Cinefilをご覧の皆様、私、映画「レミニセンティア」の監督の井上雅貴と申します。

映画「レミニセンティア」はオールロシアロケ、ロシア語の映画です。
しかし、日本人監督、自主制作で日本のお金で作られていることから、日本映画(邦画)という括りになっている制作過程からして複雑な映画です。日本映画史上初の日本人監督が描くロシアSFという宣伝をしております。
以前なぜロシアで撮影をしようと思ったのかをお伝えさせていただきました。今回は実際ロシアに渡った時のお話をします。

映画場面

製作陣たった3人で渡航!『レミニセンティア』ができるまで

この映画で必ず守ること、それは商業映画に匹敵するハイクオリティで制作することでした。
それはきれいな画を撮るという事ではありません。映画のシナリオ、画面のルック、そして役者の演技など、他の自主製作で撮られた映画の緩い部分が一切ないようにする事です。
まずは自主制作で作られ、評価の高い映画を見て研究しました。
参考にした映画は多々ありますが、しいてタイトルをあげるとすれば、クリストファー・ノーランの「フォロウイング」、ロバート・ロドリゲスの「エルマリアッチ」、ギャレス・エドワーズの「モンスターズ」など、低予算で高いクオリティを保った作品です。
特にエルマリアッチとモンスターズは監督の出身国とは違う国で撮った作品で、非常に参考になりました。メイキング映像はもちろん、監督のインタビューや本を読んでその時の状況を知りました。研究を重ね、カメラの選定、シナリオの構成、制作体制も考え抜きました。

ロシアまでの渡航費も節約する為、スタッフは3人です。
プロデューサー兼通訳(私の妻であり、ロシア人です)1人、助監督1人、そして監督の私、計3人のスタッフです。私は監督兼カメラマン兼録音です。ギリギリの制作体制です。

ロケ地はどうする?

シナリオを書く時にはどのような絵が撮れるのかを想定して内容を書きました。
技術的な制約が多いためその中で撮れる場面で構成していきました。そして状況により柔軟に変更できる記憶をテーマにすることで、撮影状況に問題があったとしても成立するようにしました。
物語は2週間で書き上げ、3日で翻訳し、ロシアに渡りました。滞在期間は1ヶ月です、その期間内に準備と撮影を終えなければなりません。撮影場所はヤロスラブリ、モスクワから250kmぐらい離れた街。ソ連時代には工業地帯として栄えた街です。中心地には世界遺産の綺麗な旧市街がありますが、映画では撮影しませんでした。歴史的な場所で撮るとファンタジーになると思ったからです。それよりも旧ソ連の巨大なマンションや工場を中心に撮影し、あまり日本人が見た事の無いこの場所はSF的な要素が満載で圧倒的な絵力があります。この場所で撮影すればSFとして成立すると確信していました。

打ち合わせ風景

キャスティングはどうした?

ロシアについてすぐ知人を通してある劇団にアポを取り、劇場に向かいました。
ロシアでは街ごとに大きな劇場があり、そこに多くの劇団が所属しています。俳優は有名無名関係なく、どこかの劇団に所属することになっています。ソ連時代からの俳優システムです。条件さえ言えばぞろぞろと俳優さんが出て来てくれます。しかも子供の頃から有名な俳優から演技のレッスンを受けているので非常に演技レベルが高いのです。役柄を伝えれば、ロシア人同士で相談し、あいつがいいと紹介してくれます。ロシア人は自分の意見をすぐに言います。良い悪いがはっきりしているのです。言いたい事を言うのがロシア人です。その感覚は空気を読む日本人からすると馴染めない所もありますが、創作活動には非常に助かります。俳優と相談しながらキャスティングしたので非常にスムーズに決まりました。

ロシアの俳優さんたち

俳優さんとの読み合わせ

次の問題は、舞台となる部屋をどうするかでした。ロシアの賃貸は1ヶ月単位で部屋を貸します。しかも家具付きです。もちろん敷金、礼金はありません。なのでどこか賃貸で1ヶ月借りようと考えていました。しかもそこで寝泊まりすれば宿も入りません。友人を通じて探していると(ロシアで一番大事なのは友人です。友人の友人というように、人をたどって行くと何でも用意ができます。)これから改装するという人がいて、そこを借りる事にしました。改装するから何やっても良いというので壁に絵を書いたり、プロデューサーのおばあちゃんの家からソ連時代のラジオやテレビ、本などを持ち込みました。これで舞台が出来上がりました。もちろんシナリオではそのマンションの間取りや内装を想定していなかったので、その事をシナリオに反影させました。

この部屋が自由に使えた--

臨機応変に対応する、撮影とシナリオ

シナリオに捕らわれるとお金がかかります。この映画は状況によってシナリオを変える事でお金をかけないでクオリティの高い映像を実現しています。例えばバスに乗り込むシーン、通常バスを用意するためレンタルの予算がかかります。しかし、撮影して行くうちに友人がバス会社で働いていると聞き、シナリオにはなかったですが無理やり加え、ありえないほどの少ない金額でバスを借りました。撮影場所もそうです、ヤロスラブリという街は世界で初めて宇宙に行った女性宇宙飛行士ワレンチナ•テレシコワの生まれた街で、宇宙記念館があります。この映画では親子で宇宙記念館に訪れるシーンが出てきます。このシーンもシナリオにはありません。映画を撮影していることを知った友人がそこで働いており、撮影すればと声がかかりました。もちろんそのような貴重な場所で撮影して良いのなら是非ということで使用させていただきました。ロシア人は文化レベルが高く、映画を撮影していると言えば手伝いたいという人が多くいます。映画は芸術なのだから非常に大切なものと言っていました。

街をロケハンをして、撮影に必要な場所を見つけました。ロシアの街は巨大な為、撮影場所が遠いと大変です。舞台となるマンションを中心に、できるだけコンパクトにまとめられるように場所を選定しました。街全体をロケハンすればもっと良い場所が見つかったかもしれませんがそれをすると非常に時間がかかります。制作体制で充分ではない為、無理をすると必ずミスが出ます。日本のように勝手が分かっていれば対応できますが、海外では何が起きるかわかりません。無理は禁物です。
この映画はロシア正教の教会も出て来ます。観光用の大きな教会ではなく、街で実際に使われている小さな教会です、熱心な信者の方が毎日お祈りを捧げています。直接交渉し教会の撮影自体はすぐにOKが出ましたが聖職者さんの出演はなかなかOKが出ませんでした。しかし聖職者さんの家に伺い、映画の趣旨を丁寧に説明することで、無茶な撮影をしない代わりに本当のミサを撮影させていただくことになりました。

映画のベースとなるマンションが決定し、様々なシュチュエーションのロケ場所が決まりました。すぐシナリオにロケハンの内容を反映させました。シナリオはもともと柔軟に変更できるようにしていて、想定していなかった場所が入ることで世界観がぐっと大きくなりました。

シナリオです。

最後の準備の小道具集めも大変---撮影準備完了まで。

後は、撮影の為の準備です。ロシアではこの作業が大変です。この映画は娘が描く絵が印象的に使用されています。絵を描く道具は街の中心にしかなく、買いに行くだけで時間がかかります。衣装や重要な小物のマトリョーシカなど、映画の絵に関わるものはもちろん、大量の乾電池やコピー用紙など制作的に必要なものも集めなくてはいけません。ロシアは日本のようになんでも揃うコンビニが存在しない為、必要なものを用意するのが大変です。

大きなスーパーはありますが、全てが揃っているわけではありません。お店とお店は遠く離れ、在庫がなかったりします。電話で確認しても、お店に行くと話が違うなんてことは多々あります。定員もそんなに急ぐ必要あるの?って顔で対応してきます。昔は社会主義だった為、今でも仕事を労働と捉えている人が多く、ロシアで忙しなく働いている人はほとんどいません。日本の感覚で準備期間を考えていましたが、結局この作業だけで4日取られてしまいました。

ロシアに到着してから1週間が経ち、いよいよ撮影です。すぐにお話したいのですが、ロケハンと準備だけでたくさんお話ししてしまったので、撮影の話はまた次の機会にさせていただきます。

映画「レミニセンティア」
監督 井上雅貴

監督 井上雅貴

日本人監督が描くロシアSF感動作『レミニセンティア』(記憶の万華鏡)予告

映画『レミニセンティア』(記憶の万華鏡)予告編

youtu.be

【横浜シネマリン】で上映中!

http://www.cinemarine.co.jp/

2016.12.24(土)~12.30(金)17:00〜
2017.1.2(月)~1.6(金)19:30~

12/25.26、1/2.6には監督、ヒロインの井上美麗奈ちゃんの舞台挨拶&ティーチイン(質疑応答)も決定!!
横浜シネマリン公開記念として26日までパンフレット購入の方限定のサイン会を行なっております。ヒロインの井上美麗奈ちゃんのロシア語サインがもらえます。

もしも年末、横浜近くにいらっしゃれば映画をご覧ください。
一方的な宣伝の情報で失礼いたしました。

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