黒澤明が残した脚本を中国の映画会社が2020年に公開予定として発表され、世界のメディアでこの映画へますます注目が集まっている。

エドガー・アラン・ポーの短編『赤死病の仮面』を黒澤が独自に書き換えて、ロシアを舞台に映画化を目論んでいたこの作品。
原作エドガー・アラン・ポーの短編のあらすじは--

ある国で「赤死病」という疫病が広まり、長い間人々を苦しめていた。ひとたびその病にかかると、眩暈が起こり、体中が痛み始め、発症から三十分も経たないうちに体中から血が溢れ出して死に至る。しかし国王プロスペローは、臣下の大半がこの病にかかって死ぬと、残った臣下や友人を引き連れて城砦の奥に立てこもり、疫病が入り込まないよう厳重に通路を封じてしまった。城外で病が猛威を振るうのをよそに、王は友人たちとともに饗宴にふけり、やがて5、6ヶ月もたつとそこで仮面舞踏会を開くことを思い立った。舞踏会の会場となる部屋は奇妙なつくりをしており、7つの部屋が続きの間として不規則につながり、またそれぞれの部屋はあるものは青、あるものは緑という風に壁一面が一色に塗られ、窓にはめ込まれたステンドグラスも同じ色をしていた。ただ最も奥にある黒い部屋だけは例外で、ここだけは壁の色と違いステングラスは赤く、その不気味な部屋にまで足を踏み入れようとするものはいなかった。
舞踏会は深夜まで続き、黒い部屋に据えられた黒檀の時計が12時を知らせると、人々はある奇妙な仮装をした人物が舞踏会に紛れ込んでいることに気がついた。その人物は全身に死装束をまとい、仮面は死後硬直を模した不気味なものであり、しかもあろうことか赤死病の症状を模して、仮面にも衣装にも赤い斑点がいくつも付けられていた。この仮装に怒り狂った王はこの謎の人物を追いたて、黒い部屋まで追い詰めると短剣を衝き立てようとするが、振り返ったその人物と対峙した途端、絨毯に倒れこみ死んでしまう。そして参会者たちが勇気を振起し、その人物の仮装を剥ぎ取ってみると、その下には何ら実体が存在していなかった。この瞬間、赤死病が場内に入り込んでいることが判明し、参会者たちは一人、また一人と赤死病にかかって倒れていった。

そして、生前の黒澤監督がこの原作を基に、舞台をロシアに置き換え、また病気をペストにして、フェデリコ・フェリーニや手塚治虫などと進めようとして動いていた作品がこの『黒き死の仮面』です。

「黒澤アーカイヴ」のWEBサイトに、脚本や制作ノートが掲載されている。
(岩波書店から出版されている『全集 黒澤明』の第七巻にも脚本全体が掲載)

1977年に井手雅人とともに執筆されたこの脚本とともに記載されている黒澤監督自身の手書きで残された製作ノートでは、人類を絶滅させる恐れがある疫病と戦う中で、その黙示録的な世界を想像している黒澤監督の想いが伝わってきます。

英語版脚本の表紙

www.afc.ryukoku.ac.jp
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完成していれば黒澤監督の作品の中で、もっとも、人間の愚かさ、愚劣さを描いた映画となり、壮絶な終末観を描こうとしていたことが文章から、垣間見られます。

以下、製作ノートからの抜粋

「この作品は、おそらく鮮烈な映画詩となるはずだ」

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「刹那的な享楽に走り、それは、歯止めのない状態になるだろう。人間性の通常はかくされている部分をむき出しにしたグロテスクな様相を見せるだろう。」

「ありあまった時間、愛すべきものもなく贅沢な環境の中に置かれた人間達は、先ず酒池肉林を現出するだろう。」

「また、それにもあきてセックスの乱脈は果てしもなく広がるだろう。その人間のあわれなあさはかな状態の描写をためらってはならない。」

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「昔も今も変わらぬ、人間の愚劣と醜悪に対する痛烈な諷刺を根太く。」

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ノートに書かれた、『乱』の落城のシーン(恐ろしく、すさまじく、そして妖しい)が全編にわたるような世界。

現在公開中の黒澤明監督『乱 4K』

黒澤明の代表作デジタル修復『乱 4K』 予告

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黒澤の残した、この最後のメッセージが2020年にどのように公開されるのでしょうか、そして、監督は一体誰になるのでしょうか---? 
今後の動向も気になりますね。

『乱4K』は YEBISU GARDEN CINEMAほか順次全国上映中