ジョーダン・ボート=ロバーツ監督の『キングコング/髑髏島の巨神』(原題Kong: Skull Island) は、空前絶後の大バトルに胸が踊る暴走アドベンチャー・アトラクション超大作だ。
何しろ、昭和ゴジラシリーズの『キングコング対ゴジラ』(1962) に登場する大ダコや、『怪獣島の決闘 ゴジラの息子』(1967) に登場するクモンガが現れて、キングコングと大格闘するのだ。
大ダコは正確には「リバーデビル」といい、クモンガは正確には「バンブースパイダー」というが、大ダコは円谷英二の悲願でもあるので、円谷さんの遺伝子を継いだ作品といえる。ほかに恐ろしい2本の力強い腕を持つヘビのような巨大生物「スカルクローラー」、体長13メートルの巨大生物「スケルバッファロー」、高さ15メートルにまで成長する巨大ナナフシ「スポアマンティス」、コウモリに似た巨大な捕食生物「サイコバルチャー」らが蠢くのだ。ちっぽけな人間の無力さを痛感してしまう。こうした巨大生物を育ててしまう髑髏島の生態系が本当に恐ろしい。
このストーリーは、『ナイトクローラー』(2014) の脚本・監督を務めアカデミー脚本賞にノミネートされたダン・ギルロイ(名脚本家トニー・ギルロイは双子の兄弟) と、『GODZILLA ゴジラ』(2014) の脚本を担当したマックス・ボレンスタインと、『ジュラシック・ワールド』(2015) の脚本を担当したデレク・コネリーと、ロバート・ゼメキス監督、デンゼル・ワシントン主演作『フライト』(2012) でアカデミー脚本賞にノミネートされたジョン・ゲイティンズらによって紡がれた。実際はジョン・ゲイティンズの原案に、ダン・ギルロイ、マックス・ボレンスタイン、デレク・コノリーを脚本家として招いて脚色した。
「コング伝説でもっとも魅力的な要素のひとつが、髑髏島だ。想像しうる限りでもっともエキゾチックな、死を招く食物連鎖がある場所。コングはほかの者たちを寄せ付けず、その頂点に立つ捕食者である。その神話を、この映画で描きたかった。この物語の登場人物たちはコングを島から連れ出したりしません。反対に、彼らのほうがコングのテリトリーで生き延びなくてならないのです」とレジェンダリーピクチャーズCEOの製作に当たったトーマス・タルが付け加える。
最初は、空母アテネからUH-1ヘリコプター(愛称: ヒューイ) が編隊を組んで、『地獄の黙示録』のように、髑髏島を近づく。すると、高さ31.6メートルの島のパワフルな守護者が現れて、ヘリコプターを空から叩き落とし、ベトナム戦争の英雄であるプレストン・パッカード大佐(サミュエル・L・ジャクソン) の多くの部下たちを殺してしまうのだ。
メインプロットは、ベトナム戦争も終わりに近づいた1973年に始まる。ナパーム弾とロックンロールがけたたましく鳴り響いた年だ。その年は、地球上の未開の地を探そうと人工衛星ランドサットを打ち上げた年でもある。
おもしろい人物が登場する。28年前に髑髏島に不時着した、横井庄一さんのような生き残りの戦闘機パイロットのハンク・マーロウ(ジョン・C・ライリー) だ。そのマーロウはメジャーリーグ、シカゴカブスの大ファンで、ずっと妻と息子のいるシカゴに戻りたいと思っている。その彼が戦闘機のエンジンを繋ぎ合せてこしらえたボート、グレイストーク号の川下りする船内で、1973年のロック音楽、例えばデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』を聴かせるシーンは異化作用があっておもしろい。エルヴィス・プレスリーを通り越して、このへんのサイケデリックな音楽がレコードプレイヤーで1針1針かけられるわけだ。
この映画は、ハワイ・オワフ島、オーストラリアのゴールドコースト、ベトナムで撮られた。ロビン・ウィリアムズ主演作『グッドモーニング、ベトナム』(1987) が隣国タイで撮られた映画であり、ベトナムで初めて撮られた映画ということになる。
ある意味で、紅一点の戦争カメラマンで、自分で「反戦カメラマン」(彼女は銃を持った軍人ではない。唯一の民間人で、未知の世界をファインダー越しに見つめる存在) と称しているメイソン・ウィーバー(ブリー・ラーソン) と、元英国陸軍特殊部隊(SAS) 隊員だったジェームズ・コンラッド大尉(トム・ヒドルストン) がこの映画の実質的な主役だ。ヒドルストンは次期ジェームズ・ボンドの噂もあり、すばらしい身体能力を見せつけている。
メイソン・ウィーバーは、メリアン・C・クーパー&アーネスト・B・シェードザック監督の『キング・コング』(1933) のフェイ・レイ、ジョン・ギラーミン監督の『キングコング』(1978) のジェシカ・ラング、ピーター・ジャクソン監督の『キング・コング』(2005) のナオミ・ワッツの流れを汲む「キングコング映画のヒロイン」を演じているばかりでなく、彼女の目を通じて神々しいまでの「畏怖の念」でキングコングを見つめることが出来る。クリーチャー同士の壮絶なバトルがあっても知らず知らずに、キングコングを応援してしまうのだ。おまけに、霜降りのタンクトップ姿になってしまう彼女の服装がいい。『エイリアン』(1979) や『エイリアン2』(1986) でおなじみの「戦闘服」になってしまうのだ。
キングコングの造型は、特定の俳優によるパフォーマンスキャプチャーではなく、1933年版『キング・コング』のような伝統的なフレームアニメーションで制作することにした。ジャック・チャップマン少佐を兼ねたトビー・ケペルによるキングコングのフェイスキャプチャーと、『猿の惑星: 新世紀』(2014) や『ホビット』3部作(2012-14) の俳優テリー・ノタリーのモーションキャプチャーも併用された。
そして最後の歌が流れて、僕の涙腺は決壊した。何しろ、反戦映画の代名詞ともいえるスタンリー・クーブリック監督の『博士の異常な愛情』(1963) のラストに流れる、第二次世界大戦時のヒットソング、ヴェラ・リンの『また会いましょう(We'll Meet Again) 』が使われている。これはすごいことだ。
これは、紛れもなくレジェンダリー・ピクチャーズの『GODZILLA ゴジラ』シリーズの作品のひとつであり、ネタバレになるが、渡辺謙が演じていた芹沢猪四郎博士が在籍していた特別研究機関「モナーク(MONARCH)」が登場して期待感を大いに煽る。21世紀の「モンスターバース」(ゴジラとキングコングが登場する怪獣映画を中心とするシェアードユニバース) で、なんとキングコングは2020年にはゴジラと対決、『GODZILLA VS KONG』(仮題) が楽しみでならない。
サトウムツオ
映画伝道師、ムービーバフ。1990年代に『BRUTUS』や『POPEYE』の映画コラムを担当。著書に『007コンプリート・ガイド』『ゴジラ徹底研究』(マガジンハウス)など。
『キングコング:髑髏島の巨神』(原題:『KONG:SKULL ISLAND』)
イントロ&ストーリー
それは簡単な任務のはずだった・・・・。
侵略地拡大のため、調査遠征隊が謎の島に潜入する。しかし、そこは人が決して足を踏み入れてはならない島‐‐‐---髑髏島(ドクロ)島だった。爆弾を落とし、気軽に調査を開始した隊員たちの前に突如として姿を現す、島の守護神“コング”。巨神の圧倒的なパワーの前に唖然とする隊員たち。骸骨が散らばる島の岸壁には血塗られた巨大な手の痕跡までもが・・・。だが、悪夢はそれだけではなかった。彼らの前には、謎の巨獣たちが次々と現れる。逃げても、隠れても、容赦なく襲いかかる巨獣たちを目の前に、人間は虫ケラに過ぎず為す術もない・・・。絶体絶命、待ったなしの猛襲が続く中、やがて明らかになる髑髏島の秘密―。
果たして、コングは人類にとって悪魔なのか、神なる存在なのか―。
人類は生きて、この島から脱出できるのだろうか―
■出演:トム・ヒドルストン、ブリー・ラーソン、サミュエル・L・ジャクソン、MIYAVI、ジョン・C・ライリー、他
■監督:ジョーダン・ボート=ロバーツ
■日本語版吹替キャスト:GACKT(主人公:ジェームズ・コンラッド役)、
佐々木 希(ヒロイン:メイソン・ウィーバー役)、真壁刀義 [新日本プロレス](米陸軍兵士:レルス役)
ハッシュタグ:#キングコング映画
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