ハリウッドでSpecial Make-up Effectの第一線で活躍するアーティスト、片桐裕司さんに会ってきた!

今回は、ハリウッドで映画監督/キャラクターデザイナー/彫刻家として活躍する片桐裕司さんにお話を伺ってきました。
片桐さんは高校卒業後18歳で単身渡米、19歳からTV・映画の特殊メイク、特殊造形などSpecial Make-up Effect分野でキャリアを重ね、1998年にはTVシリーズの「Xファイル」のメイクでエミー賞を受賞。代表参加作品に「パシフィック・リム」「パイレーツ・オブ・カリビアン 命の泉」「ハンガーゲーム」など、現在は「キャプテンマーベル」に参加しているという、まさにハリウッドの第一線で活躍するアーティスト。

本記事は、片桐さんの初長編監督作であるホラー映画「ゲヘナ〜死の生ける場所〜」が今夏7/31(月)~8/5(日)に東京で上映されるという事で、そのお話を中心にお届けします。

映画監督デビューへの途

Special Make-up Effectの分野でキャリアを重ねていた片桐さんが映画監督になろうと決心して行動を始めたのは2003年。長編の撮影に辿り着くまで12年かかったと言います。

始めは短編映画を作りそれをプロデューサーに見せ、執筆中の脚本を売り込むという事をしていたそうです。短編の第1作を撮影したのは2005年、幽霊屋敷を舞台にしたホラーで、その作品を評価してくれた知人の紹介により100万ドル予算の長編映画の監督の候補になりました。
残念ながらその企画では最終的に選ばれるには至らず、悶々とした映画を撮りたいという気持ちを満足させる為に短編2作目に着手。それが完成する頃に今度は300万ドル予算の長編監督のオファーがありました。プロデューサーは大変乗り気だったそうですが出資者が名前のある監督の起用を望んだ為、ここでも長編監督デビューのチャンスを掴むには至りませんでした。

その後短編3作目を制作しますが、これ以上短編を作っても次に進めない、人に期待せずに自力で長編を作らねばならないと考えた片桐さんは、長編の構想に取り掛かりました。それが2007年頃だったと振り返ります。

「ゲヘナ〜死の生ける場所〜」の基となるアイディアに辿り着き、Special Make-up Effectの仕事の傍らに脚本を執筆、自らキャラクターの造形も作ってプロデューサーにピッチする事を続けますが、なかなかうまくいきませんでした。そんなある日、以前仕事をした工房の社長が自ら映画を企画してクラウドファンディングで製作資金として38万ドルを集め、それを目の当たりにした片桐さんは心の底から”これだ!”と思ったそうです。

クラウドファンディングで約24万ドル!

クラウドファンディングは、有名無名や業界のしがらみなどなく、純粋にその企画に対して人々が投資する場。本当にチャンスのある手段だと思います。
片桐さんは2013年から約1年かけてアートワークやプロモーション映像などの準備を進め、2014年にクラウドファンディングサイトのKickstarter(キックスターター)を使ってクラウドファンドを開始します。

実はその時の最初のトライは、目標金額が集まらずに失敗に終わりました。(キックスターターは、目標金額に達成しなければお金が入らないというAll or Nothing方式をとっています。)
しかし自分の企画のキックスターターでの反響が良かった事から片桐さんの中には確実な手ごたえがあり、翌年に再度挑戦を試みます。2回目の挑戦では目標の22万ドルに対し約24万ドルを集め達成し、その資金を元に「ゲヘナ〜死の生ける場所〜」を製作されました。

2回目の挑戦にあたってはプロジェクトの売り文句や見せ方を一新し、期間中に多くのキャンペーン動画の更新を行っていました。それらの動画がとにかくネタとして素晴らしいのでいくつかご紹介させて頂きます。

監督自らが体張ってます。

Desease

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前回記事でご紹介したTakatoさんが…!

I'm backer

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「ゲヘナ〜死の生ける場所〜」は高次元の脚本構成が光る怪作

そうして長い年月と片桐さん他スタッフの多大な労力の末に完成した「ゲヘナ〜死の生ける場所〜」、拝見させて頂いたのですが非常に楽しめる映画でした。
5人の登場人物が閉鎖された空間に閉じ込められる展開や各人物の性格配置など、ホラーの王道な要素を配しつつも、サイパン舞台・日本モチーフという、史実にも関連したロケーション、片桐さんご自身の土俵である特殊造形、物語の核となるいわゆるオチ部分が、この映画を独創的なものにしています。

片桐さん曰く、この映画の脚本は手塚治虫「火の鳥」内の異形編からのインスピレーションを受けているとの事。それもあってか、英語作劇でありながらオチに日本的なニュアンスを感じました。
予告はこちらにて。

「ゲヘナ~死の生ける場所~」予告

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【ストーリー】
リゾートホテル建設の視察の為サイパン島を訪れる土地開発会社の社員ポリーナとタイラー、現地のコーディネーターのアランとペペ、カメラマンのデイブの一行は候補地であるジャングルに入っていく。そこで地下壕に続く階段を見つけ中に入るとそこには米軍も把握していなかった旧日本軍の秘密基地があった。
5人はその場所に秘められた太古から続く呪いに翻弄され、誰も予想もできなかった恐ろしい結末に導かれていく、、、

予告にも出てくる不気味な老人を演じるのは、「シェイプ・オブ・ウォーター」の半魚人役などで知られるダグ・ジョーンズ。演じるにあたって、顔に特殊メイクを施し胴体部分はパペットを使うというやり方をしており、これがすごいギミックになっているのです。
ダグ・ジョーンズから作品へのコメントと撮影模様が見られるビデオがありますので、こちらも併せて是非。

ダグジョーンズインタビュー

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全米10都市での劇場公開、そして日本へ

本作は、ニューヨークサイエンスフィクション映画祭の2016ベストホラー賞受賞をはじめ世界11の映画祭に招待され、今年5月に全米10都市にて劇場公開、今夏7/30(月)~8/5(日)には渋谷・ユーロライブにて公開されます。

ユーロライブでの公開期間中は連日トークショーなども企画されていますので、是非チェックして頂ければと思います。

諦めない。焦らない。本当にやりたいのであれば叶う。

アメリカに単身渡り映画の世界に飛び込み、そこから監督になると決めて実際に監督デビューを果たした片桐さん。同じく監督を志す人に向けてのメッセージを伺ったところ、「大事なのは、諦めない事と焦らない事。回り道もするかも知れないが全部自分の経験となる。本当にやりたいのであれば叶う。」と仰っていました。
2003年にビデオカメラや編集ソフトを買い揃え、2015年の本作の撮影に至るまで12年。製作に至るまでのストーリーに、片桐さんの核となる信念、強い想いを感じました。

現在、片桐さんはSpecial Make-up Effectの仕事と並行して監督2作目の脚本を準備しています。
映画監督はデビューも難しければ継続も難しい世界。片桐さんの場合は1作目の業界での好評価がある事から、そこからコネクションを広げて資金調達を行うべく精力的に動いています。2作目には俳優のでんでんさんが出演予定との事。どのような作品になるのか…楽しみにしたいと思います!

ちなみに先のキックスターター時の動画からもお分かりのように、片桐さんはとてもユーモアに溢れ、かつ文才のある方。ご自身のブログには、「ゲヘナ〜死の生ける場所〜」のより詳しい製作逸話(これが面白い!)や、Special Make-up Effectのスタッフとして携わられた他の映画での製作エピソードなども沢山書かれていますので、そちらも是非ご覧ください。

インタビュー中の片桐さん。何やら奥の二人の様子がおかしな事になっていますが…。

近況と次回予告

間もなく帰国です。最終的に8ヶ月半の滞在となりました。
海外に行くにあたっては短くはないですが全然長くもなく、という長さでしょうか。
全然観光地らしい観光地に行っていなかったので、最近になってようやくいくつか回り始めました。

前回記事に記載した次回予告で、ロサンゼルスで映画製作を学ぶ学生たちとの交流の話を書いていましたが、次回こそはその話題をお届けします。

和田有啓
1983年神奈川県横浜市生まれ。
スポーツ取材の会社からキャリアをスタートさせ、芸能プロダクション、広告会社、コンテンツ製作会社を経て現在フリーでアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスに滞在中。
プロデューサーとして参加した⾃主制作映画「くらげくん」の第32回ぴあフィルムフェスティバル準グランプリ受賞をきっかけに、2010年にUNIJAPAN HUMAN RESOURSES DEVELOPMENT PROJECT、2011年に JAPAN国際コンテンツフェスティバル/コ・フェスタPAOにプロデューサーとして参加して各プロジェクトの短編映画を制作。
近年は映画「たまこちゃんとコックボー」「天才バカヴォン〜蘇るフランダースの⽝〜」「⼥⼦⾼」「サブイボマスク」「古都」「はらはらなのか。」「笑う招き猫」などの作品で製作委員会の組成やプロデュース、配給、宣伝などを行い、インディペンデント映画業界でのキャリアを築く。