このまま、何も言わずに 愛し続けたい――。
1930年代、英国、ダーリントン邸。
伝統は、彼女に愛を許さなかった。そして、彼に、愛を気づかせなかった。

カズオ・イシグロのベストセラー小説を『ハワーズ・エンド』『眺めのいい部屋』の名匠ジェームズ・アイヴォリーが映像化した珠玉の名作が、今、スクリーンに甦る

今月5日に発表された日系英国人作家カズオ・イシグロ氏2017年ノーベル文学賞受賞の報を受け、Bunkamuraル・シネマは10月28日(土)~11月10日(金)の2週間、同氏の代表作を映画化した『日の名残り』の特別上映を実施することが決定しました。

原作は、1989年に出版されたカズオ・イシグロ氏の第3作にして、代表作。
英語圏最高の文学賞とされるブッカー賞を35歳の若さで受賞した同氏の名前は一躍世界に知られ、イギリスを代表する作家となった。

1993年に映画化された本作は、第66回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞、脚色賞、作曲賞、美術賞、衣装デザイン賞の8部門にノミネートされた。特に、『ハワーズ・エンド』に続く共演となった名優アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの抑制された演技は高く評価された。
いまは亡きクリストファー・リーヴや、若き日のヒュー・グラントが脇をかためているのも魅力。

監督は、『眺めのいい部屋』『モーリス』『ハワーズ・エンド』をはじめとする数々の傑作で英国の伝統美とエレガンスの中に人間関係の機微を描き続けてきた名匠ジェームズ・アイヴォリー。

実際のカントリーハウス(英国貴族の邸宅)で撮影された本作に登場する麗しい調度や、当時の上流階級の紳士淑女や使用人たちの衣装、クラッシックカーの数々は、眼福の一言。
現在日本でも高い人気を誇る英国ドラマ「ダウントン・アビー」の世界観にも通じる。今夏公開され話題となった『ハイドリッヒを撃て』に連なるミュンヘン会談の裏側を英国側の視点から描いており、実は歴史映画ファンにも興味深い要素がある。

多くの作品同様、これは自分自身への内なる旅です。いわば過去への旅です。
ーカズオ・イシグロ

Bunkamuraル・シネマは2006年にカズオ・イシグロ氏のオリジナル脚本をジェームズ・アイヴォリーが映像化した『上海の伯爵夫人』、2011年に同氏が原作・製作総指揮を務めた『わたしを離さないで』を封切り上映した縁があり、受賞を祝した今回の特別上映を決めた。

『日の名残り』をセレクトしたのは、1930年代に別れて1950年代に再会した主人公ふたりのように、1994年3月の日本封切から24年近くを経た今、観客の皆様にもこの作品に再びスクリーンで出会っていただきたいから。
「もしかして、若い頃に背伸びして観て、退屈な映画だと感じた方もいるかもしれません。当時、働き盛りで、今は人生のたそがれ時を迎えている方もいるかもしれません。年齢を重ねて改めて見なおすと、また違った感情を抱く作品だと思います。原作と映画ではラストが異なるので、本は読んだけれど映画は未見という方にも是非ご覧いただきたいです」と番組編成担当は語る。

“恋愛シーンのない”ほろ苦い大人の恋愛映画、そしてカズオ・イシグロの世界に触れてみてはいかがだろうか--

<STORY>1958年。ダーリントン邸の老執事スティーブンスのもとに、以前共に屋敷で働いていた女性ミス・ケントンから一通の手紙が届く。懐かしさに駆られる彼の胸に20年前の思い出が蘇る。当時、主人に対して常に忠実なスティーブンスと勝気なケントンは仕事上の対立を繰り返していた。二人には互いへの思慕の情が少しずつ芽生えていたが、仕事を最優先するスティーブンスがそれに気づくはずもなかった。そんな中、ケントンに結婚話が持ち上がる。それを知ったスティーブンスは激しく動揺するが・・・。

監督:ジェームズ・アイヴォリー
原作:カズオ・イシグロ
出演:アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、ジェームズ・フォックス、クリストファー・リーヴ、ヒュー・グラントほか
1993年/イギリス/134分/ブルーレイ上映/原題:THE REMAINS OF THE DAY
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

10/28(土)~11/10(金)2週間限定 連日AM10:30~ 鑑賞料金 1,200円均一