ヌーヴェルヴァーグを代表する名優ジャン=ピエール・レオーを主演に迎え、『M/OTHER』『不完全なふたり』の諏訪敦彦監督が『ユキとニナ』から8年ぶりに撮り上げた、仏日合作作品『ライオンは今夜死ぬ』が、2018年1 月20日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開となります。本作は、南仏を舞台に、老俳優が屋敷で出会った子供たちと共に映画を作り、心を通わせていく心温まるストーリー。

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この度、ジャン=ピエール・レオ―が今作の前に主演を果たした『ルイ14世の死』(2018年5月日本公開)のアルベルト・セラ監督の特集上映がアテネ・フランセ文化センターで行われ、『ルイ14世の死』の上映後に、ともにジャン=ピエール・レオ―を主演に映画を撮ったアルベルト・セラ監督と諏訪敦彦監督のトークイベントが開催されましたのでその様子をお伝えいたします。

【開催概要/作品概要】
広島国際映画祭関連企画 アルベルト・セラ監督特集
日時:12月2日(土) 上映開始 16:30 トークイベント 18:30~
場所:アテネ・フランセ文化センタ—
(千代田区神田駿河台2-11 アテネ・フランセ4F)
登壇者:諏訪敦彦監督、アルベルト・セラ監督 通訳:福崎裕子

フランスを代表する名優ジャン=ピエール・レオ―を主演にした2作を互いに大絶賛!

自作への影響を懸念して、今日まであえて鑑賞を避けてきたという諏訪監督。見たばかりの『ルイ14世の死』の感想を聞かれ、「本当に素晴らしかった。両作品は同じ“死”をテーマに描いているのに、結果がすごく違う2本で、そこがとても面白い。
実は撮影時にジャン=ピエールから「“いったい死をどう演じたらいいのか?”と相談を受けていました。実際に“死”を目の前で演じてみせて、“これでいいか?”と聞いてきたり(笑)。セラ監督の映画が素晴らしいのは、ジャン=ピエール・レオ―という人間の特質が“ルイ14世”に結びつく構造を作っているところ。“王の死”にまつわる物語を徹底して描き、それに対抗する話を用意しなかったからこそ、この作品は成功しているのだと思います」と、解説した。

アルベルト・セラ監督

それに対し、「“国王の死”を悲劇的に描く単なる歴史ドラマではなく、“死”や“宮廷”の陳腐さを描きたかった」と、セラ監督が『ルイ14世の死』のテーマを語った。ジャン=ピエール・レオ―出演作はもちろん、トリュフォー、ゴダールなどのヌーヴェルヴァーグ作品に影響を受けてきたという諏訪監督の作品に対し、セラ監督は「『ライオンは今夜死ぬ』には諏訪監督のジャン=ピエールに対する敬意や畏怖が強く反映されていると思った。撮影時、私とジャン=ピエールの間には“ルイ14世”という偉大なる仲介者がいたので制作は比較的スムーズに進んだが、諏訪さんの映画はまったく無名のイメージから始まり、年齢をとった彼のイメージや過去に向かう姿も描いている。そういう意味では『ライオンは今夜死ぬ』の方がとても挑戦的で、ジャン=ピエールの新たな一面を引き出すことに成功した素晴らしい作品だと思いますよ!」と語った。

『ルイ14世の死』海外ポスター

「監督とカメラが恋人!」「共演者を追い出す!」両監督が苦戦した名優のこだわりぶり!

『ルイ14世の死』撮影時は3台のカメラを使用し、さらに王の寝室のシーンがほとんどなので撮影現場は暗かったという。
「ジャン=ピエールはかなり混乱していましたが、その“撮影システムへのジャン=ピエールの混乱”が“死を前にしたルイ14世の混乱”に上手く繋がっていきました」と、セラ監督。
それに対し、「撮影が始まってまず驚いたのはジャン=ピエールは本当にカメラに向かって演技をする、“監督とカメラが恋人”のような俳優だということ。3台のカメラがあるということはジャン=ピエールにとって3人の恋人が現れたようなものだから相当混乱したと思います(笑)。その話を聞いて、『ライオンは今夜死ぬ』でもジャン=ピエール演じる主人公が2台のカメラを前に困惑するシーンを取り入れてみたんです」と、諏訪監督が撮影時のエピソードを語った。

諏訪敦彦監督

また、神経質な一面があるジャン=ピエールについて、「誰であれ、自分に近づく俳優を“イヤだ、イヤだ”と言って撮影現場に入れることさえ拒否するんです。でも、後ろめたさがあったのか、共演者のうちの1人がいい奴だとわかったら、きちんと謝って“その役柄が嫌いだからやったんだ”と言い訳をしたりしていましたが(笑)」と、セラ監督が観客の笑いを誘った。
それに対し諏訪監督は、「『ライオンは今夜死ぬ』の場合は、そんなジャン=ピエールと6人の小学生たちとの共演ですからね。ジャン=ピエールが突然、“出てけ!”と言って彼らを追い出したこともあります(笑)」と、名優を主演にした苦労話で盛り上がった。

「青年ジャン=ピエール・レオ―を演じつつけている」
知られざる孤独な素顔と俳優としての原動力とは

撮影を通して両監督が強く感じたのは、「過去の自分から抜け出したい」とジャン=ピエールが強く思っていること。
“現代の映画に居場所を見つけたい”、“強い存在でありたい”と思うのに、“自分のイメージを壊してはいけない”、“悪い演技をしたり、間違えてはいけない”と、過去の自分の存在が大きなプレッシャーをかけている。そして、お金を稼ぐことはあまり興味がなく、作品の本質を見極めて出演作を決めてきた人」と、セラ監督。それに対し諏訪監督は、「大作に出演したいというより、アーティスティックな作品に出演したいという欲がある。『ライオンは今夜死ぬ』の企画を進めているときに“どんな役をやりたいのか?“とジャン=ピエールに尋ねると“年老いた役をやりたい“と言われた。見た目は十分に年齢をとっているのに、自分自身は年老いた役を演じているつもりがない。ある意味で青年ジャン=ピエール・レオ―を演じつつけているのだと思います。そして、あれだけのキャリアがあるのに常に不安を抱えていて、リラックスすることを知らない。でもそれがジャンの俳優としての大きなエネルギーであり、演技を支えているのだと思います」と、ジャン=ピエールの知られざる素顔を語った。

同じ俳優とテーマを扱っていても、大きく異なった2作品。
セラ監督は、「本当の映画作家の視点がみえる両作品をぜひ見比べてみてはいかがでしょうか」と結び、大いに盛り上がったトークイベントを締めくくりました。

右よりアルベルト・セラ監督と諏訪敦彦監督

『ルイ14世の死』日本公開決定!
【2018年5月シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開】
監督・脚本:アルベルト・セラ 
脚本:ティエリー、ルナス
出演:ジャン=ピエール・レオー、パトリック・ダスマサオ、マルク・スジーニ、イレーヌ・シルヴァーニ、ベルナール・ベラン、ジャック・エンリック
2016年/115分  原題:La Mort de Louis XIV

【STORY】
1715年、8月。太陽王ルイ14世は散歩から宮中に戻ると足に激しい痛みを感じる。それから数日後、王は政務につくが、夜になると痛みは増し、高熱に襲われる。彼はほとんど食べ物を口に運ぶこともなくなり、だんだんと衰弱していく。豪奢な一室で彼の信奉者と医者たちに取り囲まれ、フランスで最も偉大と称えられた王の緩慢な死。

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『ライオンは今夜死ぬ』
【STORY】 南仏コート・ダジュール。死を演じられないと悩む、年老いた俳優ジャン。過去に囚われ、かつて愛した女性ジュリエットの住んでいた古い屋敷を訪ねると、幽霊の姿となってジュリエットが彼の前に現れる。さらに、地元の子どもたちが屋敷に忍び込んできて…子どもたちからの誘いで突然はじまった映画撮影。撮り進めるうちに過去の記憶と向き合い、残された時間、ジャンの心に生きる歓びの明かりがふたたび灯されていく。

主演 ジャン=ピエール・レオ―×諏訪敦彦監督『ライオンは今夜死ぬ』予告

www.youtube.com

監督・脚本:諏訪敦彦
出演:ジャン=ピエール・レオー、ポーリーヌ・エチエンヌ、イザベル・ヴェンガルテン
2017 年/フランス=日本/103 分 配給:ビターズ・エンド
© 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

2018年 1月20日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開