今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。

この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!

この映画祭の魅力をお伝えします。

第69回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2016】14

晴天に恵まれた映画祭9日目の19日(木)。“コンペティション”部門では、ルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督の『グラデュエーション』、カナダのグザヴィエ・ドラン監督の『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』が正式上映。
“ある視点”部門では2作品が上映され、“招待上映”部門にはジム・ジャームッシュ監督のドキュメンタリー映画『ギミー・デンジャー』とスペインのアルベルト・セラ監督の『ラスト・デイ・オブ・ルイXIV』が登場。“シネフォンダシオン”部門ではプログラム〈2〉&〈3〉を上映。
また、併行部門の“批評家週間”は、本日で開幕し、明日20日の同部門では、受賞作がリピート上映される予定だ。

クリスティアン・ムンジウ監督の『グラデュエーション』はルーマニア・ベルギー・フランスの合作映画

2007年の『4ヶ月、3週と2日』でルーマニア映画初のパルムドール受賞という快挙を成し遂げ、2012年の前作『汚れなき祈り』では脚本賞と女優賞をダブル受賞した俊英監督クリスティアン・ムンジウの待望の新作『グラデュエーション』は、共同プロデューサーにベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟が名前を連ねた注目作だ。

ルーマニア南部トランシルヴァニアの小さな地方都市。49歳の医師ロメオ(アドリアン・ティティエニ)の娘で、高校卒業とイギリス留学を間近に控えたエリザ(マリア・ドラグシ)が、暴漢に襲われてしまう。大事には至らなかったが、彼女の動揺は大きく、高校の卒業試験(この成績によって留学先が決定する)に影響を及ぼしかねない状態だ。事件の朝、登校途中のエリザを同乗していた車から降ろし、愛人宅に向かったことでの後ろめたさもあるロメロは、娘の試験結果を裏で操作すべく奔走し始める。だが、父親の思惑を知ったエリザは反発し、ロメオには検察捜査の手が迫り……。

朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた『グラデュエーション』の公式記者会見にはクリスティアン・ムンジウ監督と、父娘役のアドリアン・ティティエニとマリア・ドラグス、そして共演俳優2名が参加した。

『グラデュエーション』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

左からアドリアン・ティティエニ、クリスティアン・ムンジウ監督 Photo by Yoko KIKKA

映画製作に携わる前に教師・ジャーナリストとして働いた経験を持つクリスティアン・ムンジウ監督は、会見での質疑にも英語とフランス語の両方に即応し、「映画製作においては、キャラクターが一番重要」コメント。
父娘の複雑な心理と関係性を繊細に描写した監督の演出について俳優陣は、「こんなに何回も撮影でテイクを重ねるとは思わなかった」、「毎回およそ30テイク、多い時には40〜50回にも及んだのよ」と、口々にその徹底ぶりを語った。

フランスの人気俳優が勢揃いしたグザヴィエ・ドラン監督の『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』

子役出身のグザヴィエ・ドラン(1989年、モントリオール生まれ)は、2009年の初監督&主演作『マイ・マザー/青春の傷口』で“監督週間”の3賞を独占してセンセーションを巻き起こし、長編2作目の『胸騒ぎの恋人』は翌年の“ある視点”部門に出品。

2012年に同部門で上映された3作目『わたしはロランス』ではスザンヌ・クレマンに“ある視点”女優賞をもたらし、ヴェネチアア国際映画祭のコンペ部門に出品した4作目『トム・アット・ザ・ファーム』では国際批評家連盟賞を受賞。そして2014年の5作目『マミー』はカンヌ初コンペにして審査員賞を獲得。そして昨年は“長編コンペティション”部門の審査員をも務めた早熟の異才監督だ。

長編6作目となる『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』は、1995年に38歳の若さで急逝したフランスの劇作家ジャン=リュック・ラガルスの舞台劇「まさに世界の終わり」をドラン自らが脚色して映画化。
自分の死期が近いことを伝えるために12年ぶりに帰郷した人気若手作家ルイの苦悩と家族の葛藤を描いた家族ドラマである。主人公以外の家族が大声で喧しく歪み合うシーンとクローズアップ場面があまりにも過剰だったためか、昨夜のプレス向け試写では失笑やブーイングが多発していた。

夜の正式上映に先立ち、12時半から行われた『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』の公式記者会見には、グザヴィエ・ドラン監督とプロデューサー、そして出演したギャスパー・ウリエル(ルイ役)、レア・セドゥ(妹役)、ヴァンサン・カッセル(兄役)、マリオン・コティヤール(兄嫁役:『フロム・ザ・ランド・オブ・ザ・ムーン』に続き2度目の会見!)、ナタリー・バイ(母親役)が登壇した。

『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

グザヴィエ・ドラン監督 Photo by Yoko KIKKA

左からギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ Photo by Yoko KIKKA

マリオン・コティヤール Photo by Yoko KIKKA

ヴァンサン・カッセル Photo by Yoko KIKKA

会見で、素晴らしい現代演劇を脚色できて本当に光栄だと述べたグザヴィエ・ドラン監督は、「スクリプトはわずか80頁のみで、即興演技も多いんだ。“意思の疎通”を沈黙する人物の表情で表現するためにカメラを寄り添わせ、クローズアップを多用した。そして過去の回想シーンはカラフルな色使いにし、現在のシーンは寒々しいブルーを基調にしている」とコメント。
また、他愛無い会話を繰り返すことで真実に背をむけ、嘘をついてしまう家族に扮したスター俳優たちのコメントの数々も実に興味深い会見であった。

公式記者会見で、イギー・ポップ節が大炸裂したジム・ジャームッシュ監督の『ギミー・デンジャー』!

24時からのミッドナイト上映に先立ち、16時からイギー・ポップ&ストゥージズのドキュメンタリー映画『ギミー・デンジャー』の公式記者会見が行われ、ジム・ジャームッシュ監督、プロデューサー2人と編集者、そしてイギー・ポップが登壇した。

ジム・ジャームッシュ監督 Photo by Yoko KIKKA

イギー・ポップ Photo by Yoko KIKKA

パンク界に影響を与えたストゥージズの知られざる映像と写真の記録を収めた『ギミー・デンジャー』には、イギー・ポップの荒れた時代についても焦点が当てられているが、本人いわく「今は、もうドラッグはやってない。あんなもの、みんな止めるべきだね。簡単なことだろ。俺にとっては、上質なワインが一番さ」とコメント。さらには現代音楽や音楽業界の現状、デジタル時代に対する批判を滔々と語り、衰えの知らないイギー・ポップ節を炸裂させた。
(記事構成:Y. KIKKA)

吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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