今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。

この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!

この映画祭の魅力をお伝えします。

第69回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2016】13

日中は快晴だったが、夜半に小雨が降った18日(水)は、日本人ジャーナリストにとって、大忙しの1日となった。『ジ・アンノウン・ガール』と『マ・ローザ』の公式記者会見後、昼食を挟んでナ・ホンジン監督の『ザ・ウェイリング』の公式記者会見に参加。
終了するやダッシュで『レッドタートル ある島の物語』の上映の場に立ち会い、その後は囲み取材の場へ。そして深夜には、正式上映を終えた是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』組を囲むことになった。
 
ナ・ホンジン監督の『ザ・ウェイリング』は、國村隼が強烈な印象を刻み込んだサスペンス・スリラー!

『チェイサー』『哀しき獣』で知られる韓国のナ・ホンジン監督のサスペンス・スリラー『ザ・ウェイリング』が招待部門に出品された。
のどかで平和な村に、得体の知れないよそ者の男がやってくる。その目的は誰も知らず、村中に彼に関する噂が広がるにつれ、村人が自身の家族を虐殺する事件が多発し、村は大騒ぎとなる。事件を担当する警官ジョングは、ある日、自分の娘に殺人犯たちと同じ湿疹があることに気付き……。

主人公ジョング役はドラマや映画の名脇役として知られ、本作が初主演となるクァク・ドウォン。そして“よそ者”を演じた國村隼の圧倒的な存在感が光る骨太作品だ。
22時からの正式上映に先立ち、15時15分から行われた本作の公式記者会見には、ナ・ホンジン監督と出演者のクァク・ドウォン、國村隼、チョン・ウヒが登壇した。

『ザ・ウェイリング』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

ナ・ホンジン監督 Photo by Yoko KIKKA

國村隼 Photo by Yoko KIKKA

ナ・ホンジン監督のたっての希望で出演したという國村隼は「日本映画ではなく、初の韓国映画でカンヌに来られて、大変光栄です。役者のクオリティの高い韓国映画に出演したいと以前から思っていました。僕が演じた“異物”のキャラは肉体的に過酷でしたが、実にやりがいがありました」とコメント。

日仏合作のアニメ映画『レッドタートル ある島の物語』のオランダ人監督はオスカー受賞歴のある実力派!

“ある視点”部門に出品された『レッドタートル ある島の物語』が16時45分から“ドビュッシー”ホールで上映された。本作は“スタジオジブリ”がフランスの会社と共同製作した異色のアニメ映画で、セリフを一切排し、圧倒的な画力で魅せる力作だ。

『レッドタートル』の舞台挨拶:左からマイケル監督、鈴木プロデューサー、パスカル・フェラン Photo by Yoko KIKKA

マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督は2000年に発表&公開された8分間の短編アニメ『岸辺のふたり』でアカデミー賞短編アニメーション映画賞を受賞したツワモノで、『レッドタートル ある島の物語』は監督にとって初の長編アニメーション。そして監督と共同脚本したパスカル・フェランは、長編デビュー作『死者とのちょっとした取引』(1994年)でカメラドールを受賞したフランスの脚本家&監督である。

嵐の中、荒れ狂う海に放り出された男が九死に一生を得て、ある無人島に漂着する。彼は必死に島からの脱出を試みるが、不思議な見えない力によって何度も島に引き戻され、絶望的な状況に陥ってしまう。だが、ある日、彼の前に一匹のウミガメが姿を現し……。

上映前には、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督とともに“スタジオジブリ”の鈴木敏夫プロデューサーが作務衣姿で登壇して舞台挨拶。中央の座席で関係者たちと本作の上映を見守った2人は、上映後に巻き起こった熱いスタンディングオベーションに感無量の表情を浮かべた。

鈴木敏夫プロデューサー Photo by Yoko KIKKA

日本人報道陣に囲まれたマイケル監督と鈴木プロデューサー Photo by Yoko KIKKA

その後、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督と鈴木敏夫プロデューサーは、超高級ホテル、マジェスティック・バリエールが有するプライベート・ビーチの桟橋へと移動。日本人報道陣の囲み取材を受けたマイケル監督は「本当に感謝の気持ちでいっぱいです。スタジオジブリのアニメーション製作の豊かな経験から生まれる様々なアイディアはこの作品を製作する上で、とても素晴らしく力になりました」とコメント。
鈴木プロデューサーは「スタンディングオベーションを受け、本当にカンヌに来てよかった」と顔を上気させながら喜んだ。

是枝裕和監督と出演俳優の3人、阿部寛、樹木希林、真木よう子がカンヌ入りした『海よりもまだ深く』

2001年の『DISTANCE』でコンペに初参戦し、2004年の『誰も知らない』では柳楽優弥にカンヌ史上最年少での男優賞をもたらし、2013年の『そして父になる』で審査員賞を受賞した是枝裕和監督の最新作『海よりもまだ深く』(5月21日公開)が、“ある視点”部門で上映された。

この部門への出品は2009年の『空気人形』以来、7年ぶりの2度目である。是枝監督がかつて実際に暮らしていた“団地”が主な舞台となる『海よりもまだ深く』は、いつまでも大人になりきれない中年男と周囲の人々の人間模様を描いたホームドラマだ。

作家として成功する夢を捨て切れぬまま探偵事務所で働く良多(阿部寛)は、離婚した元妻(真木よう子)と息子(吉澤太陽)に久しぶりに会った日、2人を伴って老母(樹木希林)が独居生活する実家の団地を訪れるが、折り悪く大型の台風が接近し……。共演は小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮ら。

22時15分からドビュッシー・ホールで正式上映された『海よりもまだ深く』の舞台挨拶には、カンヌ入りした是枝裕和監督と出演俳優の3人、阿部寛、樹木希林、真木よう子が登壇。上映にも立ち会った4人は熱いスタンディングオベーションに応えた後、上映会場近くのホテルに移動。

日付が変わった深夜に行われた日本人報道陣向けの囲み取材において、是枝監督は「お客さんたちの表情がとてもあたたかく優しくて感動しました」とコメント。
今回が初カンヌで、既にカンヌ経験のある2女優に色々と教えを乞うたという阿部寛は「これだけ多くの観客が拍手をして下さり、それが鳴り止まなくて、本当に感動しました」と興奮冷めやらぬ様子で述べ、カンヌの印象が土砂降りの雨に祟られた前回(『そして父になる』上映時)とは全く異なったという真木よう子は、「また温かい拍手に包まれて、反応が予想をはるかに超えて良かったので、とても嬉しかったです」とコメント。

『海よりもまだ深く』組:左から是枝裕和監督、阿部寛、真木よう子、樹木希林 Photo by Yoko KIKKA

また、上映で笑い声が数多く沸き上がったことに関して是枝監督が「泣かれるより嬉しいです。より登場人物を身近に感じてくれた証拠だと思うので、言葉が悪いけれど、してやったり!と思ってしまいました」と述べるや否や、樹木希林が「それは言葉がダメね。もっと監督は良い言葉を選ばなきゃ。でも“伝わったな”って思えたわね!」と反応。また、「初号試写に続き、作品を観るのは2度目でしたが、監督が何か粉を撒いたんじゃないかと思うくらい、みんな上手に見えました!」等々、当意即妙な樹木希林節が炸裂する場となった。
(記事構成:Y. KIKKA)

吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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