9月1日に公開された「新感染 ファイナルエクスプレス」(16)と同じヨン・サンホ監督のアニメ作品二本「我は神なり」とソウル・ステーション パンデミック」が、相次いで公開される。

もともとヨン・サンホはアニメ作家で、2011年の「豚の王」(未)で長編デビューを果たし、続いて「我は神なり」(13)、「ソウル・ステーション パンデミック」(16)を発表している。

「新感染 ファイナルエクスプレス」は初めての実写作品で、謎のウィルスに感染した人間が人間を襲い、噛みつかれた被害者も同じように不死のゾンビと化すという内容だ。

 日本のアニメに比べると、絵がなんとなく平べったい感じで、あまり奥行きを感じられない。もっとも韓国アニメを見るのは初めてだから、これが韓国アニメの特徴だと決めつけるわけでないけれど、数十年前の日本アニメを見ているような気がした。
まずもって、韓国映画の大の特徴である美人やイケメンのキャラクターが出てこないので、アニメとはいえいささか拍子抜けの態。
ストーリーも自然に流れていくというよりも、ねじ曲がったとでもいうのか、奇妙な方向へと進んでいく。ダークな色使いは見る者に寂寥感を抱かせるし、情緒とか詩情などは皆無、人間の本質をえぐり出すさまは鬼気迫るものがある。

『我は神なり』

我は神なり
©2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD INC. & Studio DADASHOW All Rights Reserved.

 「我は神なり」はダム建設で水没する村を舞台に、住む家を失う村人が楽しく暮らせる祈りの家を作るという教会の誘いに、多くの村人が賛同し、ソン牧師の説教を感動して聞いている。
しかし、牧師はかつて醜聞で教会組織から追われた人物であり、彼を広告塔にして村人を洗脳して金を集めてドロンしようと企むギョンソクの手先になっていた。
村人の一人、ミンチョルは娘が大学進学用に貯金していた金を盗んで酒を飲むようなろくでなし、なんでも破壊せずにはおかれない酔いどれの乱暴者だ。バーで出会ったギョンソクに因縁をつけたあげく逆襲され、ギョンソクの後をつけて教会にやってくる。ギョンソクと牧師をののしり、牧師とミンチョルは互いに偽善者、悪魔と相手を決めつけ、いがみあう。

我は神なり
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我は神なり
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 牧師はギョンソクの真意を知り抜けようとするが、軽く恫喝される。醜聞というのも誤解の結果であり、彼には罪ないことがわかってくるので、彼は真の信仰者かと思っていると、意外な展開を見せる。ことごとく私の予想を裏切り、暴力と執念と私欲が絡まった地獄絵の世界が展開していく。

キリスト教信仰者がもっとも多いという韓国の現状に基づき、宗教者の裏側を垣間見せつつ、人間の闇の部分を拡大して描いて見せる。暗く陰鬱で救いのない内容は、日本のアニメとは明確に異なり、ユニークな地位を確立していると言えよう。

「息もできない」「あゝ、荒野」のヤン・イクチュンが、「豚の王」に引き続いて、ミンチュルの声を吹き替えている。

「我は神なり」予告

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10月21日(土)ユーロスペースほか全国順次公開!

「ソウル・ステーション パンデミック」

 「ソウル・ステーション パンデミック」は「新感染 ファイナルエクスプレス」の前日譚と位置づけられている。

ソウル・ステーション パンデミック
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化学工場でのウィルス拡散が原因だと「新感染 ファイナルエクスプレス」では言っていたが、「ソウル・ステーション パンデミック」は原因の説明は何もなく、かえって不気味さが増している。
ソウル駅前で、一人のホームレスの具合が悪くなり、弟が養護施設や病院を訪ねるが、金がないので門前払い。ホームレスは死亡してしまうと、なぜか人間を襲い、皮膚を噛み切り、血だらけになりながら弟に襲いかかってくる。噛まれた人物も同じようになり、以後は急速に増えていく。

ソウル・ステーション パンデミック
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 一方、安ホテルに宿泊しているカップルが宿泊料を払えず、ぐうたら男のキウンはヘスンの体を売って金を稼ごうと出会い系サイトに写真をアップする。
家出した娘ヘスンを探していると言う男がキウンに連絡して、二人で失踪したヘスンを探すことに。ソウル市内、特に駅周辺を中心にゾンビと人間の攻防戦がアクションたっぷりに展開される。感染しているかどうかすぐにはわからない点がサスペンス効果を盛り上げている。

 すでに死亡しているだけにゾンビの方が優勢。警察署の牢内での乱闘、ゾンビに追われての逃避行(特にマンションのモデルルームでの逃走、潜伏の場面)がスリリングに描かれている。
極限状況の中、未感染者も感染者も同時に排除しようとする機動隊の非道さ、非倫理的なやり方も批判しているようにも思える。

ソウル・ステーション パンデミック
©2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD INC. & Studio DADASHOW All Rights Reserved.

 心温まる箇所もなければ、カタルシスもない、そんなハードな二本だが、見逃すには惜しい映画である。

『ソウル・ステーション/パンデミック』予告篇

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新宿ピカデリー他全国上映中!

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。