1月16日に行われたマーティン・スコセッシ監督の再来日による記者会見を皮切りに、日本人キャストと感動的な再会を果たした17日のジャパンプレミア、18日にはキチジロー役の窪塚洋介による長崎プレミアと、『沈黙-サイレンス-』が日本列島を駆け抜けた1週間。そのクライマックスとなる初日舞台挨拶が、TOHO シネマズ スカラ座で行われた。
小説の発表から50年余、1981年10月の文庫化された「沈黙」は、時と共に版を重ね、ついに「200万部」の大台を突破したことでも話題に。今、“人間にとって本当に大切なものは何か”を問う『沈黙−サイレンス』が現象化の兆しを見せている。
遠藤周作の「沈黙」との出会いから28年、マーティン・スコセッシにとって夢の企画であったこのプロジェクトには、主演のアンドリュー・ガーフィールドを筆頭にアダム・ドライバー、リーアム・ニーソン、日本からは窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシら各世代の実力派が名を連ねる。
人間の強さ、弱さとは? 信じることとは? そして、生きることの意味とは?
混迷を極める現代において、永遠のテーマを深く、尊く描いた、マーティン・スコセッシの最高傑作にして本年度アカデミー賞®最有力作品が、待望の日本公開となった。
初日舞台挨拶には、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈が登場した。
『沈黙−サイレンス−』初日舞台挨拶 開催概要
■日 時:1月21日(土) 14:20〜
■出席者:窪塚洋介 浅野忠信 イッセー尾形 塚本晋也 小松菜奈
■会 場:TOHOシネマズ スカラ座
劇場は、わずか1分で完売したチケットを手に入れた約600人を超える観客で満員。
5人のキャストが登場すると、作品を鑑賞したばかりの場内から、作品の満足度を感じさせる盛大な拍手が巻き起こり、熱気に満たされた中で初日舞台挨拶が行われた。
物語の鍵を握るキチジローを演じた窪塚洋介は、「監督は僕の中にキチジローを感じてくれていた。どんな演技をしても“ワンダフル、アメージング”と毎回褒め、うまく手のひらの上で踊らせてくれた。そしてもう一回やろうと言われた」と、何度もテイクを重ねた撮影を振り返った。
浅野忠信は、「実はオーディションで一度落ちている」と告白、「でも、この監督と絶対に一緒に仕事をしなくてはならないと必死でしがみついて、この役を掴みました。とても充実した時間で、多くの事を学びました。嬉しい気持ちで一杯」と微笑んだ。
役作りについては、「通訳として人と人の間に立ち、自分の意見を言わないという役を演じるのは初めてで、必死で台本を読み込んだ」と述懐。「窪塚さんとご一緒するシーンはなかったのですが、映画を観るともうキチジローが本当に良いと思います」と浅野が述べると、窪塚は「浅野さんのローボイスで“転ぶ”と言ったりしています」と場内から笑いを誘った。
老獪な奉行の演技が高く評価されるイッセー尾形は、「映画を初めて観たときは、言葉にならなった。生まれて初めて“言葉にならない感動”というものを経験した」と、本作を深く受けとめた。「台詞が英語なので、アンドリューに届いたかが掴めなくて苦労した。結局はクソ度胸とハッタリですね。悔いが残らないよう全力でやりました」と、英語のセリフに苦労しながらも撮影には全力投球で挑んだ。
溢れんばかりスコセッシ愛でモキチを演じた塚本晋也は、「長かった。オーディションから8年、ずっとこの作品に関わり続けてきた。まだ終わったことが信じられなくて、まだアフレコあるよと声をかけられるのではとちょっとソワソワしています。でもその心配もなくなるんですね。ほっとしたような、さびしいような気がします。ここからは、皆さんに作品を育ててもらうのだなと思っています」とコメントした。
本作でハリウッドデビューを飾った小松菜奈は、「ビデオオーディションが初めてだったので、最初から苦労しました。海外の現場は日本とは全く違い、たくましくなったと思います。撮影時は19歳、たくさん学んで、得るものが多かった。皆さんの“生の芝居”の中で演じることができたことに感動しました」と、現場を振り返った。
今この社会で『沈黙』という作品が問いかけるメッセージについて、浅野は、「映画を観た時にその静かな音に心惹かれました。映画は虫の声で始まり、自然に物語に入っていくことができる。映画の中では物語が進行しますが、その周りを取り囲む静かな音こそが、もしかしたら重要なんじゃないかな、と。映画には強いメッセージが込められていますが、それと同時に流れている“あたたかな時間”というものがきっと誰のもとにも届いている」と語った。
尾形は、「弾圧する側として、一言述べさせていただきます。劇中、リーアム・ニーソンさんを穴吊りにする場面があります。そこで僕は“人間が終わっていく瞬間”を目撃していると感じました。人がモノに変わっていくところを見ていると、自分までモノに変わって行くような気がした。人間性の欠片もなくなってしまう、恐ろしい体験でした。井上は弾圧する側の人間ですが、人をモノに変えてしまった彼自身もまた人でなしになってしまった。そういう意味では彼は決して勝者ではない。そんな撮影をくぐり抜けて、今生きています」と背筋を伸ばした。
塚本晋也は監督作を引用し、「僕が作った『野火』とテーマが似ている。原作を読んでも、その考えは当たっていた。遠藤周作さんは「沈黙」という小説で、権力によって信仰が押しつぶされる様を描いています。他にも「女の一生」という作品では1部は宗教弾圧、2部は戦争によって自由が押しつぶされるところを描いています。歴史を見ると人々の自由を権力が押しつぶすということを、いつも繰り返している事がわかります。今、日本は70年戦争を行っていない。喜ばしいことではありますが、ウカウカしていられない警告のようなものを感じていただきたい」と表情を引き締めた。
小松は、「同世代の若い人々に見てもらいたい。このような考えさせられる映画を観て何かを感じたらそれを聞かせてもらいたい。感想を言うのはすごく難しいですが、言葉にできないけれど、感じることはあると思います。劇場でそれを体感してもらえたら嬉しい」と述べた。
最後に窪塚洋介が、「2011年3月11日、大震災でたくさんの“弱者”が生まれました。その後もたくさんの弱者が生まれています。この映画を通して皆さんが自分の答えを見つけて、自分の人生を全うするのはとても大切なことだと思います。今この時代にこそ必要な映画です。この映画を通して、皆さんのもとにきっとより良い明日が来ると信じています」と締めくくると、場内から大きな拍手が巻き起こった。
マーティン・スコセッシは先の記者会見で「映画が完成したから終わりではなく、この映画とともに生きていく」とコメントを残した。遠藤周作からスコセッシへと受け継がれた真摯なメッセージが、今日本全国へと伝わっていく。
是非、全国の映画館で受けとめていただきたい。
また、世界が注目するアカデミー賞®ノミネートは、日本時間24日の夜発表となる。スコセッシ監督はもちろん、強烈な演技で存在感をアピールした日本人キャストへの評価も気になるところだ。期待して待ちたい。
【STORY】
17世紀、江戸初期。幕府による激しいキリシタン弾圧下の長崎。日本で捕えられ棄教したとされる高名な宣教師フェレイラを追い、弟子のロドリゴとガルペは日本人キチジローの手引きでマカオから長崎へと潜入する。
日本にたどりついた彼らは想像を絶する光景に驚愕しつつも、その中で弾圧を逃れた“隠れキリシタン”と呼ばれる日本人らと出会う。それも束の間、幕府の取締りは厳しさを増し、キチジローの裏切りにより遂にロドリゴらも囚われの身に。頑ななロドリゴに対し、長崎奉行の井上筑後守は「お前のせいでキリシタンどもが苦しむのだ」と棄教を迫る。次々と犠牲になる人々。守るべきは大いなる信念か、目の前の弱々しい命か。心に迷いが生じた事でわかった、強いと疑わなかった自分自身の弱さ。追い詰められた彼の決断とは
『沈黙‐サイレンス‐』日本オリジナル予告
映画『沈黙-サイレンス-』
原作:遠藤周作「沈黙」(新潮文庫刊) 原題:Silence 監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ 撮影:ロドリゴ・プリエト 美術:ダンテ・フェレッティ 編集:セルマ・スクーンメイカー
出演:アンドリュー・ガーフィールド リーアム・ニーソン アダム・ドライバー
窪塚洋介 浅野忠信 イッセー尾形 塚本晋也 小松菜奈 加瀬亮 笈田ヨシ
配給:KADOKAWA
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