cinefil連載【「つくる」ひとたち】インタビュー vol.2
江口カン監督の映画『ガチ星』で主人公、濱島浩司のライバルで孤高のエース久松孝明を好演している若手注目俳優の福山翔大さん。今回は、福山さんと同世代の映画監督の内山拓也さんと、スタイリストの松田稜平さんによる鼎談インタビューです。「感覚や波長が合う」と話す3人に、映画『ガチ星』について、それぞれの経歴や親しくなった切っ掛け、映画づくりに関するお話を伺いました。
ーーはじめに、3人が仲良くなった切っ掛けを教えてください。
福山:松田稜平とは、参加した飲み会に1人だけポツンと馴染めていない青年がいて(笑)。その時、僕パンチパーマと髭だったんですけど、その姿がめちゃくちゃツボに入ったらしく、稜平に「面白いね」って話しかけられたのが切っ掛けですね。そこから映画の話になって、お互い『イントゥ・ザ・ワイルド』が好きで、そこからずっと『イントゥ・ザ・ワイルド』だけの話をしてました(笑)。お互いの好きなものの話をしている中で、感覚が合うなと思って。気付いたら、出会ったその日に自宅に泊まりに行ってました(笑)。
ーー福山さんと内山さんは、どのように知り合ったのでしょうか?
福山:稜平を介してお互いの存在は話では聞いてたんだよね。稜平の事務所(通称:基地)で、映画を観ることになって。で、その時に・・・。
内山:「やっと会えた!お前が翔大か!」って(笑)。
松田:好きな人と好きな人を会わせるのが好きなんで。
福山:初対面の時はお互いの自己紹介も特に無く、「あ、どうも」みたいな感じで(笑)。喋っていくうちに、映画の趣味だったり、感覚が合ったんですよね。気兼ねなく楽に一緒に居れるっていうか。
ーー福山さんの印象はいかがでしたか?
内山:その日はあまり喋らなかったですね(笑)。僕も翔大もあまり喋るタイプではなくて。でもまた会えるかなと思って、一応連絡先だけ交換しました。
福山:今となっては週3くらいで会ってるっていう(笑)。
内山:一緒に居て波長が合って楽なんですよね。松田も同級生なので気にしないし。
ーー感覚や波長が合うのは大事ですよね。では次に、皆さんが今の仕事を志した切っ掛けを教えてください。
福山:僕は、ウルトラマンとか仮面ライダーを観て育っていたんですけど、親父がジャッキー・チェンとブルース・リー大好きだったんです。だから子供の頃は、変身するヒーローと、バキバキな身体能力があるヒーローの2種類が居たんですよね(笑)。成長していくうちに、ジャッキーやブルース・リーって本物の人間なのになんであんなかっこよく見えるんだろう?って考えていた時に「映画の中に居るからじゃない?」って気付いて。
ーー子供の頃から映画をよく観ていたんですね。
福山:中学3年生の人生を考える進路相談の時に「俳優になります!」って言っちゃったんです。でも、正直その時はまだふわふわしていて。高校までは福岡に居ようと思っていたので、とりあえず映画を観ようと、高校3年間で1000本観ることをノルマに、近所のGEOでレンタルして片っ端から観ていました。そして、何かアクションも起こさないとあの業界に入っていけないんじゃないかと思って、福岡にある養成所にも通い始めたんです。そこで、とあるオーディションがあった時に、今の事務所の人が声をかけてくれたのが転機になりましたね。
ーーありがとう御座います。では続いて、松田さんお願いします。
松田:僕は物心ついた時から図工が好きで、絵を描いたりしていました。そういう仕事がしたいなって考えている時に、オアシス、ニルバーナ、カート・コバーンと出会って、そこから服が好きになりました。文化服装学院に通ってる時も、服について研究するより、「この人がこう着ているからカッコイイ」という所に興味があって。「『まほろ駅前多田便利軒』の松田龍平さんが着てるこのコートがなんでカッコイイんだろう?」という気付きから、映画に携わりたいと思って、映画を担当してる師匠に弟子入りしました。
ーー『まほろ駅前多田便利軒』が切っ掛けだったんですね。
松田:あとは『横道世之介』ですね。
内山:『横道世之介』は、師匠(澤田石和寛さん)がやってると思ってたんでしょ?
松田:そうそう(笑)。『横道世之介』を観て、この映画のスタイリングをしている人の弟子につきたいと思って調べたんです。その時ちょうど、澤田石さんがTwitterで『横道世之介』のことをあげていて、「この人がやってるんだ」って思ってDMを送りました。面接の時に「何を観て来たの?」と聞かれたので「『横道世之介』を観ました!」って言ったら「俺、それやってねえ!」って。
一同:(爆笑)
松田:でも「面白いから明日から来い!」と言われて、飛び込ませてもらいました。
ーーある意味ご縁ですね(笑)。内山さんはどのような経緯だったのでしょうか?
内山:僕も最初はファッション・スタイリストの方でした。通っていた古着屋の店員さんに『式日』っていう庵野秀明監督の作品を見せてもらった時の衝撃がすごくて。映画であんな服装ができるんだったらと思って、文化服装学院に通っていました。学校に通いながら、外でもスタイリストのアシスタントをしていて、とある映画の現場に行ったんです。そこで、映画の撮影している様子を見ていたら、服とかどうでも良くなっちゃって(笑)そこから、「あの現場の中に入りたい。カチンコを打つ人になりたい」って思うようになりました。
ーーそこから映画の道へ?
内山:学校を卒業してからはフリーターの時期が続いて、演出部、制作部、美術部などでいろんな撮影現場に参加していました。現場に参加していろんな人と出会っていく中で、僕のターニングポイントになった、中野量太という人に出会って。「僕を使ってください!中野さんの為ならなんでもやります!」って履歴書を直接中野さんに渡しに行ったんです。暫くして中野さんが連絡をくれて、『湯を沸かすほどの熱い愛』という作品の現場に助監督として入りました。その後は、商業の現場とかも全て断って、お金を貯めて自主制作で『ヴァニタス』という作品を撮りました。現場で演出部としてどんなに頑張っても、その時間が自分自身にすぐ直結するかどうかはまた別なんですよね。もちろん自分の経験値にはなりますが、ダメな助監督だったんです(笑)。中野さんには感謝していますし、今でもいい関係を築いています。
ーー内山さんと松田さんは『ガチ星』を観て、どのようなことを感じましたか?
内山:脚本が本当に素晴らしいですよね。挫折して乗り越える作品って、観始めてすぐ「クソだな」って思う瞬間があって、その「クソ」がもう1回きて、大体の作品はそこで終わるんですけど、『ガチ星』は、あともう2回くらい来るんですよね(笑)。でも、それが嫌味たらしくなくて、「ここまでやるのか?」って思う頃には、もう濱島のことが好きになってるんですよね。
松田:僕は、目を背けたくなる瞬間もあったけど、自分と照らし合わせながら、自分の経験と重ね合わせながら、観ていました。やる気をもらえる作品ですね。あと、濱島の衣装も最高でしたね。リアルな世界っていうか。タバコの匂いとかも感じるくらい、生きていました。
内山:あと、部屋も良いよね。あの2階の。
松田:わかる!(笑)
ーー福山さんは、お2人の感想を聞いて、いかがでしたか?
福山:『ガチ星』についてこんなに話せるのが嬉しいですね。自分に刺さりすぎて、目を背けたくなる瞬間もたくさんあると思うんですけど、そういう瞬間を描いてあげることで、逆に濱島の人生を通して、弱さすらも肯定されていくわけじゃないですか。だからものすごく前向きな作品だと思うし、ちゃんと“生”に向かってる作品だなと思うんですよね。
ーー濱島にとっての久松のように、ライバルや刺激を受ける存在に対してはどう感じていますか?
福山:ある時期までは、ライバルがいっぱいいる東京の中で、1人1人を追っていたんです。「アイツ面白いことやってんなー!」とか「良い芝居してんなー!」とか。でも、とある時から、これは自分との戦いだなって気付いて。どう見せたいかって考える時に、はじめて他人が出てくるんですよね。それ以外は、ほぼ自分との戦いです。
ーー松田さん、内山さんはいかがですか?
松田:僕もほぼ同じですね。自分でやったことは結果として出ていくし、解決することも自分でしかできない。だから常に「自分はこうなんじゃないか?」っていうのを、結構なスパンで見直しています。わけわからなくなる時もあるんですけど(笑)。
内山:僕は少し前まで「早く売れたい、見返したい」という一心で、『ヴァニタス』を作った時も反骨精神だったんです。でも今は、もう自分のやりたいことを突き詰めるのみですね。「映画」という、無くても良いものに人生を変えられてるんで。
ーー今はメジャーやインディーズなど、様々なカタチで映画が作られて公開されていますが、3人はこれからの日本映画をどう見ていますか?
福山:『ガチ星』は、予算的にメジャーとインディーズの間くらいで、全キャストオーディションなんですよね。僕は、今こういう作品に1番可能性が詰まっていて、もっとこういう作品が増えて良いと思っているんです。
ーー監督視点だと、内山さんはいかがですか?
内山:思うことは正直いっぱいあるんですけど、映画作りってお金無かったらもう工夫しかないって思っていて。何百万だろうと、何千万だろうと、何億だろうと、金は無いんです。だから「どうやるか」だし、「どう工夫するか」が大切で。ギミックじゃなくて、どう脚本に落とし込んで、いかに物語やキャラクターを厚くするかってことに注視して全力でやっていくことで、映画は面白くなるとは思っていますね。
福山:稜平はどう?本を読んで、キャラクター像を膨らませて、毎回スタイリングを考えるわけじゃん。
松田:もう、気付きの連続ですね。デザイン画を書いて、その通りに衣装をつくるっていう予算じゃない限りは、在り物の洋服をひたすら集めています。衣装合わせで着せて、思い描いていたのとイメージが違ったというのは全然あるし。そこでまた考えて、衣装を探しに回っていますね。そういうことの連続で辿り着いてるというか、毎回もがきながらやっています。
ーーでは最後に。この3人で映画をつくる日はあるのでしょうか?
内山・松田:まだ言えないですね。
福山:でもまあ、近いうちにあるんじゃないですかね(笑)。3人が軸になって、いろんな人を繋げて、あるグルーヴができたらすごい面白いなって思うし。ちゃんと作っていこうや、っていう気持ちです。
映画『ガチ星』
5月26日より、新宿K’s cinemaほか全国順次公開中
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cinefil連載【「つくる」ひとたち】
「1つの作品には、こんなにもたくさんの人が関わっているのか」と、映画のエンドロールを見る度に感動しています。映画づくりに関わる人たちに、作品のこと、仕事への想い、記憶に残るエピソードなど、さまざまなお話を聞いていきます。時々、「つくる」ひとたち対談も。
矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。
雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・企画・宣伝・取材など。TAMA映画祭やDo it Theaterをはじめ、様々な映画祭、野外映画イベント、上映会などの宣伝・パブリシティ・ブランディングなども行っている。また、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。
写真:金山 寛毅
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