芸術の秋たけなわ、今回はその作品の希少性と、光の表現の美しさで今なお、世界から脚光を浴びるフェルメールの美術展をご紹介致します。

本展は、上野の森美術館と大阪市立美術館で2018年から2019年にかけて開催され、「光の魔術師」ともいわれるオランダの画家、ヨハネス・フェルメールの傑作が東京展では9点(一部展示替えあり)、大阪展では6点展示されます。

その中には皆様も一度は目にされたことのある《牛乳を注ぐ女》も含まれています。
フェルメールはオランダの最も偉大な画家の一人で、日常生活の中の何気ないワンシーンを、光と影の技法を見事に用い、静寂の中、穏やかな光に包まれた世界を描いています。
精密な描写力や素材感、「フェルメールブルー」とも称される青をはじめとする美しい色彩も魅力のひとつですが、絵画のモチーフが持つ象徴的意義、絵画に込められたメッセージ性も観る人を魅了してやまない理由のひとつでしょう。
世界的にも一大ブームとなったフェルメールですが、それは近年になってからでした。
わずか43歳でこの世を去ったため、彼の知られている作品数は(研究者の間でも誤差はありますが)一般的に35作品しかなくて、ルーベンスやレンブラントほど有名ではなかったのです。
ですが、1995ー1996年に米国ワシントンと、オランダのデン・ハーグで開かれた「フェルメール展」で、現存する作品の6割近い20点以上の作品が人々の目に触れ、一気に爆発的人気を博したのです。

このブームから日本でも大阪市立美術館で2000年に初の「フェルメールとその時代展」が開催され、東京では2008年に当時国内最多となる7作品の「フェルメール展」が東京都美術館で開催され、来場者93万人の大盛況となりました。
このたびの日本における「フェルメール展」は現存する作品はわずか35点ともいわれている中から9点が集まる日本美術展史上、最大の貴重な機会です。

フェルメール以外に、オランダの黄金期を代表する、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ステーンなど世界的に評価の高い作品も展示されています。
ルネッサンス期にラファエロ、ミケランジェロ、ダビンチという三大画家によって、宗教画や、肖像画のような写実的絵画は大成されました。
今回の展覧会では、王侯貴族が主体となった記念碑的な絵画ではなく、庶民が主体となった庶民の日常生活を映し出した17世紀オランダの風俗画、中でもフェルメールの光に包まれた独自の芸術世界をご堪能いただきたいと思います。
是非、この機会に美術館に足をお運びください。
では今から神秘的なフェルメールの世界をシネフィル上でもいくつかご案内いたします。

ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》1658年-1660年頃 アムステルダム国立美術館Rijksmuseum. Purchased with the support of the Vereniging Rembrandt, 1908

この作品は、フェルメール28歳頃に描かれたもので、早くから高い評価を得ていた代表作です。
庶民の日常生活を描いた台所で働く女性は、当時のオランダでよく用いられるテーマでした。
窓から降り注ぐ日差しを受けた女性の衣装には、フェルメールの絵画の特徴でもある黄色と青の色彩の対比が見られます。
青色の絵の具はラピスラズリという鉱石が使われていて、金よりも高価なものでした。
青色は純潔を表し、聖母マリアの衣装とされていたことから、この絵は聖母像とも考えられます。
パンや、壺、注がれる牛乳などにも光が当てられ、フェルメールの鋭い観察力と点描画の技術によって、超リアルに描かれています。
静寂の中、女性が注ぐ牛乳が流れる様子にスポットが当てられ、簡素でありながら、フェルメールの描く究極の美学が感じられます。

ヨハネス・フェルメール《マルタとマリアの家のキリスト》1654-1655年頃
スコットランド・ナショナル・ギャラリーNational Galleries of Scotland, Edinburgh. Presented by the sons of W A Coats in memory of their father 1927

現存するフェルメールの作品の中で最も大きなサイズの初期作品です。
庶民の生活を映し出した風俗画が主流になる前はこういった宗教画や、肖像画などが中心でした。
キリストをもてなすマルタが、家事を手伝わずに熱心にキリストの話を聞く妹のマリアに対して不満に思い、キリストに訴えていますが、キリストは、座って熱心に話を聞くマリアを讃えています。
新約聖書「ルカ伝」10章の一節です。
光と影の効果が伺えます。

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く婦人と召使い》1670-1671年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo © National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4535

手紙はよく用いられた題材です。一心に手紙を書く女主人と、窓の外を眺めている召使い。
フェルメールの絵画に登場する人物は寡黙で、ミステリアスです。
画中画は、《モーセの発見》という絵のようであることから、和解の大切さを説かれているという説があります。
開けられたカーテンから、部屋の様子を覗き見るような画面構成も興味深く、フェルメールの絵画の特徴です。
窓から差し込む光、床の大理石の模様も効果的です。
床には、この時代に手紙に使われたであろう封印やシーリングワックス(封蝋)が落ちています。

ヨハネス・フェルメール《ワイングラス》1661-1662年頃 ベルリン国立美術館 © Staatliche Museen zu Berlin, Gemäldegalerie / Jörg P. Anders

初期から中期の作品で、日本初公開となります。
テーブルの上にある楽譜や、椅子の上の古楽器、リュートは「愛」を暗示します。
黒い帽子の男性が女性にワインを勧めて誘惑しようとしているようですが、女性の視線の先にはステンドグラスの窓があり、その中央には馬の手綱を持つ女性像が描かれています。手綱は、「節制」を意味するので、この絵は訓戒の寓意と考えられています。

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女》1665年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Gift of Harry Waldron Havemeyer and Horace Havemeyer, Jr., in memory of their father, Horace Havemeyer, 1962.10.1

フェルメールは手紙をテーマに描いた作品は6点ありますが、人物がペンを休めて
微笑むようにこちらを見ているのはこの作品だけです。
背景になっている画中画に愛の象徴である弦楽器が描かれていて、手紙は恋文で女性の表情からも、幸せそうな様子が伺えます。
毛皮付きの黄色の上着も、《真珠の首飾りの女》や、《女と召使い》など6作品に登場しています。この白い毛皮はとても高価なもので、貴族の衣服であり、高貴の象徴とされていました。フェルメール没後の財産目録にも挙げられていたようです。
柔らかな光が女性や耳もとの真珠のイヤリングに当てられています。

ヨハネス・フェルメール 《赤い帽子の娘》1665-1666年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Andrew W. Mellon Collection, 1937.1.53 ※12月20日(木)まで展示

日本初公開の作品。(12月20日まで)小さなサイズの板絵で珍しい作品です。
真っ赤な帽子をかぶりこちらを振り向く女性。彼女の顔の大半は帽子の陰になっていますが、左頬や、鼻先、瞳、耳元の真珠には光が当てられ、明るく照らし出されています。
背景の部屋は、タペストリーが掛かっていますが、薄暗く、人物をより効果的に浮かび上がらせています。

ヨハネス・フェルメール《リュートを調弦する女》1662-1663年頃 メトロポリタン美術館Lent by the Metropolitan Museum of Art, Bequest of Collis P. Huntington, 1900 (25.110.24). Image copyright © The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY

17世紀オランダの風俗画のテーマとして、男女が楽しく集う情景がよく描かれていました。
そして、その場を盛り上げる音楽は欠かせないもので、楽器は恋愛を暗示するモチーフとなっていました。
薄暗い室内で、女性はひとり、楽器を調弦しています。背景にフェルメールの作品によく使われる地図が掛けられ、その横には誰も座っていない椅子が置かれていることから、愛する人が遠方にいて不在であることを示唆しているようです。
女性の窓に向けられているような眼差しが、調弦に集中して何気なく外に目をやったのか、もしくは、愛する人の帰りを期待して窓を見ているのかが興味深いところです。

ヨハネス・フェルメール《真珠の首飾りの女》1662-1665年頃 ベルリン国立美術館 © Staatliche Museen zu Berlin, Gemäldegalerie / Christoph Schmidt

窓辺から柔らかい日の光が射し込んで、黄色のカーテンや、女性の黄色い上着に映えています。
室内に立つ女性は、真珠のネックレスを付けようと、壁にかかる小さな鏡を見つめています。
僅かにほころんだ口元と、うっとりとしたような眼差し。
真珠は聖母の純潔の象徴とされています。
静寂の空間の中に日常の女性の何気ない瞬間をとらえた作品です。
画面手前の暗い部分とシンプルな白い壁との対比も見事です、
最初には壁にフェルメールの作品によく登場する地図が描かれていたようなのですが、塗り消されたことが判明しています。
不要なものをそぎ落とした究極の引き算の美学が感じられます。
「光」の画家フェルメールらしい作品のひとつでしょう。

ハブリエル・メツー《手紙を読む女》1664-1666年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo © National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4537

フェルメール以外にも、黄金期の17世紀オランダ風俗画家はたくさんいました。
ハブリエル・メツ―もその一人です。
巨匠レンブラントの影響はあまり受けず、農民や、一般市民の日常を明るくユーモラスに描いたヤン・ステーンの影響を受けました。
穏やかで優しい雰囲気で、家庭生活をテーマにしています。
とても精密に細部までこだわって描かれています。

ピーテル・デ・ホーホ《人の居る裏庭》1663-1665年頃 アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)

フェルメールより3歳年長でオランダ風俗画の第一人者のひとりです。
室内で繰り広げられる日常のさりげないワンシーンを描いた先駆者で、室内に差し込む光の表現などは、フェルメールに影響を与えました。

ヘラルト・ダウ《本を読む老女》1631-1632年頃 アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum. A.H. Hoekwater Bequest, The Hague, 1912

人生を重ね深みのある老女が読書をしています。暗い画面に本や老女の顔に光が当てられ、神様のような神々しさが感じられます。
信仰心の深いオランダ人の精神性が伺える作品です。

ヤン・ステーン《家族の情景》1665-1675年頃 アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)

ヤン・ステーンは当時、最も人気の高いオランダの風俗画家でした。
農民や一般市民の音楽会やお祭りなど日常風景を明るく、ユーモアたっぷりに描いています。
庶民の暮らしぶりが生き生きと描かれていて、物語のようです。

みなさま、いかがでしたでしょうか。
いままで肖像画や宗教画といった王侯貴族のものであった絵画が、庶民のものとなり、農民や市民の日常生活の何気ない瞬間が題材にされるようになりました。
そして、オランダ市民の各家庭に絵画が飾られるようになったのです。
様々なモチーフに暗示された寓意があり、物語や、訓戒、いろいろなメッセージが伝えられています。様々な絵に隠されたメッセージを紐解いてください。
フェルメールをはじめ、17世紀オランダの黄金時代を彩った、たくさんの風俗画に出会う絶好の機会です。

また、石原さとみさんによる、展覧会ナビゲーションや、展覧会コラボグッズなど、楽しんでいただける企画が満載です。
2月16日からは、大阪市立美術館へ巡回いたします。(一部東京展と展示が異なります)
芸術の秋、是非、「フェルメール展」をご堪能ください。

展覧会概要

会  期:平成30年10月5日(金)~平成31年2月3日(日)
※12月13日(木)は休館。
 
開館時間:9時半~20時半(入館は閉館30分前まで、開館・閉館時間が異なる日もあり)
 
日時指定入場制:待ち時間緩和を目的とし、入場時間を6つの時間帯に分けた前売日時指定券での入場を原則としており、当日日時指定券(前売指定+200円)は前売日時指定券に余裕があった時間枠のみ販売。 
一般2500円、大学・高校生1800円、中学・小学生1000円、未就学児は無料。
 
会  場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
 
主  催:産経新聞社、フジテレビジョン、博報堂DYメディアパートナーズ、上野の森美術館
 
後  援: オランダ王国大使館
 
企  画:財団ハタステフティング
 
特別協賛:大和ハウス工業株式会社、ノーリツ鋼機株式会社
 
協  賛:第一生命グループ、株式会社リコー
 
特別協力:NISSHA株式会社
 
協  力:ANA、KLMオランダ航空、日本貨物航空、ヤマトグローバルロジスティクスジャパン

日本美術展史上最大の「フェルメール展」@東京 cinefil 読者プレゼント《今回はチケットではなく「フェルメール展」特製チケットファイル(非売品)》

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、日本美術展史上最大の「フェルメール展」@東京 cinefil 読者プレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上10名様に、「フェルメール展」特製ファイルをお送りいたします。

☆応募先メールアドレス info@miramiru.tokyo
*応募締め切りは2018年11月25日 24:00 日曜日

記載内容
1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
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