映画とカルチャーのwebマガジン「シネフィル」で新しい映像作家にフォーカスした連載企画「新時代/新世代の表現者たち」第四回は福田芽衣監督『チョンティチャ』をご紹介いたします。

この企画は、現在、インディペンデントの映画で多くの20代を中心とした監督を輩出している状況と、日本で開催される多くの映画祭などから、受賞後一般公開されていく作品も多くなってきている中で、いち早く新しい才能を多くの方にご紹介していく連載企画です。

「シネフィル」でも今まで多くの若手、気鋭の監督をフォーカスし取り上げてきております。

この平成がまもなく終わろうとする中で、新しい時代を担うであろう新世代の監督たちの“今”に着目し、監督自身の思いを伝えていくつもりです。

2018年に開催された映画祭などで受賞し、注目を浴びた新進気鋭の映画監督たちを、次々フォーカスして、彼ら、彼女らの新しい表現者が生み出した“映画”と合わせ、監督自身をご紹介していきます。

また、今後ご紹介する各々の監督の作品は、GAGAの配信サイト「青山シアター」ですぐさまご覧いただけます。※期間限定公開の作品もございます

青山シアターでは、ミニシアターやアート系の国内外の作品の他に、現在、日本で開催されている、多くの映画祭などと連動した配信をしており、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)、TIFF:日本映画スプラッシュ、ndjc、MOOSIC LAB、SHORT SHORT、下北沢映画祭そして映画美学校など日本のインディペンデント映画を気軽に楽しめることができる唯一の配信サイトとなっています。

今回スタートした連載の第四回は、東京学生映画祭で実写部門グランプリとなり、下北沢映画祭で準グランプリを受賞した『チョンティチャ』の福田芽衣監督に、質問を問いかけ、新時代、新世代の表現者の思いの一端を答えていただいております。

新時代/新世代の表現者たち④
『チョンティチャ』福田芽衣監督

監督:福田芽衣
1995年兵庫県出身。東放学園映画専門学校卒業。
在学当初は監督志望ではなかったが、初監督作の短編『穴のなか』
制作をきっかけに、映画制作を始める。その後、
卒業制作として二作目『チョンティチャ』を手がけ、本作は第
29回東京学生映画祭グランプリを受賞した。

多くの映画祭で受賞が続きますが、現在どういうお気持ちでしょうか?

正直、はじめは嬉しいという感覚よりも戸惑いの方が大きかったというのがのが本音です。映画祭で一緒になった他のノミネート作もそうですが、現在の自主映画は監督自身の実体験や、自らの内面から出てきたものを映画にしている作品が多いですよね。やっぱり自分の話というのは、ある意味での思い入れが大きいと思うんですよ。そんな中で私の作品は他の人の体験をもとに作られた映画であるので、エネルギーが他の作品よりも劣っているんじゃないかとか、今この作品で認められてしまっていいのか、とか思っていたんです。ですが、各映画祭で審査員をしてくださった方々の話を聞いていると、皆さんが「これは福田芽衣の監督としての未来に対する受賞。次の作品が観たい」と言ってくださっていて。多くの映画祭での受賞を今は嬉しく受け取れています。

福田芽衣監督が、表現として映画を選んだ理由は?

私は大学まで陸上競技に打ち込んでいて。昔から映画は観ていましたが、作りたいと思うほどの熱は持っていませんでした。ありきたりな話なんですが、怪我をして競技ができなくなって半年以上何もせず引きこもっていた時に、映画をこれでもかと観あさりました。どん底の時期にいろんな映画に救われたので、自然と映画という表現に惹かれていきましたね。

影響を受けたものを教えてください。文学、映画、その他ジャンルは問いません。

小・中学生の時の国語の教科書や、漫画ですかね。授業中は先生の話は聞かずに教科書の中の物語をひたすらに読んでいたし、帰宅後は宿題と呼ばれるものが本当に苦手で、やらずに漫画や小説をずっと読んでいました。先生にも呆れられていましたが、諦められて良作をたくさん紹介してくれて、読み終わったら感想を返してというやりとりが習慣になっていました。

原案は撮影などを担当する高橋さんとプロデューサーの池上さんがクレジットされていますが、お二人からこのようなテーマが出たのでしょうか?そして、脚本にはどのようにまとめていったのでしょうか?

テーマは私がこの企画を監督することに決まって、脚本を練っていく段階で見えてきました。名前というものにフォーカスを絞って行ったのも脚本の最後の段階だったと思います。主人公の輪郭を掴むために、その子(高橋チョンティチャ本人)にいろいろ取材を試みたのですが、大事な質問では少しはぐらされるような回答。悩んだ末、それをそのまま書いてやれ〜と、面倒臭いことから逃げる癖のある女の子のキャラクターが出来上がりました。(そしてその癖は私自身にも共通している)

この作品は「ガイジン」と呼ばれる在日外国人女の子の話なのですが、テーマがテーマだけに重くなってしまうのがすごく嫌で。風太という、異性の日本人との淡い関係を描くことで、少しでも観客が軽く寄り添いやすくなればと。全体的に社会問題よりもまずチョンティチャという女の子に興味を持ってもらえるように意識した脚本に仕上げていきました。

一人の少女の疎外感、そして日本においてのガイジンという立場を描いていますが、監督にとって国籍とはなんだと思いますか?そして、個人の名前とはなんなのでしょうか?

答えづらいですが、私は、国籍は親からもらった個性の一つにすぎないものだと思っています。顔や、背の高さなどとと何ら変わらないものです。

個人の名前も、同じようなものではないでしょうか。この作品では名前は、自分のものというだけではなく他者から呼ばれることで認識されるものでもある。ということを意識して描きました。分かりづらいかもしれませんが(笑)

ご自身が監督として今回特に注意したところとかありますでしょうか?

先ほどの質問でも答えていますが、社会問題を描いている作品だけに重く受け取られがちなのでそれは絶対に嫌で。映画は重くならないように、ということです。世界中のどこにでもいる少し強がりで不器用な一人の少女の自分探しの小さなお話として、どう描けるか。それだけですね。

主演の長月凜さんなどは、非常に難しい役を演じていますが、どのように配役を決められていったのでしょうか?また、演技などを指示していったのでしょうか?

チョンティチャ役の長月さんはすぐに決まりました。オーディションで少し話を聞いていると、タイに住んでいたり、アメリカに住んでいたり、少し日本人離れした顔立ちをしていたり。彼女は当時演技経験が少なくて、でもその不器用な感じも役に合っていると感じたんです。

はじめにその時その時の感情を細かく指示はしましたが、チョンティチャは基本的に感情を表に出せないキャラクターだったので、「あんまり感情を出さないで」と。表情が間違っていたら指摘するくらいでした。

次回作の計画などはございますか?もしくは、撮りたいテーマとかあったら教えてください。

今は書いている途中の脚本が3本くらいあります。来年に1本撮って、5月のテアトル新宿での『チョンティチャ』特集上映までに仕上げる予定です。久しぶりに自分の経験や内面から出てきたものを描くので、『チョンティチャ』とはまったく違う作風になると思います。テーマは内緒ですが、楽しみにしていてください。

現在、多くの若い人が映画を撮り始めています。特に女性の表現者が増えているのですが、どうしてなんでしょうか?どう思いますか?

性別がどうだとかはあまり思いませんが・・・。

女性の悲しみや孤独が爆発してしまったんじゃないですかね(笑)あとは、ただ単に女性の表現者が増えたのではなく、社会の目線が女性に向いた(気づいてくれた)んじゃないでしょうか。だから女性が表現しやすい環境が自然に整ったのが今なんじゃないですかね。早く、女性が、とか男性が、とか言われなくなればいいなと思います。

漠然としていますが、10年後にはご自身どうなっているでしょうか?

私は基本的に生きていて本当に運がないんですけど、そういったダメダメな自分を今よりももっと面白がっていて欲しいですよね。そうして生きていれば、撮りたいものもずっと撮り続けられそうな気がします。

映画祭
・第29回東京学生映画祭 実写部門グランプリ
・第10回下北沢映画祭 準グランプリ
・第12回田辺・弁慶映画祭
・第19回TAMA NEW WAVE

[STORY]
ミャンマー人とタイ人のハーフとして日本で生まれたチョンティチャ。自らの生い立ち、居場所、生活、そして名前に違和感を感じながらも、心に無駄な波風を立てぬよう、静かに日々をやり過ごしていた。しかし、ミャンマー人の母と再婚した日本人の高橋との間に子供ができたことをきっかけに改名を勧められ……。いつもより少し蝉のうるさい、チョンティチャの16度目の夏。

監督・脚本:福田芽衣
撮影:高橋チョンティチャ
製作:池上緑
CAST:
長月凜/秋葉智人/荒井乃梨子/油布辰樹/野本雄一/赤瀬一紀
制作年:2017年
製作国:日本
配信時間:40分

下記、青山シアター内で『チョンティチャ』期間限定配信中!

『チョンティチャ』
【期間限定:2018/12/31(金)まで】

その他、PFFアワード2018、下北沢映画祭など作品をご覧なさりたい方は下記サイトより

++青山 シアター++