『真っ赤な星』井樫彩監督&毎熊克哉さん対談インタビュー

井樫監督はキングです。20年後、どうなっているのか楽しみです。

カンヌ国際映画祭に出品された短編の『溶ける』(’16)で注目を集めた新鋭・井樫彩監督と、『ケンとカズ』(’15)以降、数多くの映画に出演し、存在感を放つ俳優の毎熊克哉さんに、井樫監督の長編初監督作『真っ赤な星』についてお話を聞きました。

——毎熊さんが演じたのは、桜井ユキさん演じるヒロインの弥生と不倫関係を続けるも、それでも家庭を捨てることが出来ない賢吾という役でした。毎熊さんにこの役をやってもらおうと思った理由は?

井樫:もともとわたしはあまりオファーをしないんですが、毎熊さんはオファーなんですよ。

毎熊:ご指名ありがとうございます(笑)。

井樫:先に弥生役の桜井ユキさんが決まって。桜井さんと合う人は誰かなと考えた時に、最初に思いついたのが毎熊さんだったんです。毎熊さん以外には考えられなかったですね。

井樫彩監督

毎熊:実は以前、TOKYO月イチ映画祭で、井樫さんの『溶ける』を観ていて、すごくいいなと思ったんです。そうしたら井樫さんが歩いていたんで、話しかけたんですよ。その時に一緒に飲みに行くことになったんですよね。

井樫:そうなんですよ。でもその時はまだ『ケンとカズ』も公開していない時だったので、わたしにとっては物腰の柔らかい、イケメンの毎熊さんというイメージだったんです。それから映画を観たらすごいじゃないですか(笑)。その後も「オラァ」みたいな役が多かったし。

毎熊:オラオラしてましたね(笑)。

井樫:でも本当はめちゃめちゃ優しい役も出来るし、幅広い人なんだけどなという思いもあって。賢吾には、ある種の色気がある人がいいなと思っていたんですけど、毎熊さんにはそれがあるなと。そして毎熊さんなら、弥生が執着するのも分かるなと思って。それでオファーをさせていただきまいた。

毎熊:僕としてもすぐにオッケーでしたからね。

井樫:すぐじゃないですよ(笑)! 

毎熊:いろんな兼ね合いがあったんだと思うんですけど、気持ち的には「井樫さんですか! やります!」という感じでしたよ(笑)。

井樫:でも桜井さんも『ケンとカズ』は観ていたと言っていましたよ。

毎熊:その時は全然会ったことがなくて。でも歳は同じなんですよ。それで調べたら、「遅咲きの新人」と書かれてて。僕も「遅咲きの新人」なので(笑)。シンパシーを感じましたね。

左より井樫彩監督、毎熊克哉さん

——弥生と賢吾に関して、実は劇中で説明していない裏設定があったそうですね。

井樫:そうなんです。実は弥生と賢吾は幼なじみで。陽を誘った天文台は、もともと弥生と賢吾が行っていた場所だったとか…。

毎熊:二人はけっこう付き合いが長いんですよね。だから(主人公の)陽ちゃんと幼なじみの彼の関係性が、そのまま大人になったら弥生と賢吾の関係性になる、と。それは自分の中で大きかったんですよ。二人は大人になってから知り合ったのではなく、もともと人間的なつながりがあったから、ここまでややこしくなってしまったんだと。現場では、そのニュアンスで相談をしましたね。ただ、その距離感が難しいというか…。井樫監督はめちゃくちゃ細かいんですよ(笑)。車の中でのキスシーンとかも…。

井樫:あれはずっと桜井さんからネタにされていますよね(笑)。

毎熊:あれも距離感の問題で。二人がドライブをしていて、賢吾が強引にキスをするというシーンがあったんですけど。でも、もし中学校とか高校からの付き合いだとしたら、強引にキスをするのかな、という気持ちがあって。

毎熊克哉さん

——それで監督と話し合いをしたと。

毎熊:それでも結局はハッキリした答えにはたどり着かずに。現場でやってみようということになったんですけど、桜井さんが運転している時に軽くチュッとやったら、みんなに爆笑されて。監督もあきれて「毎熊さ〜ん!」と(笑)。スタッフも女性が多かったんで、なんだか変な気持ちになって。なんかすいませんと。

井樫:(笑)。

毎熊:ユキちゃんも「はぁ…」みたいなため息ですよ。それからなぜか、僕がキスすることを恥ずかしがっているんじゃないか、となって。ユキちゃんが「ちょっとさぁ…向こうでキスする?」「いやいや大丈夫です。そういうあれじゃないんです」みたいな感じになって。で、次にやるときは思いっきりいきました、という話ですよ(笑)。

井樫:あれはマジで面白かったですけどね。

毎熊:いや…。今思えばすごく面白いですけど…。

井樫:「もっとあたしのことを好きになって!」と言われてたじゃないですか(笑)。

毎熊:言われてました(笑)。僕が思い描いていたシーンよりも、もっと情熱的だったようで。

井樫:桜井さん、あれからずっと言ってましたもんね。中学生みたいなキスだったって(笑)。

毎熊:うん、きっと一生言われるんだろうな(笑)。

——毎熊さんから見た井樫監督はどんな感じに見えたんですか?

毎熊:キングですよ(笑)。監督に限らず、最近は女性の方が強いですからね。この現場も女性がわりと多かったし、パワーバランスも女性の方が強かった。監督って、何があっても折れずに、この作品を最後まで責任を持ってやり遂げるんだ、という力が必要じゃないですか。井樫さんはそこが強烈に強かった。やはりそれくらいの強さがないと、スタッフも束ねられない。たぶん井樫さんと僕は10くらい歳は違うんですけど、それは本当にすごいなと思って。20年後どうなってるんだろうなと思います。

井樫:20年後ってけっこう先ですよね(笑)。

——井樫監督にとって毎熊さんはどのような俳優でしたか?

井樫:毎熊さんは、めっちゃいい顔だと思うんですよ。わたしは、役者って顔だと思っているから。かわいいとか美人とか、イケメンとか。そういうことじゃなくて。顔だと思っているんで。毎熊さんの顔がめちゃいいんですよ。なんだろう…。カッコいいんですけど、そういう軽い感じじゃなくて、重さがあるというか、質感がいいんですよ。デジタルって感じじゃなくて、フィルムっぽいというか。

毎熊:よく分からないですが(笑)。

井樫:どこ目線だと言われそうですけど、フィルムっぽい質感があって、絶対に重宝されるタイプだと思うんですよね。

左より井樫彩監督、毎熊克哉さん

——それではこれから観る方にメッセージを。

井樫:突飛に感じるところもあるかもしれませんが、根本的に描いているテーマは普遍的なことなので、自分の好きな人や、今までの出来事など、観ている方に何かしらリンクする部分があるんじゃないかなと。そこを感じ取ってもらえたらいいなと思っています。実はけっこう男の人が泣いたくれていたりもするんですよね。

毎熊:何というか、男には描ききれない何かがあるんですよね。本当にピッと触ったら壊れてしまいそうな、柔らかい感じというか…。この映画がどういう映画なのかをひと言で言うのは難しいですが、井樫さんにとって初の長編作品なんですが、初めての作品ならではの、井樫さんのトゲのようなものがバリバリに出ている感じがするんですよ。これは決してカッコつけては絶対に撮れないものなので。でも、それと同時にはかなさのようなものもにじみ出ているし。とにかく「もう!」とじれったくなるくらいの、不器用なやつらがたくさん出ていますから。そういう意味では井樫さんも不器用な人なんだろうなと。そういうものが出ている映画なので、ぜひとも観てもらいたいなと思いますね。

井樫:それと毎熊さん的な見どころは、キスシーンですよ。わたしの中で二人がピッタリすぎて、テンションが超あがるんですよね。身長差とかも20センチくらいで。マジでエモいんですよ(笑)。

左より毎熊克哉さん、井樫彩監督

お二人の対談は、12月に発売するシネフィルブックvol.2で、より深い内容をご紹介いたします!

井樫彩監督
1996年生まれ、北海道出身。現在22歳。学生時代に卒業製作として制作した『溶ける』が、ぴあフィルム・フェスティバル、なら国際映画祭など国内各種映画祭で受賞し、第70回カンヌ国際映画祭正式出品を果たす。今作『真っ赤な星』が初長編作品、劇場デビュー作となる。また、山戸結希プロデュースによるオムニバス映画『21世紀の女の子』の公開も控える。

毎熊克哉
1987年3月28日生まれ、広島県出身。
初主演作『ケンとカズ』(16)で、第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞するなど、大きな評価を得る。今年の映画公開作に『北の桜守』、『万引き家族』、『空飛ぶタイヤ』、『純平、考え直せ』、主演『私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください』『私の奴隷になりなさい 第3章 おまえ次第』、『止められるか、俺たちを』等がある。

インタビュー・文:壬生智裕
写真:田村充

編集:矢部紗耶香

井樫彩監督長編デビュー作『真っ赤な星』本予告

井樫彩監督長編デビュー作『真っ赤な星』本予告

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あらすじ
片田舎の病院に怪我をして入院した14歳の陽(小松未来)。 彼女はいつも優しく接してくれていた看護師の弥生(桜井ユキ)に対し、特別な感情を抱き始めていた。だが退院の日、弥生が突然看護師を辞めたことを知る。1年後、陽は買い物の帰り道、偶然弥生と再会する。そこにいたのは、過去の優しい面影はなく、男たちに身体を売ることで生計を立てている弥生だった。学校にも行けず、母親とも上手くいかず、行き場のない陽は、ある日、母の彼氏から暴行され、吸い寄せられるように弥生に助けを求める。一方、弥生には賢吾(毎熊克哉)という恋人がいた。賢吾には妻子があったが、弥生は決して多くを求めない。満たされない現実を冷めた目で見つめ、互いに孤独を抱える陽と弥生は、弥生のアパートで心の空白を埋める生活を始めていく——。そこで陽は、弥生が抱える悲しい秘密を知るのだった。

■キャスト:
小松未来・桜井ユキ/毎熊克哉・大原由暉/小林竜樹・菊沢将憲・西山真来/湯舟すぴか・山谷武志・若林瑠海 
大重わたる(夜ふかしの会)久保山智夏・高田彩花・長野こうへい/中田クルミ(声の出演) PANTA(頭脳警察)
■スタッフ:
【エグゼクティブ・プロデューサー】松坂喜浩
【プロデューサー】菅原澪、島野道春
【アソシエイト・プロデューサー】髭野純、夏原健
【撮影】萩原脩【照明】仁藤咲【録音・整音】柳田耕佑【衣装】藤山晃子【ヘアメイク】藤原玲子 【美術】内田紫織【助監督】満岡克弥【編集】小林美優【カラリスト】川村尚寛【音楽】鷹尾まさき【スチール】北島元朗、大塚健太郎【デザイン】田中進
2018/日本/カラー/3.1ch/16:9/101分 
製作・配給:映画「真っ赤な星」製作委員会
配給協力:SDP

©「真っ赤な星」製作委員会

2018年12月1日(土)よりテアトル新宿ほかにて順次公開!