今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。

この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!

この映画祭の魅力をお伝えします。

2016年 第69回カンヌ国際映画祭を振り返るー 【CANNES 2016】8

薄曇りから晴れて気温も急上昇した14日の天気は目まぐるしく変わり、一時的には夕立っぽい雷雨にも見舞われた。2つの公式記者会見に連続出席した後、14時半からスティーヴン・スピルバーグ監督の『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』の公式記者会見に出席。そして19時からはアンドレア・アーノルド監督のコンペ出品作『アメリカン・ハニー』のプレス向け試写を鑑賞。その後、深田晃司監督の『淵に立つ』の公式上映に立ち会った。

久々のファンタジー映画『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』でカンヌ入りしたスピルバーグ監督!

数々の名作、ヒット作を生み出してきた名匠スティーヴン・スピルバーグ監督による久々のファンタジー映画『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(9月公開)は、『チャーリーとチョコレート工場』などで知られる児童文学作家ロアルド・ダールの名作「オ・ヤサシ巨人BFG」を映画化した珠玉作で、孤独な10歳の少女ソフィーと心優しい巨人BFGが友情と信頼関係を結び、英国最大の危機を救うために立ち上がるという奇想天外な冒険物語だ。

14時半から行われた『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』の公式記者会見にはスティーヴン・スピルバーグ監督、ソフィー役に抜擢されたルビー・バーンヒル、BFG役のマーク・ライランス(スピルバーグ監督の前作『ブリッジ・オブ・スパイ』でアカデミー賞助演男優賞を受賞!)、英国女王役のペネロペ・ウィルトン、女王の女官役のレベッカ・ホール、悪い巨人役のジェマイン・クレメント、そしてプロデューサーのキャスリーン・ケネディとフランク・マーシャルが登壇した。

『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

左からマーク・ライランス、レベッカ・ホール Photo by Yoko KIKKA

スティーヴン・スピルバーグ監督 Photo by Yoko KIKKA

ルビー・バーンヒル(左)を温かく見守るスピルバーグ監督 Photo by Yoko KIKKA

近年シリアスな作品を撮り続けている中でファンタジー作品を選んだことについてスティーヴン・スピルバーグ監督は、「想像の中の世界をストーリーとして語りたかったんだ。歴史的な映画を作るとき、史実を正しく伝えるためにこのような想像力は横に置かなければならない。だけど、今回はそういう規制がなく、自由な形で展開できた。若いフィルム・メーカーに戻ったような気持ちになったね」と語り、いまは亡き『E.T.』の脚本家で、本作が遺作となったメリッサ・マシスンについても言及した。
また、本作に続き次回作もイングランドで撮影する予定だと明かしたスピルバーグ監督は、「何といってもキャスティングが一番重要なんだ。今回もどれだけキャストに助けられたことか」と、出演陣に感謝。

プロデューサーのキャスリーン・ケネディが、『崖の上のポニョ』のポニョをイメージしたという主人公に抜擢された“奇跡の新人”ルビー・バーンヒルは、「今回の映画は初めての大作です。子供向けのテレビ番組に出演したことはあったけど、今回は本当に夢のような経験でした。今、こうしてカンヌ国際映画祭に来ているなんて、すごい経験だと思います。『やったー!』って感じ」とコメントし、小さなガッツポーズを披露。緊張した面持ちながらも天真爛漫な笑顔を見せ、大勢の報道陣で埋め尽くされた会場を和ませた。

深田晃司監督と出演した3人、浅野忠信、筒井真理子、古舘寛治が揃って現地入りした『淵に立つ』!

“ある視点”部門に選出された日仏合作映画『淵に立つ』(今秋公開)が、22時15分からドビュッシー・ホールで公式上映された。
深田晃司監督は、2010年の長編2作目『歓待』で東京国際映画祭の日本映画“ある視点”部門作品賞とプチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞し、続く2013年の『ほとりの朔子』では、仏ナント三大陸映画祭で最高賞“金の気球賞”と若い審査員賞をダブル受賞。国際的に注目を集める気鋭の日本人監督だが、カンヌは初参加だ。
 
長編5作目となる本作は、下町で金属加工業を営む夫婦(古舘寛治、筒井真理子)のもとに突然一人の男(浅野忠信)が現れたことから奇妙な共同生活が始まり、一見平穏だった家族に“異物”が混入することで夫婦それぞれが抱える秘密が炙り出されていく様を描いた衝撃作。

『淵に立つ』の上映前スクリーン Photo by Yoko KIKKA

『淵に立つ』の舞台挨拶 Photo by Yoko KIKKA

上映前には出演陣の浅野忠信、筒井真理子、古舘寛治らを引き連れて登壇した深田晃司監督が、「まずは2時間楽しんでください。私から言えることは、本当に素晴らしい俳優たちの演技、日本を代表できる俳優たちの演技をこの映画で2時間堪能できると思います」と舞台挨拶。

スタンディングオベーションに応える浅野忠信(左)と深田晃司監督(右) Photo by Yoko KIKKA

 そして熱いスタンディングオベーションが贈られた上映後には、会場ロビーで日本の報道陣による囲み取材が行われた。
深田晃司監督は「最高のスタートを切れたと思っています」と述べた後、本作について「こういう最高の舞台を与えられましたが、やっとこれからヨチヨチ歩きを始める赤ん坊のような映画で、これから皆さんに観てもらって、いろんな声をかけてもらって大きく育っていく子供だと思っています。ぜひ皆さんで見守って育んで頂ければと思います」とコメント。

上映後の深夜、日本の報道陣に囲まれた『淵に立つ』組 Photo by Yoko KIKKA

2年連続のカンヌ参加となり、「これから毎年来られるよう頑張ります(笑)」と新たな目標を掲げた浅野忠信は、本作について「本当に長い闘いだったので、それがやっと実ったというか……。このカンヌに来るときも、飛行機が辿り着かないとか、荷物が着かないとか、ハプニング続きだったんです。本当に今はとてもホッとしています」とコメント。
そして古舘寛治は「すごく温かい拍手をいただいて、とても嬉しいです」と、ずっとカンヌに行きたいと思っていたという筒井真理子は「報告をマネージャーからもらったとき、『あぁー』って、遠い目になってしまって(笑)、今もちょっとフワフワしています」と、それぞれ初カンヌの感想をコメントした。
(記事構成:Y. KIKKA)

吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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