10月5日(木)より行われてきました山形国際ドキュメンタリー映画祭2017(YIDFF)の受賞結果 をお知らせ致します。本映画祭は、1989年より隔年で開催され、記念すべき15回目を迎ました。

今年は映画祭全体で161本の作品が上映され本日授賞式で各賞が発表されました。

インターナショナル・コンペティション
審査員:イグナシオ・アグエロ(審査員長)
ディナ・ヨルダノヴァ、ランジャン・パリット、七里圭

インターナショナル・コンペティションでは 121 の国と地域から応募され た 1,146 本より厳選した 15 作品が上映、日本でもファンの多いベテラン監督から若い世代の監督の個性的な作品が揃いました。

■ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『オラとニコデムの家』
監督:アンナ・ザメツカ

ポーランド/2016/72 分

ポーランド/2016/72 分
“Communion” Director:Anna Zamecka
Republic of Poland
/2016/72 min.

ポーランドのセロックに住む小さな家族。酒飲みの父親と自閉症の13歳の弟、離れて暮らす母親の面倒を見るのはもっぱら14歳の少女オラの役目である。間もなくやってくる弟の聖餐式が成功すればもう一度家族がひとつになれるのではないかと切ない望みを抱いて献身的に立ち回るが、成長と自立にはいまだ及ばず、姉の庇護を離れられない弟や、家庭を支える親として振る舞えない大人たちの弱さばかりが浮き彫りになる。カメラは逃げ道のない困難な日常に寄り添いながら、少女の心の叫びを世界に伝えるための可能性であろうとする。

受賞のアンナ・ザメツカ監督

■山形市長賞(最優秀賞)
『カーキ色の記憶』
監督:アルフォーズ・タンジュール

カタール/2016/108 分

■優秀賞
『孤独な存在』
監督:沙青(シャー・チン)

中国/2016/77 分

■優秀賞
『私はあなたのニグロではない』
監督: ラウル・ペック

アメリカ、フランス、ベルギー、スイス/2016/93 分

■特別賞
『激情の時』
監督:ジョアン・モレイラ・サレス

ブラジル/2017/127 分

アジア千波万波
審査員:テディ・コー、塩崎登史子

アジア千波万波では 63 の国と地域から 645 本の応募があり 21 作品が上映、アジア各国の“今”を知ることができる作品が並びました。

■小川紳介賞
『乱世備忘—僕らの雨傘運動』
監督:陳梓桓(チャン・ジーウン)

香港/2016/128 分

■奨励賞
『人として暮らす』
監督:ソン・ユニョク

韓国/2016/69 分

■奨励賞
『あまねき調べ』
監督:アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール

インド/2017/83分

■特別賞
『パムソム海賊団、ソウル・インフェルノ』
監督: チョン・ユンソク

韓国/2011/75 分

『翡翠之城』(ひすいのしろ )
監督:趙德胤(チャオ・ダーイン)Midi Z

台湾、ミャンマー/2016/99 分

■市民賞(映画祭期間中に募った、観客によるアンケート集計の結果)
『ニッポン国 VS 泉南石綿村』
監督: 原一男

日本/2017/215 分

日本映画監督協会賞
審査員
ジャン・ユンカーマン(アメリカ)、中村義洋、根来ゆう、高原秀和

■日本映画監督協会賞
『あまねき調べ』
監督:アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール

インド/2017/83分

そのほか、今年の山形ドキュメンタリー映画祭では、2017年に4月亡くなられた松本俊夫さんの追悼プログラムとなる「松本俊夫追悼プログラム」より実験映画の中短編『銀輪』『西陣』『つぶれかかった右眼のために』を 16mm フィルム三面マルチスクリーンで上映し、大きな反響を呼びました。

また、今年の目玉となりましたアフリカ特集「アフリカを/から観る」では、骨太な現代史ド キュメンタリーでは定評のある監督作品や、若手の作品、そしてナミビアの植民地時代の虐殺を テーマにしたものや、伝統舞踊や音楽を通じて社会の傷を癒すルワンダを追った話題作が揃いま した。関連イベントとして開催された「アフリカナイト!」では観客、ゲスト、スタッフ共にア フリカ音楽を味わいつくしました。

「やまがたと映画」と題した特集では故・佐藤真監督特集が組まれ、「あれから 10 年:今、 佐藤真が拓く未来~全作上映とトーク」に集まったドキュメンタリーファンの熱心なディスカッ ションも行われました。
また、「銀幕よ甦れ! やまがた映画館異聞録」では「世界一の映画館」 と言われながらも歴史的な大火の火元となった酒田市の伝説的映画館グリーン・ハウスをめぐる 上映と展示に加え、脚本家伊藤和典の実家である上山トキワ館にて撮影された押井守監督の実写作品の上映も行われるなど、今はなき山形の二つの映画館についての企画を通し、観客と作品と地域を繋ぐ場所である映画館について思いを馳せる時間となりました。

スイスを代表する映画作家であり、山岳地帯に住む姉弟の悲劇を描いた『山の焚火』が日本でも良く知られているフレディ・M・ムーラー(1940~)監督の特集「共振する身体−フレディ・M・ ムーラー特集」では初期の実験映画や、芸術家を対象とするドキュメンタリー作品をまとめて上映。このような機会は 1986 年にアテネフランセ文化センターが特集上映を組んで以来、30 年ぶりとなりました。

ムーラーは、山形で集団的映画製作を続けた小川紳介とも親交があり、山形県 牧野村を訪問したこともありました。「山三部作」と呼ばれるムーラ-作品(『われら山人たち』 『山の焚火』『緑の山』)があるように、山や辺境に暮らす人々に焦点を当てた二人の映画作家の 共通点や相違を見出すことも、同映画祭ならではの目的となった企画でした。

その他にも、アラブに関する映画の特集として 3 回目となる「政治と映画:パレスティナ・レ バノン 70s-80s」では、60 年代末にはじまる世界的革命運動/闘争の中で、世界の映画人が、イ ギリス統治下の 1930 年代にまで遡る「パレスティナ革命」に共鳴して作った「ミリタント映画」 を上映しました。

日本の“いま”を独自の視点で捉えたドキュメンタリーを紹介する部門「日本プログラム」では 2015 年の「ヤマガタ・ラフカット!」を経て完成した『かえりみち』の上映も行われるなど、映画祭ならではの継続する出来事も見られました。
そして今年の「ヤマガタ・ ラフカット!」では日本から2本、アジアから 2 本のラフカットが選出しました。国際交流基金 アジアセンターの協力を得て、アジアの監督二人を招待し、対話の場に参加してもらうというこ とも実現しました。

そして、2011 年 3 月 11 日の東日本大震災から生まれた作品を取り上げるプログラムの 4 回目 となる「ともにある Cinema with Us」では、記憶の風化と変化への慣れに抗い続けると同時に、 この出来事がドキュメンタリーの現在に何をもたらしつつあるのかを問う企画となり、記録と継承の問題についても取り上げました。

クロージング作品として、土本典昭監督の水俣シリーズなど数多くの記録映画のプロデューサーである故高木隆太郎氏の仕事に迫った『表現に力ありや 「水俣」プロデューサー、語る』が上映されました。ほか、沖縄の現在にカメラを向け続け最前線の現実を可視化する三上智恵監督 の『標的の島 風かたか』、小川紳介と親交を結び特集でも取り上げたフレディ・M・ムーラーの 代表作『山の焚火』、サンティアゴ国際ドキュメンタリー映画祭との友好企画として『盗まれたロダン』が特別上映されました。

山形国際ドキュメンタリー映画祭2017
会期:2017年10月5日[木]-10月12日[木]
会場:山形市中央公民館(アズ七日町)、山形市民会館、フォーラム山形、山形美術館、とんがりビル KUGURU ほか