弁護士であり名画座「シネマヴェーラ渋谷」館主でもある内藤篤氏の『ワイセツ論の政治学──走れ、エロス![増補改訂 版]』(森話社)刊行記念として、アップリン代表の浅井隆が、映画『エンドレス・ポエトリー』で問題となった レイティング・ ボカシの経緯とともに、表現における「ワイセツ」とはについて語った。

『エンドレス・ポエトリー』場面写真

●日時:2 月 6 日(火)
●会場:アップリンク渋谷
●ゲスト:
内藤篤( 弁護士 、 「シネマヴェーラ渋谷」館主 )、浅井隆(アップリンク代表)

『ワイセツ論の政治学──走れ、エロス![増補改訂版]』(森話社)刊行記念として、著者であり、弁護士・名画座「シネマ ヴェーラ渋谷」館主でもある内藤篤氏とアップリンク代表の浅井隆が、映画『エンドレス・ポエトリー』上映後に、 映画の中で問題となったレイティング・ボカシの経緯とともに、表現における「ワイセツ」とは何かを熱く語った。

左より内藤篤( 弁護士 、 「シネマヴェーラ渋谷」館主 )、浅井隆(アップリンク代表)

『エンドレス・ポエトリー』は映画倫理機構(以下映倫)より、劇中での性器の描写をボカシの有無を問われたが、再審査請 求のすえ、ボカシ無し【R18+】というレイティングで上映。
劇中のタロットのシーンで、映倫側から男性器の勃起について指摘を受けた浅井は映倫に対して「 問題となったシーンの 2 週間に現場にいたんです。日本の 7 月は暑いけど、地球の裏側であるチリの 7 月は寒いんですよ。あれは、寒くて男性器が固まっていただけ。女性の方は伝わりずらいとは思いますが、寒いと男性器は、縮こまるわけですよね。だから、決して性的興奮の勃起ではない」とやり取りの経緯を説明。

続いて内藤氏は、「なぜ国家はワイセツを規制するのか理解できなく、その事をずっと言い続けて書いたのがこの本なのですが、要するに国家側の理屈っていうのは、性的秩序を守るということ。見たくない人の権利だけ守るんであれば、ゾ ーニングだけやってればいいんですよ。だから、有害図書
指定制度は地方公共団体がそういう思想のもとで行っている。でも、やっぱり最大の謎は、セックスは、家に帰ったらみんなやってることなのに、なんでそれが性秩序の維持だとか、あるいは勤労意欲の云々...ということで、禁圧しなけれ ばならないのかということです」と述べた。

アップリンクが発行した写真家ロバート・メイプルソープの写真集を、国内に持ち込もうとして国が輸入禁止をした処分の取り消しを求めた裁判に浅井は、「行政訴訟で、三審制で一審は勝ち、高裁はひっくり返って負けて、もう一回上告して、最高裁。多分、日本でワイセツ処分で勝ったのはメー プルソープ裁判だけ。10 年かかりました。実はまだ続きがあって、 メープルソープのドキュメンタリー映画を配給しようと思い、映倫に審査を依頼したらボカシを要求されたので、それを拒否したら、「区分適用外」として、レイティングすること自体を拒否されたので一般劇場の公開がペンディングになっている。映倫の委員長も変わったので、再審査請求を依頼し、無修正【R18+】を勝ち取ります!」と意欲を示す。

内藤氏「刑法175条って、ワイセツ物を販売するのはダメだと言ってるんだけど、趣味で所持してることは問題にはならないんですよね。だから、海外でエッチな雑誌を買って持ち込んでも、これは、売ったり人に渡したりするもんじゃないよという理屈が通ってもおかしくない。だけどダメだというのが税関の独特なところで…。似たようなところで、海外で「なんちゃってブランド(偽ブランド品)」を買ってくることありますよね。あれは実は税関オッケーなんです。 日本国内で趣味で偽ブランドを所持することは商標権侵害にはならないから、という理由で。 ワイセツ物と知的財産物権侵害物との間に妙な差別というか、二重基準があるんだよね」と指摘する。

『ワイセツ論の政治学──走れ、エロス![増補改訂版]』は1994年に発売された『走れエロス』に、20数年の間に起こった問題等を書き足して発売されたもので、本の中では、ワイセツ罪や憲法175条に関わるもの以外も取り扱っており、税関や映倫なども問題も取り上げている。

『ワイセツ論の政治学──走れ、エロス!』カバー

内藤 篤(ないとう・あつし)
1958 年東京生まれ。弁護士、ニューヨーク州弁護士。
2006 年より名画座「シネマヴェーラ渋谷」館主。 著書に『ハリウッド・パワーゲーム』(1991 年、TBS ブリタニカ)、『エンタテインメント・ロイヤーの時代』(1994 年、日経 BP 出版センタ ー)、『走れ、エロス!』(1994 年、筑摩書房)、『エンタテインメント契約法[第 3 版]』(2012 年、商事法務)、『円山町瀬戸際日記』(2015 年、羽鳥書店)。
共著に『パブリシティ権概説[第 3 版]』(2014 年、木鐸社)、『映画・ ゲームビジネスの著作権[第 2 版]』(2015 年、CRIC)、『論集 蓮實 重彦』(工藤庸子編、2016 年、羽鳥書店)。 翻訳書にハロルド・L・ヴォーゲル『エンターテインメント・ビジネス』 (1993 年、リットーミュージック)など。

映画『エンドレス・ポエトリー』

世界に潜むマジック・リアリズムを追い求め続ける。
88歳のホドロフスキー監督が観る者すべてに贈る、“真なる生”への招待状。

舞台は故郷トコピージャから首都サンティアゴへ。
父親との軋轢や自身の葛藤を抱えたホドロフスキーは、初めての恋や友情、
古い規則や制約に縛られない若きアーティストたちとの出会いと交流を経て、
囚われていた檻から解放され詩人としての自己を確立する。
本作はフランス、チリ、日本の共同製作で、
新作を望む世界中のファン約1万人からキックスターター、
インディゴーゴーといったクラウド・ファンディングで資金の多くを集めて製作された、まさに待望の新作。

撮影監督は『恋する惑星』(94年/ウォン・カーウァイ監督)など、
手持ちカメラを使った独特の映像で知られるクリストファー・ドイル。
自身の青年時代を虚実入り交じったマジック・リアリズムの手法で瑞々しく描き、「生きること」を全肯定する青春映画の傑作。

監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
撮影: クリストファー・ドイル
出演:アダン・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、ブロンティス・ホドロフスキー、レアンドロ・ターブ、イェレミアス・ハースコヴィッツ
配給:アップリンク
(2016年/フランス、チリ、日本/128分/スペイン語/1:1.85/5.1ch/DCP)