映画「空(カラ)の味」劇場公開記念! 塚田万理奈監督 × 主演・堀春菜

スタッフ・キャストの思いのこもった”監督の本当のはなし”に迫るインタビュー

絶賛公開中の田辺・弁慶映画祭4冠の映画『空(カラ)の味』より塚田万理奈監督、同作主演にして数多くのインディペンデント作品に出演し、人気を集める堀春菜さんのお二人を迎え、本作に込めた想いや撮影時のエピソードなどを語ってもらった。

本作は摂食障害に悩む女子高生が、ある女性との交流を通して解放されていく姿を描いたドラマ。「ただ、あなたに見てほしかった、わたしの中の本当のはなし」というコピーにも表されているように塚田監督の実体験に基づいた話になっている。

(左)主演・堀春菜さん (右)塚田万理奈監督

塚田監督、堀春菜さん、今日はよろしくお願い致します。早速ですが、本作は監督の実話を基にした作品ということですよね。撮影に至るまではどのような経緯があったのですか。

塚田監督:丸々私の話です。ずっとお母さんとお兄ちゃんが黙り続けてくれたことを含め、二人を解放してあげたいと思っていました。でも、自分のことを話す勇気はあんまりなくて、誰にも言わずにいたんですけど、ある時実際に作品に出てくるマキさんと同じ、本名もわからないある女性と出逢って、私もその人に対して「いいよ」というメッセージを形にしようと思って、脚本を書き始めました。

脚本を書くきっかけが“マキさん”だったんですね。

塚田監督:はい。ただ、映画を撮ろうと思うまでの方が長かったです。映画を撮るために脚本を書いていたというよりも、自分の鬱憤ばらしだと思って書いていたので。公にする勇気はなかったですね。

何がきっかけになったんでしょうか。

塚田監督:別の映画の撮影をしている時に人と食事をしていた時に、不安がぐるぐる渦巻いてきて、その人のことを想って泣いてしまったことがあって。その現場にいた人が「付き合うから撮ろうよ」と言ってくれて、この作品のスタッフになってくれたのでこうやって形にすることができました。

脚本はいつ頃から書かれていたんですか。

塚田監督:卒業する頃には書き始めていたので、2014年には書き始めていましたね。

なるほど。作品を拝見したので、その年月がかかってそれだけ本作にこもった想いの強さも納得します。今日は堀さんも一緒にインタビューということでお訊きしたいのですが、キャスティングに関してはどのように決まったのでしょうか。

塚田監督:あんまり覚えてないのですが、一番初めのインパクトがあった記憶だと、ぴあフィルムフェスティバルのパーティーかな。

インパクトがあったんですね(笑)

堀さん:パーティーでヤン・ヨンヒさんと同じ机で話していた時に、塚田監督も同じテーブルにいらっしゃって。
塚田監督:堀さんが、ヤン・ヨンヒさんと特に喋るわけでもないのですが、捕らえられていて、それが印象深かったな。

画を想像しちゃいました(笑)

堀さん:本作のオファーは監督からSNSを通して連絡をもらって。そのメッセージが、監督の想いがたくさん詰まったラブレターだったんです。「自分の話だから出たくなかったら全然強制しません。」というスタンスでもあって、でもそのラブレターを読んで演りたいと思いました。その後に同時に脚本をも頂いたんですけれども、頂いた時点で33稿だったんです!

すごいですね!撮影に至るまでのお話にもつながりますね。先ほど出逢いのお話は聞きましたが、キャスティングとして選んだ理由はどのようなものだったのでしょうか。

塚田監督:そうですね。堀さんの納得していないと顔に出る感じがいいなと思ってオファーしました。

そうして本作の出演が決まった訳だと思いますが、堀さんはそこから本作に対してどのような向き合い方しましたか。

堀さん:撮影前は、摂食障害のことを詳しくは知らなかったのですが、「摂食障害を演ってほしいわけではなくて、さとことしていてほしい、だから私の真似もしないでいい」というようなことを監督が言ってくれて、「そっか」と思いました。監督の話や友達の話は一つ参考にしたんですけど、ネットで摂食障害について調べるといったことはしなかったです。

スタッフとキャスト全員が支えあって、作品づくりが行われたということがお話を聞いて伝わってきました。

堀さん:私の幼馴染にも出演してもらいましたし、周りのスタッフ・キャストの雰囲気が良くて、落ち着く方が多かったので、その場で自然にできたのだと思います。

塚田監督:よく泣いていた思い出はありますが、辛かったことはなくて、毎日幸せすぎて泣いていました。スタッフもキャストのみんなも一人一人が私は大好きなので、その人たちがいつも一緒にいてくれて、私の話をたくさん聞いてくれるのが嬉しかったし、自分が思い描いていたものよりもみんなそれぞれがすごいものを持ってきてくれるから、それが嬉しかったです。

撮影時の思い出がたくさんありそうですね!


堀さん:私と塚田監督を後ろから撮った写真があって、みんなに「似てきた。」とか「どっちがどっちかわからなかった。」って言われた思い出があります。

塚田監督:言われたね!あと、このチラシよくこれ塚田さん?って聞かれます。(メインヴィジュアルを指して)全然顔違うのに!

知らず知らず、シンクロしてきていたんですね!(笑) 監督として特に気をつけていた部分などはありますか。

塚田監督:脚本もオリジナルですが、この役はこうだと決めていたということはなくて。堀さんをはじめとして他のキャストともたくさん話し合いました。私が思っていることと聡子が思っていることがずれてなければ動きやすいようにしてもらえればいいと思っていたので、割と自由に任せていたかな。

聡子とマキさんの最初の出逢いのシーンが印象的で圧倒されました…

堀さん:撮影は結構ストーリーの順での撮影だったので、真紀さんマキさんとのシーンは後半でした。精神がズタズタになってから、ほとんど話したことないくらいで出逢いのシーンができたので、林田さんがマキさんとしていてくれた感じがして。撮影と同じタイミングで交流を深めていきました。

塚田監督:あのシーン凄かったよね。

堀さん:撮る前に「できません」って言ってずっと泣いていて。そうしたら、塚田監督が「堀さんが思うようにやってくれたら大丈夫です」って言ってくれて、リハーサルできる状態じゃなかったからスタッフさんが万全に対策してくれたので、本当に皆さんのおかげです。

塚田監督:回すよっていうとプレッシャーになっちゃう気がしたので、「とりあえずやってみよー」って言って、スタッフの人にだけ伝えてカメラを回していたんですけど、バレていて…カットの後に「回してたでしょ」って言われました。

堀さん:バレバレでしたね。(笑)マキさんとの思い出は、あとカフェのシーンで話すところがあるんですけど、そこは全部アドリブだったんです!毎テイク全然違う話をするから、聴きながらよくこんなにネタがあるなとびっくりしていました。

本当に強いキャスト・スタッフの想いで撮っていたことが、今このインタビューでも、もちろん作品を観ても伝わったのですが、本作を撮影する前と後で何か変わったなとか、自分の中で何か蹴りがついた部分とか、そういうことはありましたか。

塚田監督:「空の味」が私にとって可愛いので、それが出来上がったことは大きくて、幸せなことですね…堀さんに出会ったこと、他のスタッフ・キャストに出会ったことも人生の転換期くらいに大きかったです。ただ、「空の味」自体を撮るときに何かが変わるかもしれないってすごく思っていて、お兄ちゃんとお母さんが生きやすくなるかもしれない、言いたいことが言えるようになるかもしれない、そう思っていたんです。でも、今回撮ってみて自分自身がそんなに変わっていなくて、変わらないってことを改めて知ったというか・・・さらにそれに対して、しょうがないなと思ったところが変わったかなと思います。変わらない自分を許したいなぁと思えました。

確かにある意味では、逆説的にはなっちゃいますが、変わったことですね。堀さんはどうでしたか。

堀さん:やっている時は必死であまり覚えてないんですけど、振り返ってみて、「空の味」があったから今まだ頑張れているなと思う部分がたくさんあります。賞を獲ることを考えるとかではなくて、この映画を作る“意味”が塚田さんにとっても私にとっても本当にあってつくりました。それが田辺・弁慶映画祭で公開されるとなって、受け入れてもらえるのか全くわからなかったですけど、届く人には届いたので、改めて「映画ってすごいな」って思いました。

塚田監督:堀さんもそんな変わってないと思うよ(笑)

田辺・弁慶映画祭のお話がありましたが、そこで本作はグランプリに輝いていますよね!反響を受けてどうでしたか。

塚田監督:振り向いてくれることが多くなりましたね。感想で一番嬉しかったのは「優しい映画でした」っていう感想です。必死にとっていたので、こういう雰囲気の映画にしようとか思ったことがなかったから「〇〇な映画でした」って言われても、そうなんだと思うくらいですけど、「ダメでもいいよ」というのは伝えたいことだったので。とにかく優しくしたかったんですよね。例えばこの映画を観て「頑張ろうと思いました」っていう感想には私は別に頑張んなくていいよと思うというか・・・「優しかった」って感想は、その人のことを何も攻撃も強制もしなかったんだなと思えて嬉しかったです。

これはこうだとかこう思うっていうのが強い映画も多くありますが、「空の味」は人の感情やストーリー自体にしてもそれぞれを尊重して寄り添う感じがあると私も感じました。空の味というタイトルはいつ決まったのですか。

塚田監督:脚本の最終段階で決まりました。堀さんに見せたときには決まってなかったかな。

堀さん:私が読んだときには決まってたと思う!

塚田監督:空(カラ)という字が空腹のクウ、空気のクウ、ソラとかカラッポとか。全部同じなのが不思議だなと思っていて。私は拒食症だったとき、呼吸しづらくて、自分だけ水の中にいるみたいで、空気がなくなっちゃったって思っていました。ずっと食べては吐いていたから、何を食べているのか何を満たしているのかがよくわからなかったんですね…それを表すのがこの字で、使いたいということでこのタイトルになりました。

まずは本作の上映が一番だと思いますが、今後も監督業を続けていこうという気持ちはありますか。

塚田監督:映画撮るのは楽しいし、映画は好きだし、スタッフ・キャストも大好きだから続けることも一つ想いとしてはあるけど…なんか他のことでもなんでもそうですけれども、納得して生きていきたいと思っています。

堀さんは最近二十歳を迎えたんですよね!おめでとうございます!今後のどのような作品に出たいとか、こんな目標があるというのはありますか。

堀さん:二十歳になって大人の堀春菜をみたいって、色々な人にいわれますね。制服を脱いで、色気を…(笑)

塚田監督:堀さんはいつも納得して踏みしめて生きている感じがして、それがすごく魅力なんですけど、大人大人っていわれて焦っているのを見ると私も「次回作は?」っていわれたときに焦るから、「わかる!」って思って嬉しいです。

堀さん:恥ずかしい・・・(笑)大人ってなんなんだろうな。

最後に読者に向けてのコメントをお願い致します!

塚田監督:自由に観ていただければいいので、体調が良くて気分がいい時にみてください(笑)友達に「女子力がなさすぎる」って指摘するのが優越感の子がいて、私は適当に流して聞いていたんですけど、それが原因で自分に自信がなくなっちゃった子もいて、それに対しての反逆心もあったんですよね。世の中の人が女子力高くなくちゃダメとか、親孝行しないとダメとか、色々いわれることあるけど、私は「許す!」って思うし、その人自身が納得していることが一番だと思っているということが伝わればいいかな。

堀さん:映画祭で観た方に「よく頑張ったね」って言ってもらったんです。それまではみんなで力を合わせて作ったことが大切で、届かなかったら届かないでいいやっていう思いもあったんですけど、届いた人からの声を聞いて、やっぱり嬉しかった。そこで、私の中での聡子がやっと終わって、お客さんの中での聡子がスタートしていく感覚がありました。とにかく観てもらえたら嬉しくて、届いたらもっと嬉しいなって思います。

多くの方に届くことを心より願っております。本日はありがとうございました!

「空(カラ)の味」予告編

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田辺・弁慶映画祭セレクション2017にて5月1日・4日・11日にて上映 
5月13〜19日 テアトル新宿にて連日の上映が決定!