「笑う招き猫」

売れない若手女漫才コンビの奮闘記をコミカルに描いた笑いあり、涙ありの作品。

2003年に第16回小説すばる新人賞を得た山本幸久の小説を映画化したもので、飯塚健が脚色し監督している。

©山本幸久/集英社・「笑う招き猫」製作委員会

 「出会って7年、コンビ組んで5年、28の女二人でどうにかやっています」と語るのは、アカコとヒトミという漫才コンビ。
舞台に出ると、両手を招き猫風にして「おねがいしニャーす」とやるのが決まり手だ。

©山本幸久/集英社・「笑う招き猫」製作委員会

二人は大学で知り合い、罰ゲームとして学園祭で漫才をやらされたことが、この道に進むきっかけとなった。卒業後、ヒトミは就職、アカコは家事手伝いの道を歩むが、亡母の収集した千個以上の招き猫(一つ5百円)を売り切ったアカコが、漫才をやろうとヒトミを勧誘した。「武道館で漫才をやる」と夢は大きいが、芸も未熟でなかなか受けず、ヒトミはすぐにやめると言い出し、アカコと口喧嘩になる。この喧嘩が漫才みたいなやりとりになるところがおかしい。

 辣腕マネージャー永吉に芸の厳しさ、客をなめるなと諭され、先輩漫才コンビともめたりと、下積み生活の悲哀を織り込みつつ、基本的にはサクセス・ストーリーへと舵を取っていく。
ヒトミの「辞めてやる」をポイントに、過去の出来事が回想シーンで挿入されるストーリーの見せ方がうまい。互いに「私のことはあんたにはわからない」と言い合い、別れてはまたくっつく微妙な人間関係の面白さ。 
二人の周りの人物——ヒトミのバイト先の弁当屋小松とのコント風のやりとり、いじめられっ子の中学生でヒトミのチャリンコを盗もうとした上杉とのエピソードもほのぼのとして、青春ドラマ風の要素もある。

小松が火の不始末から弁当店のビニール看板を焼き、落ち込んで「俺、公だよ」とこぼすシーンに松の字の木ヘンが焼けてなくなり公となった文字が映り、大焼けと公のダジャレ・ギャグも漫才映画らしい。
他にもアカコの幼馴染みの自転車屋蔵前、蕎麦屋の大島先輩、同級生で映画の録音係をしている土井、サラリーマンになった和田、ヒトミの元カレらの描写が加わってドラマの支えとなっている。

 アカコよりもヒトミ中心で描かれていて、ヒトミを励ます両親のやさしさが涙を誘う。「私がTVにでたら嬉しい?」と尋ねると、母親は即座に嬉しいと答え、父親は録画用にレコーダーを買い替えようと価格ドットコムを見始めるといった小ネタも効果的。

 アカコに松井玲奈、ヒトミに清水富美加が扮している。
清水は4月の「暗黒女子」でも主役を務め、7月には「東京喰種トーキョーグール」の公開も控えている。本作でも好演しており、現役引退が惜しまれてならない。

監督の飯塚健は以前紹介したオムニバス映画「ブルーハーツが聴こえる」では「ハンマ—(48億のブルース)」編を担当。この作品に出ていた角田晃弘が本作では永吉を軽やかに演じている。他に前野朋哉、浜野謙太、落合モトキ、荒井敦史といった若手個性派が脇を固め、小松役の諏訪太朗、事務所社長の岩松了、両親役の菅原大吉、戸田恵子がベテランの味を十分に出していた。
先輩漫才コンビに扮した“なすなかにし”こと那須晃行、中西茂樹が漫才指導をしている。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

絶賛上映中『笑う招き猫』予告

4月29日(土・祝)公開!映画『笑う招き猫』予告

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【STORY】
高城ヒトミ(清水富美加)と本田アカコ(松井玲奈)は、「アカコとヒトミ」という結成 5 年目の売れない女漫才師。今日も小劇場の片隅で、常連客に向けて漫才を披露する毎日。
そんなある日、いつもネタ合わせをしている河川敷で、ヒト ミの自転車を盗もうとしている中学生を捕まえてから二人の周りがざわつき始める。初めてテレビのバラエティ番組出演が決まったり、番組出演をきっかけに大学時代の旧友と再会したり... 漫才師として売れる兆しが見えてきた二人だが、とある事件をきっかけに糸が切れた凧のように飛んでいきそうになってしまう。
果たして「アカコとヒトミ」にはどんな未来が待っているのか!?
27 歳、素直になれない女のちょっと遅めの青春ドラマが誕生する。

清水富美加 松井玲奈
落合モトキ 荒井敦史 浜野謙太 前野朋哉 稲葉友
那須晃行(なすなかにし) 中西茂樹(なすなかにし) 犬飼直紀 森田想
諏訪太朗 岩井堂聖子 嶋田久作 市川しんぺー 中村倫也
角田晃広(東京 03) / 菅原大吉 岩松了 戸田恵子

監督・脚本・編集:飯塚健
原作:山本幸久「笑う招き猫」(集英社文庫刊)
音楽:海田庄吾
主題歌:Mrs. GREEN APPLE「どこかで日は昇る」(ユニバーサル ミュージック合同会社 / EMI Records)
プロデューサー:和田有啓 尹楊会 柴原祐一
撮影:山崎裕典|照明:岩切弘治|録音:田中博信|美術:吉田敬
美術進行:佐々木伸夫 編集:川村紫織|衣裳:白石敦子|ヘアメイク:内城千栄子|
VFX スーパーバイザー:小坂一順|スクリプター:石川愛子
音響効果:松浦大樹キャスティング:原谷亜希子|
助監督:杉岡知哉|制作担当:濱松洋一|ラインプロデューサー:篠宮隆浩 漫才監修:なすなかにし
製作幹事・配給:DLE
制作プロダクション:ダブ
製作:「笑う招き猫」製作委員会
©山本幸久/集英社・「笑う招き猫」製作委員会

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