今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。

この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!

この映画祭の魅力をお伝えします。

第69回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2016】20

それでは、長編コンペティション部門の受賞作と受賞コメントをかいつまんで紹介!
 
2度目の最高賞パルムドールに輝いた『アイ・ダニエル・ブレイク』はケン・ローチ監督渾身の社会派ドラマ!

〈カンヌ国際映画祭便り5〉で既にお伝えした通り、映画祭序盤の13日(金)に正式上映された『アイ・ダニエル・ブレイク』は、名匠ケン・ローチ監督がイギリスの緊縮財政の皺寄せによる理不尽な福祉行政に翻弄される庶民の姿を綴った社会派ドラマだ。

メル・ギブソンとジョージ・ミラーから名前を告げられたケン・ローチ監督は、脚本家のポール・ラヴァティとプロデューサーのレベッカ・オブライエンを伴って登壇。楯を手渡されるや力強くガッツポーズし、フランス語でスピーチを開始。

受賞者会見:ケン・ローチ監督 Photo by Yoko KIKKA

スタッフ、映画祭関係者一同、審査員に対して型通りの謝意を表した後、英語に切り替えたケン・ローチ監督は、「こんな社会状況の中で受賞することに非常に違和感がある。この映画を示唆してくれたのは世界有数の経済大国で飢えと闘う人々だ。今、現実世界は危機に瀕している。“自由主義”という名の下で緊縮財政が断行され、東はギリシャから西はスペインまで、その状況はカタストロフィーだ。一握りの人々に富が集中する一方で、大勢の人々が貧困に喘いでいるんだ。彼らの存在を決して忘れてはならない」と大熱弁!

受賞者会見:ケン・ローチ監督 Photo by Yoko KIKKA

さらには「映画には多くの伝統がある。ワクワクする面白い娯楽作でイマジネーションの世界を覗く事も、絶望があふれる現実世界を知る事も同じ様に重要なんだ。今こそ伝統を守らなければならない」と続け、“極右”の台頭に警鐘を鳴らした上で、「新しい世界を作ろう!」と拳を振り上げた。

次点のグランプリは早熟の天才グザヴィエ・ドランの『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』が受賞!

グランプリを受賞した『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』は、映画祭後半の19日(木)が正式上映日だった家族ドラマ。
グザヴィエ・ドラン監督は授賞式で、映画祭ディレクターのティエリー・フレモーらに謝意を述べた後、映画製作に携わった人々やエージェント、配給関係者、友人と家族に感謝。

受賞者会見:グザヴィエ・ドラン監督 Photo by Yoko KIKKAoko KIKKA

時折、こみ上げる涙を堪えながら、審査員に「この映画の感情を理解していただき、ありがとうございます。“感情”を共感するのは難しいことです。ジャン=リュック・ラガルスの原作を汚さないように努め、最善を尽くしました」と述べ、さらには感情を迸らせる登場人物たちに命を吹き込んだ俳優陣に言及。

受賞者会見:グザヴィエ・ドラン監督 Photo by Yoko KIKKAoko KIKKA

「僕は成長するに従い、人から理解されることの難しさを知るようになりました。でも今日、自分のことを理解し、自分が何者であるかが、ようやく判りました。そして確信しました。妥協したり、安易な方向に流されず、ハートと本能を持つ我々のような人間を描く映画を作るべきだとね」と、我が道を行くことを決意表明。そして友人だった今は亡き衣装担当者フランソワ・バルボに哀悼の意を表した後、アナトール・フランスの名言で締めくくった。

監督賞は、ルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督とフランスのオリヴィエ・アサイヤス監督が同時受賞!

17日(火)に正式上映されたオリヴィエ・アサイヤス監督の『パーソナル・ショッパー』は、前作『アクトレス~女たちの舞台~』でクリステン・スチュワートを起用(アメリカ人女優初のセザール賞受賞!)したオリヴィエ・アサイヤス監督が、彼女を今度は主役に据えたスピリチュアル映画。
19日(木)に正式上映されたクリスティアン・ムンジウ監督の『グラデュエーション』は、父と娘の複雑な心理と関係性を繊細に描写した人間ドラマだ。

受賞者会見:オリヴィエ・アサイヤス監督 Photo by Yoko KIKKA

受賞者会見:クリスティアン・ムンジウ監督 Photo by Yoko KIKKA

授賞式でネメシュ・ラースローとアルノー・デプレシャンに名前を告げられた2監督はスピーチの順番を譲り合った後、まずはオリヴィエ・アサイヤス監督が発言。「言葉にならないほどの感動です。なにせ初めての受賞ですから。この賞をクリスティアン・ムンジウ監督と分かち合えて嬉しいです」とコメントし、映画祭ディレクターのティエリー・フレモー、審査員、スタッフらに謝意を述べた。

受賞者会見:クリスティアン・ムンジウ(左)と『グラデュエーション』の出演女優マリア・ドラグス
Photo by Yoko KIKKA

続いて、クリスティアン・ムンジウ監督が審査員、キャスト&スタッフ、支えてくれた家族に謝意を述べた後、「一人では映画は作れません。今、作家主義の映画が“ニッチ”になりつつあります。このままではダメです。カンヌ映画祭のおかげで作家主義の映画は存在し続けるだろうけれど、監督にも責任があることを忘れずにいたいです」とコメントした。
(記事構成:Y. KIKKA)

吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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