もうひとつのマサイ集落

 明けましておめでとうございます。前回から結構あいだが空いて、年を越してしまいました。登場する人物が前回から多少継承されるので、第1回を読んでからこの記事を読んでいただけるとわかりやすいです。あと、書いていたら長くなってしまったので、今回の記事は2回に分けて掲載することにします。前半は、前回紹介したマサイの集落とは別の集落の話からはじめますね。
 四駆に乗ってデコボコ道をしばらく走って、夜、この集落に到着してまず驚いたのが、その立派な建物、コンクリートで作られた大きな家。牛糞でできた家とは違って、ヤバそうな虫などはおらず、大仰な虫除けスプレーを利用する必要はなく、マットレスも持参していたので、暖かく快適に過ごせました。なんとテレビまであるそうで、晩ごはんを食べているあいだ子供たちが見ているのか、隣の部屋からテレビの音が延々と漏れていました。こうやってあらためて写真を眺めていると、ウチの実家のパナホームをも彷彿とさせますね。

コンクリートでできた立派な家

 このエリアに滞在して調査を行っているフランス人研究者の若者いわく、この家には近所の人々がよく出入りしていて、テレビを見たりご飯を一緒に食べたりしているそうです。マサイの人と人との繋がりは、僕ら日本人とは違って、ずいぶん親しいものなんだと思います。というより、なんでもかんでも共有し合っているかのごとくで、プライバシーなんて概念はないのかしら、とも思いました。日本人も昔は、テレビのある人の家に集まってワイワイやっていたので、当時はなんでも共有していたのかな?彼らの暮らしも、将来的には僕らの生活のようにインディビジュアルに変化していくのでしょうか。

立派なトイレ

給水タンク

 おもしろかったのは、コンクリの家に暮らしつつも、そのすぐそばに昔ながらの建物があって、食事はそこで用意するみたいなんです。いわく家の中だと煙まみれになってしまうからだそうで。換気扇はないのかな?とも思いましたが、それは未確認。古い家屋でしたが、電球には煌々と明かりが灯っていました。いずれにしろ、変化の過渡期ですね。この日は、スクマウィキ(ほうれん草のような緑野菜)、メイズ(とうもろこし)やキャッサバ(芋)の粉を湯で練って作るウガリと、それからビーフを使ったケニアの代表的な料理を振る舞ってくれました。ふと建物の外に出ると、真っ暗闇の中に、しずかに鈴虫の鳴き声が聞こえてきました。

古い家屋、料理はここで

ウガリを作っている様子

 食事は基本的に手で食べるのですが、そうすると僕の右手はベトベトになる、その同じ右手はカメラマンにとってカメラを握るためにあるもので、汚したくないからスプーンをくれ、と言うと何だ君はスプーンで食べるのか、まだまだアフリカに馴染むのは遠いねえ、という錯覚でしょうが、そんな心の声が聞こえてきそうで、短期滞在で撮影をしながら現地の人々と心を通わせるのは極めて困難であることを右手でスプーンを握りしめながら痛感したものです・・。とはいえ結局、スプーンもフォークもなければ手で食べるんですけどね。手は水で洗うんですが、それだとビチャビチャにカメラを濡らすので、撮影にウェット・ティッシュは必携でした。

食事をする研究者たちと家主らしきセンテロさん

 さて、そんなこんなで立派なコンクリの家の中で食事をしながら、マサイの調査をずっと行っているフランス人研究者のベノワ・アザールさんや田中樹先生の会話を聞いていると、快適な暮らしで良いね〜と呑気に構えていられるような状況ではない、ある深刻な問題があるようでした。

グレート・リフト・バレーと地熱発電所

 いきなり話が飛びますが、分かりやすくするために少々予備知識を。ケニアのオルカリア地域には、アフリカ大陸を南北に縦断するグレート・リフト・バレーという総延長7,000kmにもなる巨大な大地の裂け目があり、遠い未来、このグレート・リフト・バレーでアフリカ大陸が分裂すると予想されているそうです。
 そして、この巨大な裂け目からは地熱が吹き出している場所がいくつもあって、ケニアでは、その地熱エネルギーを利用した地熱発電が開発されています。この地熱発電は、無尽蔵で安定的かつクリーンな究極のエネルギー資源として注目され、JICAによる国際協力や日本企業が開発した機械も利用されています。
 というのも、アフリカの多くの地域では、急速な経済成長にともない、電力供給の問題を抱えていて、ケニアでは、その首都ナイロビでも電力の普及率が依然として20%台にとどまっているそうです。

グレート・リフト・バレー(Wikipediaより)

 そういえば、オルカリアからナイロビに戻って、今回の旅で色々とアレンジして下さった溝口大助さんが働く日本学術振興会のナイロビ研究連絡センターを訪れた際にも停電があって、しばらく発電機を使って発電していました。その立派な建物と比べると発電機はとても小さなもので、エンジンが不安定みたいで、ときおり部屋の電気が揺らめいてました。

日本学術振興会のナイロビ研究連絡センター

小さな発電機

電気がときおり不安定にチラついてました

ナイロビ研究連絡センターの所長、溝口さん

地熱発電所を訪問

 で、研究者の皆さんに同行して、くだんの地熱発電所を訪問し、撮影してきたのですが、現場でまず驚くのは、いったい幾らくらいのお金が流れ込んでいるのかは不明ですが、その大規模な施設。なんたって国家の一大プロジェクトですもんね。マサイの暮らしとのギャップが凄まじいですが、人類の技術力に圧倒されます。

地熱発電所

地熱発電所内の巨大な施設

地熱発電の仕組みが描かれている

地熱発電所の中

なぜ赤いのかは不明

赤いキューブの中には、日本製のタービンがある

 印象的だったのは、使命感すら感じさせる自分の仕事にプライドをにじませる所員の姿でしょうか。さまざまな観点から質問を投げかける研究者にも、自信たっぷりに答える発電所の職員。こういった施設で生産されるクリーンな地熱発電エネルギーが、ケニアのみならずアフリカ各国の経済成長を大きく後押ししていくことを考えると、その発展にとどまるところはないのだと感じました。

研究者の質問に答える発電所の職員

管制室

 唐突ですが、前半はここまで。次回、記事の後半では、現地で体験したことから、僕が巡らせた考えを少し綴ろうかと思っています。

澤崎 賢一
1978年生まれ、京都在住。アーティスト/映像作家。現代美術作品や映画を作っています。近年は、主にヨーロッパ・アジア・アフリカで、研究者や専門家たちのフィールド調査に同行し、彼らの視点を介して、多様な暮らしのあり方を記録した映像作品を制作しています。現在、撮影した映像素材を活かした新しいプロジェクト「暮らしのモンタージュ」を準備中。
初監督作品であるフランスの庭師ジル・クレマンの活動を記録した長編映画《動いている庭》は、劇場公開映画として「第8回恵比寿映像祭」(恵比寿ガーデンシネマ、2016年)にて初公開され、その後も現在に至るまで立誠シネマ(京都、2017年)や第七藝術劇場(大阪、2017年)で劇場公開、アート・フェスティバル Lieux Mouvants(フランス、2017年)などでも上映されました。

・映画《動いている庭》公式サイト:http://garden-in-movement.com/
2018年2月10日(土)-23日(金)に神戸アートビレッジセンターで映画《動いている庭》が上映されます。https://www.kavc.or.jp/cinema/1610/

・旅先の写真をインスタにアップしています。
 Instagram:https://www.instagram.com/kenichi_sawazaki/
・個人サイト:http://texsite.net/
・映像制作・記事執筆など、お仕事のご依頼なんなりと
 texsite1206(アットマーク)gmail.com