内藤瑛亮監督の最新作『許された子どもたち』のワークショップが4月8日より開始された。

『許された子どもたち』は背負うべき罪を許されてしまった“いじめによる死亡事件の加害者たち”を描いた、内藤監督の『先生を流産させる会』以来の自主制作映画だ。

この日、会場には書類と面接を通過した緊張した面持ちの16人の子供たちが……!
そんなワークショップ初日、Cinefil編集部がお邪魔して内藤監督にお話を伺った。

内藤瑛亮監督とワークショップの模様

商業デビューした内藤瑛亮監督がなぜ自主制作に戻ったか
映画学校の卒業制作として撮られた『先生を流産させる会』が自主映画でありながら、劇場公開され話題になった内藤瑛亮監督。

その後、人気女優・夏帆を主演に迎え、山田悠介の原作を大胆に脚色した『パズル』、古屋兎丸の伝説的コミックを旬の男性キャストで映画化した『ライチ☆光クラブ』と原作モノの商業映画を手掛け、昨年はオリジナル作品となる『ドロメ女子篇』『ドロメ男子篇』が公開された。
商業映画監督として活躍めざましい内藤監督が、なぜ自主制作という形で『許された子供たち』を撮ることになったのだろうか。

――『許された子どもたち』の構想はいつ頃から練り始めたのですか?

『先生を流産させる会』公開前の2011年ごろに、犯罪少年ものと犯罪少女もの、それぞれ企画を立てたんです。その後商業映画を撮りながら、映画会社に『許された子どもたち』の原案となるこの2つの企画をプレゼンし続けました。

――構想から6年後、商業ではなく自主制作という形で『許された子どもたち』を撮る決断をされた経緯を教えてください。

商業映画としてのキャリアを積めば、オリジナルの企画が通るかと思ったのですが、なかなか『許された子どもたち』は実現しませんでした。少女を主人公にした話は一回実現しそうになったのですが、頓挫してしまって……。
また、仮に実現したとしても、有名な俳優さんを起用する場合、事務所から描写の制限が生まれてしまうということが、商業映画を撮りはじめて4年の間で予想できるようになりました。
撮りたいと思えないものを撮るって本当に精神的にしんどいんですよね。一昨年から去年にかけて依頼を受けた企画は断ってばかりで、撮りたい企画は動かないって状況で、でもこのまま立ち止まってちゃダメじゃないかなって。
それならば“撮りたいから撮る”という映画作りの原点に立ち帰り、自主制作で映画を作ろうという決断にいたりました。
今回は、『先生を流産させる会』を一緒に制作した映画学校時代の同期が主なスタッフです。
同期の中には、今は映画と離れた仕事をしている人もいますが、『休みの日に集まって、劇場にかけられる作品を撮ってもいいよね』という共通認識が生まれ、『許された子どもたち』の制作がはじまりました。

――今回、ワークショップという形式を使い、映画を作るという挑戦もされていますね。

今までもワークショップのオファーがなかった訳ではないのですが、キャリアの浅い自分が演技指導を行うことに違和感があったので、断ってきました。
ただ、2015年に橋口亮輔監督の『恋人たち』、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』、鈴木卓爾監督の『ジョギング渡り鳥』と“ワークショップで作られたからこそできた傑作”を目にしたことで認識が変わりました。
僕の場合、演技を教えるというよりは「少年犯罪をテーマした映画を作るための演技を子どもたちと共に追求する」という形ならワークショップをする意味があると思ったんです。
低予算の商業映画では、リハーサル日が1日しかなかったり、そもそも出来なかったり。作品のテーマやキャラクターの背景について語り合って、もっと時間をかけて演技を作っていきたいと思ったのも大きかったですね。
予算的な問題で仕方ないのですが……俳優さんも1日芝居を合わせただけで、撮影現場に行くのは不安なんじゃないかと……。
今回はモデルとなった事件の当時者と同世代の子どもたちが集まってくれたので、一緒にじっくり考えながら作りたいですね。

――モデルとなった事件といえば、映画秘宝のインタビューで映画化したい事件として挙げられていた山形マット死事件も今回モチーフになっていますね。

山形マット死事件は自分と同年代が起こした事件で、強烈な記憶として残っています、
最初は山形の事件だけをモデルに映画化をするつもりでしたが、企画を練っていく段階で大津市中二いじめ自殺事件、川崎中一男子生徒殺害事件、東松山都幾川河川敷少年殺害事件が起き、いじめによる死亡事件も変容を見せました。
今の子どもたちをきちんと捉えるためにも、一つの事件だけでなく、複数の少年事件から着想を得て、物語を描くことにしました。
ワークショップ募集の際も、川崎の事件についての意見を子どもたちに書いてきてもらいました。かなり濃密な意見が集まりましたよ。
『許された子どもたち』を作る上で興味があるのは人を殺したのに許されてしまった子供が、その後の人生をどう生きるのかということです。
「加害者となる少年少女」というテーマは『先生を流産させる会』『パズル』『ライチ☆光クラブ』でも一貫して描いてきたテーマでしたが、『許された子どもたち』では罪とどう向き合うのかって点を描くつもりです。撮影の前段階から、子どもたちとこの主題について考えていこうと思っています

――今回応募者が書く項目には、川崎の事件への意見に加えて、『あなたがした悪いこと』という欄もありましたね。

『あなたがした悪いこと』でも興味深い回答が多かったです。
「親のクレジットカードで150万使ってしまった」「友達から預かった子犬を餓死させてしまった」「自分がいじめっこだった」という回答もありました。

――内藤監督が今回選ばれた選んだ16人の決め手はどこだったのでしょうか。

企画に興味を持ってくれた方というのは前提で、「この子が何を考えているのかもっと知りたい」って僕が興味を持ったかどうかが基準になりました。
重いテーマですが、応募者の多くは親と川崎の事件についてディスカッションしてきていて、“事件を自分なりに読み解こう”という意思を感じる子も多かったです。
応募者が殺到したわけではないのですが、定員以上は集まったのでお断りする方が出ることが本当に心苦しかったです。

――今回、ワークショップを拝見して、子どもたちが他人の行動を演じることや、罪悪感の置き場所について、一生懸命考えながら参加しているように感じました。 みんな真剣だけど心から楽しんでいて、学生時代の“人気の先生の授業”を思い出します。

こちらも学びながら映画作りをしている感覚です。第6回目のワークショップには“若者の生きづらさ”について研究をしている筑波大学教授の土井隆義氏(※)に講義をやっていただくことになっていますし、まさに授業ですね(笑)。ダメ元でオファーしたのですが引き受けてくださいました。

当日はいじめのロールプレイを実施し、いじめの背景にある現代の子どもたちの心理を読み解きつつ、少年犯罪における死角についてお話して頂く予定です。
『許された子どもたち』の脚本は少年法に詳しい弁護士の方からも意見をもらい、推敲を重ねています。今回のワークショップでの実践も脚本にフィードバックする予定です。

社会学者や法律の専門家も参加し、“新しい教育映画”としての期待も高まる『許された子どもたち』。
間違いなく社会的意義のある本作が自主制作という形で撮影が行われることに歯がゆさを感じる。
一方、『先生を流産させる会』で“自主映画だからこその表現”を突き詰めた内藤監督が商業映画のキャリアを経て、どんな描写をスクリーンにたたきつけるのか。
『許された子どもたち』が“自主制作”という映画製作手法の可能性を広げる作品になることは間違いなさそうだ。

『許された子どもたち』大人キャストの募集映像

『許された子どもたち』では、ワークショップが行われている子役キャストに加えて、大人のキャストの募集も行われるそう!
下記動画に求めている役柄、条件等、詳しい募集要項が書かれているので、興味のある方はぜひ、視聴してみていただきたい。

『許された子どもたち』 大人役オーディション開催

www.youtube.com

“若者の生きづらさ”について研究をしている筑波大学教授の土井隆義氏なども参加した講義


土井隆義(どい・たかよし)
1960年、山口県生まれ。大阪大学大学院博士後期課程中退。
現在、筑波大学人文社会系教授。社会学専攻(社会病理学・逸脱行動論・犯罪社会学)。
今日の若者たちが抱えている生きづらさの内実と、その社会的な背景について、青少年犯罪などの病理現象を糸口に、人間関係論の観点から考察を進めている。
著書に『つながりを煽られる子どもたち』(岩波ブックレット)『少年犯罪<減少>のパラドクス』(岩波書店)などがある。