身。大阪芸術大学短期大学部卒業後上京し、役者として活動。
主な出演作に【映画】「64-ロクヨン-」瀬々敬久監督、「PとJK」廣木隆一監督【TV】「でぶせん」日本テレビ・Hulu、「犯罪症候群season1」フジテレビ、「フリンジマン」テレビ東京など。
他に今年7月より同じ年の役者6名で”889FILM”を立ち上げ、様々な映画の既存の脚本を使ったワンシーンをyoutubeにて毎週土曜日に配信している。
所属事務所HP⇒http://www.jfct.co.jp/b_tsubaki.html Twitterアカウント⇒@bakiey