芸術の秋、京都で、美術鑑賞をしませんか?
印象派を代表するアメリカ人女性画家、メアリー・カサット(1844-1926)の35年ぶりとなる大回顧展が、横浜で大盛況の後、京都国立近代美術館において、9月27日(火)から12月4日(日)まで開催されています。

カサットは、米国の裕福な家庭に生まれ、画家を志し、21歳の時にパリに渡りました。
当時、異国の女性画家が、フランスの美術界で認められるのは、容易なことではありませんでしたが、教養と気品を備え、美術にかける情熱にあふれたカサットは、画家になることを強く決心していました。
古典絵画の勉強をし、新しい絵画を模索し始めたとき、エドガー・ドガと出会い、感銘を受けて、印象派画家の道を進んでいくことになりました。
カサットは、軽やかな筆使い、明るい色彩で、身近な女性たちの日常を描き、女性ならではの視線で描いた、新しい母子像の画家として、評価されました。
また、カサットは、女流画家の先駆者として活躍しただけではなく、アメリカに、ヨーロッパの印象派絵画を紹介し、近代美術の発展に貢献しました。

本展では、カサットの油彩画や、パステル画、版画の代表作に加え、カサットが、影響を受けたエドガー・ドガや、ピサロの絵画や、同時代の女性画家、ベルト・モリゾなどの絵画、日本の浮世絵版画、屏風絵など、併せて、約110点の作品が展示されています。
母親の優しさに満ちた、温かい眼差し、幼い子供の純粋無垢な愛らしい表情、光にあふれたカサット芸術の世界を、是非この機会に、ご堪能ください。
ではこれから、カサットのいくつかの作品を観ていきましょう。

①画家としての出発

《バルコニーにて》1873年 油彩、カンヴァス 101.0×54.6cm フィラデルフィア美術館蔵
Courtesy of the Philadelphia Museum of Art, Gift of John G. Johnson for the W. P. Wilstach Collection, 1906

メアリー・カサットは、1844年、米国ペンシルヴェニア州ピッツバーグ郊外の裕福な家庭に生まれ、6歳から11歳まで、次兄の病気療養のため、家族とともに、フランスや、ドイツに長期滞在しました。このとき、ヨーロッパの文化や、芸術に興味を持ったのか、16 歳で、アメリカ、ペンシルヴェニアの美術アカデミーに入学し、21歳のときには、父の反対を押し切り、パリに渡ります。
アカデミズムの画家の教えを受け、1868年には、サロンに初入選します。
その後、イタリア、スペインに滞在して、ルネサンスや17世紀の巨匠たちの作品を模写して、実力をつけました。確かなデッサン力、強い明暗のコントラスト、繊細な筆使いなど、その成果が見られます。
《バルコニーにて》は、カサットが、初めてスペインを題材にして描いた大型作品で、生きき生きとした表情や、身振り、華やかな衣装の繊細な描写など、素晴らしい作品です。
ベラスケスや、ムリーリョも同じ題材で描いていますが、女性を娼婦として、描いています。それに対し、カサットは、伝統的な主題や構図の慣例的な意味内容を拒否し、女性たちを、市井の人々として描き、日常の生活風景としています。

②印象派との出会い Ⅰ風景の中の人物

《浜辺で遊ぶ子どもたち》1884年 油彩、カンヴァス 97.4×74.2cm ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵 National Gallery of Art, Washington, Ailsa Mellon Bruce Collection, 1970.17.19

カサットは、エドガー・ドガの作品と出会い革新的な絵画表現を目指すようになります。
ドガの誘いを受けて、印象派展に出品し、印象派の影響の下でカサットの絵画は自由な筆使いと明るい色彩を特徴とした画面へと変化します。 
カサットには珍しい海辺の情景ですが、手前に大きく配置した、砂遊びをしている二人の子供にスポットを当てて描いています。
海や空、浮かぶ小船は、遠景として描かれ、スケッチのような粗い筆致です。
遊びに興じる子供たちは、姉妹なのでしょうか。おそろいの白いエプロンをつけています。カサットと、1882年に亡くなった姉を連想させます。

②印象派との出会い Ⅱ近代都市の女性たち

《桟敷席にて》1878年 油彩、カンヴァス 81.3×66.0cm ボストン美術館蔵
The Hayden Collection-Charles Henry Hayden Fund, 10.35. Photography © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

劇場は、ドガやルノワールをはじめ、印象派の画家たちが好んで描いた題材でした。19世紀後半のパリで、オペラや演劇の鑑賞は上流階級の新しい娯楽で、劇場は、華やかな社交の場でした。女性たちは着飾って、男性の目を引こうとし、男性も、目当ての女性を桟敷席からオペラグラスで、見つけようとしています。
カサットが描く《桟敷席にて》の女性は、当時流行のシックな黒いドレスで身を隠し、男性の目を引こうと肌を露出したドレスをまとった女性とは、一線を画す、知的な横顔をして、舞台を見つめています。
向こうの客席には身を乗り出すように、オペラグラスで、こちらを見ている男性がいて、彼の視線と、黒いドレスの女性の視線、そして、その画面を眺めている私たちの視線、3つの視線が交錯する面白い画面構成です。
今まで見られる側であった女性が、見る主体として、堂々と描かれている、カサットの斬新な女性像の作品。日本初公開です。

②印象派の出会い Ⅲ家族と親しい人々

《眠たい子どもを沐浴させる母親》1880年 油彩、カンヴァス 100.3×65.7cm、ロサンゼルス郡立美術館蔵
Digital Image © 2015 Museum Associates / LACMA. Licensed by Art Resource, NY

カサットの多くの母子像のなかでも、最初期の作品のひとつで、第5回印象派展(1880年)に出品されました。
全体的に白とブル―の淡い色調で、子供の頬や唇にピンクが使われ、印象派らしい明るい色彩と軽い筆使いで描かれています。
これまで、母子像は、普遍的なテーマで、宗教画として、古典的に描かれてきましたが、カサットは、日常的な母親と子供の一場面として、描いています。
子どもの体をスポンジで拭く母親と、気持ちよさそうに母に身をゆだねる、幼い子供のあどけない、表情が描かれています。
子どもに視線を投げかける母親には、子供への深い愛情が感じられ、また、子どもも、安心しきって、母の腕の中で、愛らしく、まどろんでいます。
画面全体は柔らかいタッチで描かれていますが、母親のスポンジを持つ手は、しっかり、力強くえがかれ、子供のために働く母親の強さを表現しています。

③新しい表現、新しい女性 Ⅰジャポニズム

《夏の日》1894年 油彩、カンヴァス 100.6×81.3cm テラ・アメリカ美術基金蔵
Terra Foundation for American Art, Daniel J. Terra Collection, 1988.25 Photography © Terra Foundation for American Art, Chicago

1890年パリのエコール・デ・ボザールで開催された浮世絵版画に感銘を受けたカサットは、歌麿や清長の風俗表現や、平面的な画面構成を研究しました。
カサットは1894年パリの郊外に念願の邸宅を購入し、池にボートを浮かべて遊ぶ女性たちをたびたび描きます。
ルノワールも舟遊びの題材は描いていますが、日本の浮世絵、鳥居清長《隅田川渡船》の影響を受けたものと思われます。
二人の女性が、大きくクローズアップされて、ボートから身を乗り出し、家鴨を観ている様子が巧みに描かれています。
日差しが降り注ぐ、きらめく池の水面に、二人の女性の衣服などが映し出され、清々しい夏の風情が感じられます。

③新しい表現、新しい女性 Ⅱシカゴ万国博覧会と新しい女性像

《果実をとろうとする子ども》1893年 油彩、カンヴァス 100.3×65.4cm ヴァージニア美術館蔵
Virginia Museum of Fine Arts, Richmond, Gift of Ivor and Anne Massey, 75.18 Photo: Travis Fullerton
© Virginia Museum of Fine Arts

歌麿や、清長など、日本美術を研究し、自らも女性の日常を描いた多色刷りの銅版画の連作を制作したカサットでしたが、そんなカサットの、油彩画も、日本美術に大いに影響を受けて変化しました。
カサットは、母子像を主なテーマとする独自の画境を切り開いたのです。
1892年から翌年にかけて、シカゴ万国博覧会の女性館のために「現代の女性」をテーマにした壁画を制作し、新しい時代の女性像の表現を展開しました。
《果実をとろうとする子ども》は、《バンジョーの練習》や、《果実の収穫》とともに、シカゴ万国博覧会の壁画に関連して製作した作品群のひとつです。
日本の浮世絵に影響を受けて、より、平面性とコントラストが強調されています。
母子がクローズアップされ、聖母子像を連想させます。
写実的に描かれた母親の腕は、子育てをする母のたくましさが表現されていて、果実をとろうとする子どもからは、強い生命力が感じられます。
    
カサットは、1904年フランス政府から勲章を贈られ、ハヴマイヤー夫妻をはじめ、アメリカの多くの美術コレクターのアドバイザーとしても活躍し、アメリカの近代美術の発展にも貢献しました。
女流画家の先駆者、カサットの生涯をかけた新しい女性像の追及、優しさとたくましさに満ちた女性たちを描いた光溢れる芸術を、是非この機会にご堪能ください。

開会式には、本展と同様“女性の活躍”がテーマであるNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」主演の女優・蓮佛美沙子さんが特別ゲストとして訪れました。

展覧会グッズも揃っています

展覧会概要

会期:2016年9月27日(火)~12月4日(日)

開館時間:午前9時30分~午後5時
     (入館は午後4時30分まで)

観覧料:
一 般 1,500(当日) 1,300(団体)
大学生 1,100(当日) 900(団体)
高校生 600(当日)400(団体)
中学生以下 無料
  ※団体は20名以上

休館日:毎週月曜日及び10月11日(火)
    ただし、10月10日(月・祝)は開館

主催:
京都国立近代美術館
NHK京都放送局
NHKプラネット近畿
読売新聞社

助成:
駐日アメリカ合衆国大使館
テラ・アメリカ美術基金

協賛:大日本印刷

協力:全日本空輸
   日本貨物航空

※本料金でコレクション展もご覧いただけます。
※心身に障がいがある方とその付添者1名は無料
 (入館の際に証明できるものをご提示ください)。
※前売券は、7月15日から9月26日までの期間限定発売。

関連イベント
トークショー「陽の当たる場所へ―印象派の花 メアリー・カサットの功績」
日時:11月13日(日)午後2時~3時
出演:原田マハ(作家)
会場:京都国立近代美術館 1階ロビー
定員:先着200席
※当日午前10時より1階受付にて整理券を配布します。
※聴講無料(本展覧会の観覧券が必要です)
ファミリープログラム「きょう、目の前の家族を描いてみよう」
 
日時:10月30日(日)午後2時~午後4時30分
会場:京都国立近代美術館 1階講堂、3階企画展示室
講師:児玉彩(画家)
対象:4歳以上とその保護者(親と子・孫、きょうだいでの参加も可)
定員:20組(事前申込制、1組につき最大3名まで)
※事前申込制。10月3日(月)午前10時より申込受付。
 詳細はこちらをご覧ください。
 
担当学芸員によるギャラリートーク
日時:10月8日(土)、11月5日(土) いずれも午前11時~12時
会場:京都国立近代美術館 3階企画展示室
定員:各回先着20名
※いずれも当日午前10時より1階受付にて整理券を配布します。
※聴講無料(本展覧会の観覧券が必要です)

メアリー・カサット展@京都 cinefilチケットプレゼント

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、「メアリー・カサット展」チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。

☆応募先メールアドレス  info@miramiru.tokyo

*応募締め切りは2017年11月20日 24:00 日曜日

記載内容
1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、
  当選無効となります。
4、ご連絡先メールアドレス、電話番号
5、記事を読んでみたい監督、俳優名、アーティスト名
6、読んでみたい執筆者
7、連載で、面白いと思われるもの、通読されているものの、筆者名か連載タイトルを、
  5つ以上ご記入下さい(複数回答可)
8、連載で、面白くないと思われるものの、筆者名か連載タイトルを、3つ以上ご記入下さい
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9、よくご利用になるWEBマガジン、WEBサイト、アプリを教えて下さい。
10、シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せ下さい。
   また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。