今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。
この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!
この映画祭の魅力をお伝えします。
第69回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2016】3
映画祭2日目の12日(木)。朝晩は冷え込み、強風が吹き荒れはしたものの晴れ渡った本日、“コンペティション”部門で正式上映されたのは、ともに“ある視点”部門からの昇格組であるフランスのアラン・ギロディー監督の『ステイイング・ヴァーティカル』と、ルーマニアのクリスティ・プイウ監督の『シエラネヴァダ』の2作品。そして招待作品の目玉であるジョディ・フォスターの監督の『マネーモンスター』が登場!
また、映画祭オフィシャル部門の第2カテゴリーである“ある視点”部門、さらには映画祭の併行部門(主催団体が異なる)の“監督週間”と“批評家週間”も本日、開幕!
『ステイイング・ヴァーティカル』は、独特な世界観で唸らせるアラン・ギロディー監督の奇想天外なドラマ!
2001年の『動き出すかつての夢』、2003年の『勇者に休息なし』、2009年の『キング・オブ・エスケープ』の3本が“監督週間”で上映され、“ある視点”部門で2013年に上映されたスリラー『湖の見知らぬ男』で同部門の監督賞とクィア・パルム(LGBTをテーマにした映画に与えられる独立賞)を受賞した鬼才アラン・ギロディー監督が、満を持してコンペ初参戦!
『ステイイング・ヴァーティカル』は、フランス南部のグラン・コースを訪れた脚本家の青年レオ(ダミアン・ボナール)が、ライフル銃を担いだ女羊飼いマリー(インディア・エール)に誘惑されたのをきっかけにして辿る奇妙な運命を描いたドラマで、自らゲイをカミングアウトしているギロディー監督の自由奔放なセクシャリティ描写と特異な世界観が炸裂するユニークな作品だ。また、SEXシーンが終る度に、時間をかなり経過させるという構成も凝っており、興味深かった。
メイン会場のグラン・テアトル・リュミエールで、朝の8時半から行われた『ステイイング・ヴァーティカル』の上映(昨年までは、ボディ&荷物チェックは会場内だったが、今年は入場前に、しかも念入りに施行!)に続き、11時から行われた本作の公式記者会見には、アラン・ギロディー監督、俳優陣のダミアン・ボナール、インディア・エール、ラファエル・ティエリー、そしてギロディー監督とは3作品で組んでいる女性プロデューサーのシルヴィ・ピアラが登壇。さらには脇を固めた俳優らも記者席の最前列で会見を見守った。
SEXは喜びであり、苦痛でもある行為であるからして、悲劇と喜劇が行き交う物語にしたんだと語るアラン・ギロディー監督は、「僕にとって動物の出演シーンはマストなんだ。で、今回はオオカミにしたよ」と飄々とコメント。
ルーマニアの実力派監督クリスティ・プイウの初コンペ作『シエラネヴァダ』は、リアリズム演出に徹した“ある一族の物語”
2005年に“ある視点”部門で上映された『ラザレスク氏の最期』で、“ある視点賞”を獲得し、2010年の『オーロラ』も同部門で上映。2014年には『サラエボの橋』が特別上映されたルーマニアのクリスティ・プイウ監督の初コンペ作『シエラネヴァダ』は、父の死後、40日目の法要日を迎えた神経科医のラリー(ブラネスク・ミミ)が妻を伴い、親族が集った実家に戻って過ごす1日を描いた群像会話劇。
司祭の到着を待つ15人以上の人々が、決して広くは無い実家のアパートの部屋から部屋へと移動しながら延々と口論する様を自然光や長廻しを駆使して撮ったシークエンスが圧巻で、口論の内容は家族間の諍い事から世界情勢、各地で勃発するテロや戦争にまでいたり、雑多な話題ながらも民主化後のルーマニアに対する世代間の考え方の違いなども浮き彫りに。自動車の駐車をめぐる小さなトラブルを描いた数少ない屋外シーンも印象的であった。
15時半からのマチネ1回のみの正式上映に先立ち、12時半から行われた『シエラネヴァダ』の公式記者会見にはクリスティ・プイウ監督とプロデューサー、男優のブラネスク・ミミ、女優のダナ・ドガールの4人が登壇した。
(記事構成:Y. KIKKA)
吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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