NPO 法人ホロコースト教育資料センター主催、映画『否定と肯定』プレミア上映会後に原作者であり、アメリカ・エモリー大学で教鞭をとる歴史学者デボラ・E・リップシュタット氏と憲法学者の木村草太氏が登壇、トークイベントが行われた。

■日程:10月26日(木)
■会場:神楽座
(東京都千代田区富士見2-13-12 株式会社KADOKAWA富士見ビル1階)
■登壇者:デボラ・E・リップシュタット氏(米国エモリー大学教授)、木村草太氏(憲法学者) 司会進行/石岡史子(NPO 法人ホロコースト教育資料センター代表)

歴史学者としてアメリカの大学で教鞭をとり、ホロコーストの事実を伝えてきたデボラ氏が”ホロコースト否定論者”のD.アーヴィングとイギリスの法廷で闘い、裁判が行われた 2000 年当時イギリスをはじめ世界中で注目を集めたセンセーショナルな事件。

この事件を題材とした映画『否定と肯定』プレミア上映会後に原作者であり、アメリカ・エモリー大学で教鞭をとる歴史学者デボラ・E・リップシュタット氏と憲法学者の木村草太氏が登壇、トークイベントが行われた。

アーヴィングの策略で自著をアメリカではなくシステムの異なる英国の司法制度のもとで出版元のペンギ ンブックスとともに名誉毀損で訴えられ<起訴された側に立証責任がある>という不利な立場に置か れる中で闘ったことについて、憲法学者である木村草太氏が招かれ対談がスタート。

本作を観たばかりの観客を前にデボラ氏は「今回、初めての来日なのですが、日本という国で著作が翻訳され、そして皆さんにこの映画を見て頂けることを非常にうれしく思っています。うれしい反面、この作品で描かれていることは、現代の今につながっていると感じていてそれは悲しいことでもあります。製作当初、 プロデューサー、監督、脚本家のデヴィッド・エアー含め映画化に携わった制作陣は、この内容がまさかここまで現代性を持ち、今の時代と通じることになろうとは思いもしませんでした。多くの方へ観て頂けるとうれしいです。」と挨拶。

© DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016

いち早く本作を観た木村氏は「この映画は、今日本に生きるすべての人に無関係ではない、関係のある映画です。より多くの人に観てもらいたいし、ぜひリップシュタット先生の本をみんなで買って、′′真実との闘い“が描かれたこの本をベストセラーにしたいですね。」と熱くコメントした。

憲法学者である木村氏は、 アメリカ、イギリス、日本それぞれの名誉棄損訴訟についての比較を述べ、イギリス法に則って行われたこの裁判について解説。「イギリスの名誉棄損の法律本当に驚きました。見事にわたしが受けたショックを レイチェル(・ワイズ)が表現してくれました。こういった立場に置かれたこと自体が彼と闘わざるを得なかった理由でもあります。もしわたしがここで受けて闘わなかったら、これから先、アーヴィングの意見がデフォ ルトで通ってしまう。この裁判でアーヴィングが勝利する、ということは、すなわち『ホロコーストはなかった』、 アーヴィングの今までの意見が正しい、と歪められた事実が真実として認められてしまうことになるのです。 わたしには闘わないという選択肢はもうありませんでした。」とデボラは語る。

木村「アーヴィングは事実を歪める人種差別主義者だったにも関わらず、歴史家としてなぜ一定の評価を得ていたのでしょうか。」
デボラ「アーヴィングは、他の歴史家が持っていない資料などを集めることができたのでしょうね。それはドイツ語が非常に流暢でいろんな意味でアクセスすることができたし、アーヴィングが第三帝国や極右的な思想にシンパシーを感じているということはよく知られていたので、例えばドイツで講演をすると聴衆から個人の日記や資料を渡されたりということもあったかもしれません。物書きとしては、非常にエネルギッシュで文章も優れていた。でも一番の問題は、それまでアーヴィングの記述を誰も精査してこなかったことです。例えば、ドレスデンの爆撃について彼は本を出しているんですが初版の際の犠牲者の数は2万5千人だったにも関わらず、次の版では3万 5 千人、最終的にはたしか 25 万人程と記述していました。(歴史家の共通認識は 1 万 5 千人と言われている)皆違和感を感じてはいるのに誰もチェックしなかったのです。そして、ようやくそれをチェックし始める動きが出てきた時にわたしは訴えられました。年月を経て結果的に、この裁判を通して彼が事実を歪曲していたということを暴くことができました。」

木村「(フェイクニュースやポスト・トゥルースといった真実を軽視する社会的風潮について)私たちは真実への攻撃に対し、どう反撃すればよいでしょうか。」

デボラ「その質問に対しては簡単に答えられることではありません。ですが私自身は警鐘を鳴らす灯台のようでありたいと思います。大量なプラットフォームがあり、沢山のリーダーが現れて、いまは事実をでっち上げたり、好きに作り上げてしまう時代です。その事実に対して、根拠を要求することが必要だと思います。メディアの力も必要になってくると思います。アメリカではトランプが大統領になってしまったその後に、やっと皆気付きました。 本当は 14~16 か月前(トランプが当選する前)からするべきでした。その発言の根拠はどこにあるのか。もし調べてあり得なかったことを見つけ たら、ひとりひとりが発言をすること。また個人が気を付けることは、何かをシェアする前に立ち止まることも必要です。その記事、発言の元は何なのか出展、引用元を確認すること、本当に真実なのか、健康的な疑念をもってひとりひとりがチェックを繰り返すことが重要だと思います。カメ ラやスマホを買う時と同じように′′情報“も吟味をしないといけないということを若い人へ伝えたいですね。」

最後に木村はデボラ氏はじめイギリスの弁護団チームが選択し真実を暴いた経緯にも触れ「この映画をみて、(真実と向き合い、闘うためには) アーヴィングのような事実を歪める人と対等な立場で話すことがいかに危険かということを学びました。今日は本当にありがとうございました」とイベ ントを締めくくった。

ホロコーストは真実か、虚構か―衝撃の実話『否定と肯定』日本版予告

ホロコーストは真実か、虚構か―衝撃の実話『否定と肯定』日本版予告

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<STORY>
1994 年、アメリカのジョージア州アトランタにあるエモリー大学でユダヤ人女性の歴史学者デボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイ ズ)の講演が行われていた。彼女は自著「ホロコーストの真実」でイギリスの歴史家デイヴィッド・アーヴィングが訴える大量虐殺はなかっ たとする”ホロコースト否定論“の主張を看過できず、真っ向から否定していた。ある日、アーヴィングはリップシュタットの講演に突如乗り 込んだ挙句に、名誉毀損で提訴という行動に出る。異例の法廷対決を行うことになり、訴えられた側に立証責任がある英国の司法制 度で戦う中でリップシュタットは〝ホロコースト否定論“を崩す必要があった。彼女のために、英国人による大弁護団が組織され、アウシ ュビッツの現地調査に繰り出すなど、歴史の真実の追求が始まった。そして 2000 年 1 月、多くのマスコミが注目する中、王立裁判所で 裁判が始まる。このかつてない歴史的裁判の行方は―。

監督:ミック・ジャクソン『ボディガード』
出演:レイチェル・ワイズ『ナイロビの蜂』『ロブスター』、トム・ウィルキンソン『フル・モンティ』『フィクサー』、ティモシー・スポール『ターナー、光に愛を求めて』
原作:「否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い」デボラ・E・リップシュタット著(ハーパーコリンズ・ジャパン)
2016 年/イギリス・アメリカ/英語/110 分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:DENIAL/日本語字幕:寺尾次郎/配給:ツイン
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