長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎、川口浩、船越英二、田宮二郎、京マチ子、山本富士子、若尾文子、中村玉緒、藤村志保、 関根恵子(高橋惠子)、渥美マリ等...伝説の映画俳優を数多く輩出してきた大映。

映画会社・大映株式会社の創立75周年にあ たる2017年を記念し、大映を彩った数多くの映画作品の中から、長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎をはじめとした華やかな男性たちが主人公の「大映男優祭」が4月14日(土)より開催されております。

大映創立から75年にあたる2017年、「おとなの大映祭」「大映女優祭」を企画・開催してまいりました。その最後を飾るのが「大映男優祭」です。

日本の映画史を彩る男優たちの美しさに溺れる作品群は、長谷川一夫主演で大映初のカラー作品となる『地獄門』(第7回カンヌ映画祭でグランプリ)をはじめ、市川雷蔵主演の『薄桜記』、勝新太郎主演の『座頭市物語』など、大映の看板俳優の名画など映画通をも唸らせる作品が上映されます。
その他に田宮二郎主演の『白い巨塔』や船越英二『黒い十人の女』、 川口浩主演の『おとうと』など映画ファンに楽しんでいただける艶やかで贅沢な特集上映です。

つきましては、「大映男優祭」の開催を記念し21日、 『炎上』に戸苅役で出演されていた仲代達矢をお招きし、トークイベントを開催されました。
下記にてイベントレポート紹介いたします。

「炎上」 上映後・仲代達矢(トークイベント 実施報告レポート
■日時:4月21日(土)イベント開始 11:45~
■場所:角川シネマ新宿
■登壇者:仲代達矢(俳優)

三島由紀夫の「金閣寺」を元に手がけた『炎上』の上映が行われ、同作に出演した仲代達矢が上映後のトーク セッションに出席。
市川崑監督や雷蔵さんとの思い出や、時代を彩った大映のスターたちとのエピソードを明かし、 会場は大きな盛り上がりを見せた。

様々なエピソードを語ってくれた仲代達矢氏

御年85歳の仲代さんが壇上に姿を見せると、割れんばかりの拍手がわき起こり「待ってました!」「カッコいい!」 といった声援が客席から飛ぶ。仲代さんは、上映を劇場の後ろの方で見ていたことを明かし「当時、26歳で約60 年前の作品ですが、それにしては新しい映画に出ていたもんだなと思いました」と同作が時代を超えていまなお 持つ瑞々しさに言及。「いい作品は時空を超えるんですね。『60年前に作ったの?』と思わせてくれる。ただ、(寺を)燃やすだけの作品じゃなく、実験的なことをやってますね」としみじみと語った。

仲代達矢が出演する映画『炎上』より場面写真

(C)KADOKAWA1958

(C)KADOKAWA1958

(C)KADOKAWA1958

当時は「5社協定」と言われる映画会社間の協定があり、俳優は映画会社と専属契約を結び、他の会社の作品には出られないという時代。しかし、仲代さんは専属契約を結ばずフリーランスの立場で活動しており、各社を横断して様々な監督と仕事をした。

「僕は新劇(俳優座)の出身で、映像のオーディションに9回も落ち続けて、これはもう(映像作品は)無理なんだろうと思って、舞台1本でやっていこうと思っていたところ、声が掛かるようになりました。最初、日活でデビューして『専属にならないか?』と言われたんですが、『演劇には出られますか?』と聞いたら『(日活作品以外は)ダメだよ』と言われてお断りしたんです。(フリーだからこそ)素晴らしい監督、素晴らしい作品に出られて幸運でした。市川崑監督の作品に出られたのもそのおかげ」と演劇への出演のために専属契約を結ばずに活動したことで、結果的に多方面の作品に 出演することができたと述懐する。

『炎上』を京都で撮影した当時の思い出として「僕は大阪で『令嬢ジュリー』という芝居をやってて、(京都の撮影を) 16時に終えれば芝居に間に合うんですけど、ある日、市川監督から『今日は芝居(に行くの)をやめてくれないか? (チケットは)買切るから』と言われまして...。
千人ものお客さんが待っているので、それはできないと。結局、15分ほど遅れて芝居は幕を開けました」と明かした。

また、主演の市川雷蔵さんは、当時「雷さま」と呼ばれ女性ファンが多かったが、従来の美剣士の役と違い、『炎上』 では吃音というコンプレックスを内面に抱える青年役ということで「女学生たちがロケーションに集まって『雷さまはどこ?』って言ってるんですが、メイクなしのすっぴんなので(雷蔵さんだと気づかずに)素通りしてて、私が『雷さまはここにいるよ』と紹介係をしてました(笑)」と明かす。
改めて本作での雷蔵さんについて「内面的な演技が素晴らしい」 と絶賛。「歌舞伎の世界から見えた方ですが、哲学的で私はすごく合いました。祇園に連れて行ってくれたのも雷蔵 さんでした。以降、残念ながら共演はしておらず、天国に行かれてしまいましたが...」と37歳での早逝を惜しんだ。

また、仲代さんは雷蔵さん以外の大映スターたちとの公私での思い出話を披露。

勝新太郎さんとは、銀座のバーで 働いていた俳優学校時代、同期で親友の宇津井健さんがバーに連れてきたのが出会いだったそうで「気が合って、 よく遊びました」と語る。
勝さんといえば、黒澤明監督の『影武者』(1980年)で、当初は勝さんが主演だったが降板し、 仲代さんが代役を務めたが「どうしても勝さんと黒澤さんがうまくいかないということで、細かい理由はわかんないけど勝さんが降りたんです。黒澤先生から電話が来て『代役で悪いけどやってくれ』と」。勝さんは親友で『座頭市』も出てるし『勝さんの了承を得てお返事します』と言いました。映画が出来上がって1年後、私の女房が亡くなって、(降板騒動から)それまで会う機会がなかったんですが、葬式に勝さんが来られて、抱き合って、女房の死を悲しんでくれました」と40年ほど前の思い出を語った。

勝さんとは三隅研次監督の『座頭市あばれ火祭』(1970年)で一騎打ちの激しい立ち回りを演じているが「私の俳優人生で一番、立ち回りがうまいと思った俳優さんは三船敏郎さんで、その次は勝さんと萬屋錦之介さん。私は新劇出身なので最初、下手で錦之介に『どうやったらいいの?』と聞いたら『簡単だよ。『米』という字を書けばいいんだ。 それで20人は斬れるよ』と言われました(笑)」と語り、会場は笑いに包まれた。

また、同じく大映のスターとして一世を風靡した田宮二郎との思い出を尋ねると「モダン」と評し、田宮さん主演で仲代さんも出演した映画『華麗なる一族』、仲代さん主演で田宮さんも出演した『不毛地帯』など、山崎豊子原作の作品での共演に言及し「(田宮さんの代表作となったドラマ版の)『白い巨塔』にも山崎さんから『出ないか?』とお話があったんですけど、ちょうど演劇をやってまして...。残念でした」とタイミングが合わずに出演できなかったという驚きの事実を明かした。

このほか、佐藤慶、菅原謙次、長谷川一夫、成田三樹夫ら当時の先輩、後輩の俳優陣との思い出を語り「いまじゃみんな、天国に行ったけど...」と寂しそうに口にする。
85歳のいまも現役の俳優として次々と新しい作品に参加すると ともに「無名塾」で若い俳優の育成にも力を注いでいるが「弟子も(同じ舞台に立てば)共演者ですし『仲代達矢、老いたな』と思われたくなくて一生懸命やってます」とまだまだ若い俳優には負けじとばかり、力強く語る。

そして若い俳優に向けて「懸命にやること、他人の100倍やるってこと。あとは人や作品との出会いがある。役者ってひとりじゃ絶対にできない。スタッフの力を借りないとできないんです。無名塾では『礼儀正しく、絶対に遅刻せず、スタッフに可愛がられろ』と言っています」と説いた。

また映画界の現状についても「いまは昔ほどいい環境ではない気がします。俳優として技を極め、スタッフとの連携を深める時間、ある程度のお金がほしい」と訴えた。

最後の締めの挨拶でも「スターたちの写真が並ぶポスターを見やり「ほとんど同世代ですが、残念ながら(既に亡くなって)お目にかかれないですが、私もそろそろ、そちらの仲間に入れさせていただきますが...」と独特のユーモアたっぷりに語る。そう言いつつも、既に新しい演劇作品への出演も決まっているそうで、去り際にはさらなる活躍を願う客席からは再び温かい拍手がわき起こっていた。

4月14日(土)~5月11日(金)、角川シネマにて開催