今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。

この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!

この映画祭の魅力をお伝えします。

第69回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2016】11

映画祭も後半戦に突入し、青空が広がった7日目の17日(火)。“コンペティション”部門では、スペインのペドロ・アルモドヴァル監督の『ジュリエッタ』、フランスのオリヴィエ・アサイヤス監督の『パーソナル・ショッパー』、ブラジルのクレベール・メンドンサ・フィリオ監督の『アクエリアス』の3本が正式上映。

招待部門ではフランスのグレゴワール・ルプランス=ランゲ監督の『フール・ムーン』を上映。“ある視点”部門にはアメリカのマット・ロス監督の『キャプテン・ファンタスティック』など2作品が登場。また、16時からは溝口健二監督の名作『雨月物語』(1953年公開)の4Kデジタル復元版が、“カンヌ・クラシック”部門で上映された。

『ジュリエッタ』は、スペインの鬼才監督ペドロ・アルモドヴァルの長編20作目!

1999年の『オール・アバウト・マイ・マザー』で監督賞、2006年の『ボルベール 帰郷』で脚本賞&女優賞に輝いているスペインの名匠ペドロ・アルモドヴァルが、長編監督20作目となる『ジュリエッタ』でコンペに参戦した。

『ジュリエッタ』の記者会見:中央がペドロ・アルモドヴァル監督 Photo by Yoko KIKKA

本作は、カナダのノーベル賞受賞作家アリス・マンローの短編小説3編をアルモドバル監督自らが脚本化し、ひとつの物語に仕上げた家族ドラマで、孤独な熟年女性ジュリエッタが母親としての自分、そして一人娘と向き合う姿を回想シーンを織り交ぜながら、老練な語り口と色鮮やかな映像美でミステリアスかつエモーショナルに描写。数奇な運命を辿る主人公ジュリエッタの現在と過去を2人の女優が演じ分けたことも話題となった作品だ。

朝の8時半からの上映に引き続き、11時から行われた公式記者会見には、ペドロ・アルモドヴァル監督、監督の弟でプロデューサーを務めたアグスティン・アルモドヴァル、俳優のダニエル・グラゴ(夫のショアン役)と女優陣5名、アドリアーナ・ウガルテ(過去のジュリエッタ)、エマ・スアレス(現在のジュリエッタ)、インマ・クエスタ(アバ役)、ロッシ・デ・パルマ(家政婦役)、ミシェル・ジュネール(ベア役)が登壇し、大勢のジャーナリストが駆けつけた。

アドリアーナ・ウガルテ Photo by Yoko KIKKA

エマ・スアレス Photo by Yoko KIKKA

左からロッシ・デ・パルマ、ダニエル・グラゴ、アドリアーナ・ウガルテ Photo by Yoko KIKKA

会見で「本作でヒッチコックの『見知らぬ乗客』にオマージュを捧げた」と述べたペドロ・アルモドヴァル監督は、「僕はウディ・アレンでもスピルバーグでもなく、彼らほどの才能もない」と謙遜しながらも、“アルモドラマ”と称されるドラマティックな筋立て、そして「黒のドレスはレッドカーペットの上では実に映えるが、僕の映画では使わない」と断言するポップで鮮やかな色遣い等、自負している点に言及。また、プロデューサーで弟のアグスティン・アルモドヴァルには、いつもカメオ出演してもらうとのことで、本作では“車掌”の役だと明かしてくれたのだが、“パナマ文書”に兄弟の名前があったことに対する質問が飛ぶや、気色ばむ一幕もあった。

『パーソナル・ショッパー』はオリヴィエ・アサイヤス監督が前作に続き、クリステン・スチュワートを起用した心霊映画!

2004年の『クリーン』でマギー・チャンに女優賞、そして撮影監督のエリック・ゴーティエに最優秀技術賞をもたらすも、自らは無冠のままであるカンヌの常連監督オリヴィエ・アサイヤスが、仏・独・英・チェコ・ベルギー合作のスピリチュアル映画『パーソナル・ショッパー』でコンペに参戦した。

オリヴィエ・アサイヤス監督 Photo by Yoko KIKKA

パリでセレブ女性のための“買い物代行業”に就いているアメリカ人女性モーリーン(クリステン・スチュワート)。実は彼女には超能力があり、最近亡くなった双子の兄ルイスと同様、霊と交信することができた。だが、ある日を境に、発信者のわからない曖昧なメッセージがスマホに届き始め……。残念ながら昨夜のプレス試写での評判は芳しくなく、ブーイングと失笑が何度も巻き起こった作品で、クリステン・スチュワートの美しさと魅力をスクリーンに焼き付けることのみに拘った偏愛映画となっていた。

『パーソナル・ショッパー』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

クリステン・スチュワート Photo by Yoko KIKKA

夜の正式上映に先立ち、12時半から行われた『パーソナル・ショッパー』の公式記者会見にはオリヴィエ・アサイヤス監督とプロデューサー、出演者のクリステン・スチュワート(『カフェ・ソサエティ』に続き2度目の会見!)、シグリッド・ボージー、ラース・アイディンガーが登壇した。
2014年の『アクトレス~女たちの舞台~』に続くオリヴィエ・アサイヤス監督作となり、今回は主役を張ったクリステン・スチュワートは、幽霊をテーマにした本作について「詩的で変わった映画よ」とコメント。キャラクターについては事前に監督と話し合わなかったという彼女は、幽霊を信じるかという問いに対して、即座に「No!」と返答した。

クレベール・メンドンサ・フィリオ監督はコンペ初参戦作『アクエリアス』にブラジルの名女優を起用!

16時からは、正式上映が1回だけで、しかもその上映がプレス試写も兼ねるコンペ作『アクエリアス』をリュミエールで鑑賞した。本作はブラジルの気鋭監督クレベール・メンドンサ・フィリオが、『蜘蛛女のキス』で知られるブラジルのベテラン女優ソニア・ブラガをヒロインに据え、三部構成(パート1〜3)で描いた女性映画だ。

正式上映後の『アクエリアス』組:ソニア・ブラガとメンドンサ・フィリオ監督 Photo by Yoko

ブラジルのレシフェ。女手一つで3人の子供たちを育て上げたクララは65歳の元音楽評論家。海に面したクラシカルな建物「アクエリアス」で優雅に暮らす彼女は、久しぶりに一族が集った席で、若き日の官能的な行為に想いを馳せる。だが、地域の再開発を狙い、「アクエリアス」の買収に乗り出した建設会社との対立問題を抱え、疲労困憊していたクララは……。

客席で抗議する『アクエリアス』関係者 Photo by Yoko KIKKA

異例だったのはレッドカーペットに登場したスタッフ&キャストが、ブラジル政府に対する“抗議メッセージ”をカメラに向けて一斉に掲げて気勢を上げ、上映会場内でも同様のパフォーマンスに及んだことである。
(記事構成:Y. KIKKA)

吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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