世界に誇る日本の巨匠で、今もなお国内外で高い評価と支持を得ている小津安二郎。
生誕 115 年にあたる今年、 4Kデジタル修復版特集上映「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」が、6 月 23 日(土)より角川シネマ新宿にて始まりました。
これを記念しまして、5月のカンヌ国際映画祭にて4Kデジタル修復版でワールドプレミア上映された『東京物語』 ご出演の香川京子さんのトークショーが行われました。
芸能生活70周年となる今もなお、凛とした美しさと品格がある香川さんが、映画界に入ったときの思い出や小津 監督との印象と当時の秘話など、ここでしか聞くことのできないとても貴重な話をじっくりお話いただきました。
【日時】2018年6月23日 10:00『東京物語』上映終了後
【場所】角川シネマ新宿
【登壇者】香川京子(女優)、立花珠樹(共同通信社編集委員)
● 今なお世界から賞賛される『東京物語』ご出演香川京子さん登壇
上映後の余韻冷めやらぬ中、香川京子さんが登場すると、満席の客席から割れんばかりの拍手!
4K デジタル修復版を見て
「今はもうなくなってしまった尾道の瓦屋根がピカピカと輝いていて感激した」と言う香川さん。
「『東京物語』の尾道のシーンは実は 2 カットしか出ていないんです、あとは大船のセットで撮影した」 と当時の撮影風景を思い出し、
「現場に入るとカメラが低い位置にどんと据えられており、小津監督は自分の決めたフレームの中に人物や物をはめ込んでいくようだった」と振り返る香川さん。
ただ、方言については厳しくて「ありがとう」のイントネーションも大変苦労したと笑顔で語っていた。
● 人生の岐路 - 小津監督との出会い
香川さんの義理の叔父は映画プロデューサーの永島一朗さん。
「叔父さんに連れられて行った銀座の東興園でたま たま小津監督に挨拶することがありました。その後、撮影所の近くの料理屋で改めて小津監督と話した。
「あれが面接だったんでしょうね」と笑う香川さん。そこから『東京物語』への出演が決まったという。
「でも撮影中もまだ若かったこともあって、監督さんとお話しする機会はなかなかなかった。」しかしそんなある日小津監督と話すチャンスが来た。「照明の準備を待っている間だったでしょうか、小津監督が「僕は世間のことにはあまり関心がないんだよと」話していました。
私自身が社会人の 1 人として世間のことをもっと知っていこうと自覚したところ だったから、監督さんの言葉の意味がよく理解できないまま何十年か経って、小津監督の「人間を描けば社会のことは自然に出てくる」という言葉を知り、未だにとても印象に残っているんです。」と監督のことをしみじみと思い出していた。
● 小津安二郎監督と伝説の女優・原節子さん、共演者たちとの秘話
オシャレと評される小津監督のファッションについて聞かれると、
「小津監督はいつも綺麗な真っ白なシャツを着 こなしていた、明るい「白」のイメージが強いです。」と香川さん。
原節子さんについては、「『東京物語』に出演したのは小津映画で見るような女性とはまた違って「お酒も、特にビールがお好きだったようです。とっても明るい方で豪快に笑う元気で楽しい方だった。飾らない人でとても優しかった。」と振り返った。また、原節子さんとは『東京物語』撮影時に旅館での部屋が隣だったようで、「嬉しくて遊びに行かせてもらったりした。実は小津監督のことはそんなに知らなくて、原さんと共演できることが本当に嬉しかったんです 。」 と笑った 。
笠智衆さんについて聞かれると、「特に芝居をしなかったとしてもそこにいてくれるだけで安定感と安心感を与える、すごい存在感のある人物だった。」と語る香川さん。
そんな笠智衆さんは「実は『東京物語』撮影当時、実は 40 代で 70 代の父親役を演じていた。すごいですね。」と香川さんが語り、「背中に布団を入れて、腰が曲がった感じを出して、自分と 5,6 歳しか違わない杉村春子さん、山村聰さんと親子役を演じていたんです。妻役の東山千栄子さんは笠智衆さんより 14 歳年上、それで夫婦として演じていたんです」と付け加え会場の驚きを誘った。
● 監督荒らし?!の香川京子さん。
小津作品だけでなく、様々な監督(溝口監督、成瀬監督、黑澤監督等)作品に出演されてきた香川京子さん、そのことに触れると、「私、監督荒らしって言われるんです!自分に自信もないし、「この役やらせてください!」ということも自ら言ったこともなくて、不安と緊張の連続で荒らした覚えなんかないのに、そう言われたことがあるんですよ(笑)」と会場を笑いに包んだ香川さん。
自分が女優になるなんて思ってもなかったという香川さん。「これが自分の仕事です、と言えるものを探していたんです。未だに女優になりきれなくて、こんなでいいのかしらと思うんですよ・・・」と茶目っ気たっぷりに話し た。
「それでもこういう機会があればまた色々な場所でお話したいと思っています。映画はやっぱり大きなスクリ ーンで観て欲しいですね。」と締めくくった。
日本そして世界の映画史に燦然と輝く 7 つの名作たちー
『晩春』
『麥秋』
『お茶漬の味』
『東京物語』
『早春』
『東京暮色』
『浮草』