今年はルルーシュ監督の新作「アンナとアントワーヌ」が今週末公開されますし、10月にはリマスターで美しい映像がよみがえる「男と女」もリバイバルされます。この秋はルルーシュ特集、ですね。

クロード・ルルーシュは1937年パリうまれ。
 1950年代の終わりのフランス。それまでの映画製作システムの外で、映画好きな若者たちが自分たちで映画を作り始めます。「ヌーベル・バーグ―新しい波」と呼ばれた彼らの作品は、世界の若い映画人や映画ファンに大きな影響を与えました。
といっても、どこの国でも多くの観客にとっては、それまで親しんだ「わかりやすく」「安心して見られる」「現実逃避のための娯楽」を拒否するような新しい映画は、簡単に受け入れられるものではありませんでした。
 映画史的に見ると、ついこの時期、世界の映画を牽引したのは「新しい映画」の若者たちだったといいたくなりますが、実はそうではありませんでした。観客に受けなければ当然、興行的な成功を納める作品や監督は少なかったのです。
 さらに、運動的に共鳴した映画人たちも、引き続き「新しい映画」を作り続けられる「こだわり」や「技術」「思想」を持つ人ばかりではありませんでした。やがて商業的な作品を作り始めたり、盛んになり始めたテレビ界に行ったり、逆に政治性や作家性を強めたり、と分かれていきます。
もともと映画好き仲間だと言っても、それぞれに映画の好みも違うのでこの流れは、ある種、必然的なものだったと言えるのではないでしょうか。
 ヌーベル・バーグ派の中で社会的成功、というかある程度の商業的成功を収めた人たちの一人がクロード・ルルーシュ監督です。クロード・シャブロル、フランソワ・トリフォーに続いての成功でした。といってもこの三人の中でアカデミー賞にまで絡むという世界的成功を収めたのはルルーシュだけでした。

ルルーシュ&レイ、2曲目は「パリのめぐり逢い」です。イブ・モンタン演ずるテレビ・レポーターとキャンディス・バーゲン演ずる女子大生の恋。妻に二人の関係がばれたとき男は恋人との暮らしを選ぶのですが、その空虚さに気付いたとき、妻はもう昔の妻ではありませんでした…。ルルーシュ68年の作品です。

さて。政治運動とも近かったヌーベル・バーグ派の人々ですが、ルルーシュ監督は66年『男と女』がカンヌ映画祭パルム・ド・オルと、アメリカ アカデミー賞外国語映画賞を受賞するという大成功の後、1968年のグルノーブル・オリンピックの正式記録映画『白い恋人たち』を製作し、仲間たちから権力側に寝返ったという批判を受けています。
『白い恋人たち』は68年のカンヌ映画祭で招待作品として上映される予定でしたが、トリフォーやジャン・リュック・ゴダールを始めとする、ヌーベル・バーグ派の若手映画人によるカンヌ映画祭粉砕事件が起き、映画祭が中止されます。ルルーシュ本人もこの粉砕を唱えるメンバーの一人に加わっていました。
 この粉砕事件はその後パリの大学生たちによる五月革命へとつながっていきます。この事件をきっかけに、ヌーベル・バーグ派の中心的監督だったゴダールとトリフォーが方針の違いや作家性の違いによってわかれていき、ヌーベル・バーグの勢いは収まっていきました。

とはいえ、フランス映画にそして世界の映画に彼らが遺した遺産は重要なものだと思います。
この新しい映画運動は、時間差で世界に広がりますが、1965年ころ「新しい映画」運動が始まったアメリカでは、トリフォーやゴダールはもちろん、ルルーシュの作品も大きな影響を与えたようです。
どこで読んだのか忘れてしまったのですが、「最近のフランス映画に影響された映画人は、ムードのある音楽にのせて、美しい、イメージ的な映像を流せば新しいと思っている」とアメリカの「新しい映画」派の人を批判した記事もありました。
 それってたぶん『男と女』や『白い恋人たち』のことですよね…。

アントワーヌは映画音楽の売れっ子作曲家。若いピアニストのアリスと恋愛中ですが、アリスからのプロポーズに戸惑ったまま、仕事のためインドに向います。
インドで、アート系の巨匠の新作、フランスとインドの合作映画『ジュリエットとロミオ』の映画音楽を録音するためです。インドについたアントワーヌは数日前から続く頭痛のため今晩はホテルで休みたいと思うのですが、残念ながらフランス大使館でアントワーヌを主賓に大使主催の晩餐会が開かれることを知らされます。しぶしぶ晩餐会に出席したアントワーヌの隣の席には、大使夫人のアンナが着きました。
 まだ若く、知的で純粋なアンナのスピリチュアル談義にちょっかいを出すアントワーヌ。宗教や哲学には全く興味のない、むしろ否定的な彼にとって、インドに魅了されているアンナは、理解しようという相手とは思えなかったのです。けれど、そのひたむきさに次第に耳を傾けていくアントワーヌ。気が付くと二人は一晩中話し続けていました。
 
録音は続きます。頭痛も続き、結婚を迫るアリスがインドにやって来る日も近づきます。現実から逃げ出すようにアントワーヌは、聖母アンマに会って妊娠を願う旅に出るというアンナを追います。
ニューデリーからケラーラへ。列車とボートを乗り継いでインド縦断の旅…。
ふたりは互いに、愛する人がいながらも惹かれあうことを止められなくなっていきます。

『男と女』の中で私が好きなシーンがあります。魅かれあいながらもなかなか一線を越えられないふたりが、ついに結ばれるシーン、というかその直前のシーンです。
ホテルのレストランで食事をして、コーヒーの時かな、男が言うんです。追加のコーヒーを頼むみたいに、ボーイさんに向って「きみ、部屋を一つ」って。
あぁ、あのときからルルーシュって変わってないんだなぁと、感慨ひとしお(笑)。
仲間だったトリフォーが「戦いも暴力も嫌いだから僕は恋愛を描く」と言っていたそうですが、ルルーシュもそうですね。恋愛一筋。
そしてもちろん音楽はフランシス・レイ。けれど、主人公が映画音楽家でもレイをモデルにしたわけではないと思いますが(笑)。
昔のコンビ作のように、流麗な映像と音楽のコラボをちゃんと楽しんでいただける作品になっています。
 

それでは最新作をご紹介する「カミングスーン」のコーナーに行きましょう。

「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」です。

2013年に公開された「グランドイリュージョン」のラストで鮮やかに姿を消したフォーホースメンが帰ってきます。
 
 アメリカ中が注目するイリュージョン・ショーの最中に、汚れた金を強奪し弱者へ分配。そして、権力者の悪事を暴露して社会的な地位を奪い権力を失墜させる。それが目的のマジシャン集団フォーホースメン。つまり、日本でいうなら、鼠小僧、西洋でいうならロビン・フッドかな、つよきをくじきよわきを助ける義賊、の現代・マジシャン版という感じです。そのフォーホースメン、今回のターゲットは密かにFBIと取り引きしているIT企業です。

 世界中のネットワークを無料で使い放題という新型スマートフォンを開発した若きIT企業社長。世の中の権力に対抗する若者のカリスマとされている彼は、密かにユーザーたちの情報や、すべてのネットワークを監視するためのシステムをFBIに提供することになっていました。フォーホースメンは、ニューヨークで行われるその新型スマートフォンの発表会で、社長がユーザーを裏切り、FBIと癒着していることを暴露しようと計画していました。
 会場を乗っ取るべく四人のメンバーはそれぞれの得意技を生かして、会場に忍び込みます。
 計画のハイライトは、メンタリストに暗示をかけられた社長が、自分の口からFBIの計画を暴露する瞬間。
 しかし、周到に練られ準備されたフォーホースメンの計画は謎の組織によって妨害され、隠していた四人の正体まで暴露されることになってしまいました。
 追っ手を逃れ、用意していた逃走用のシューターからバンに乗り込む…はずが、なぜかシューターからでた先はマカオの中華料理店の厨房でした
 そして思いがけない人物と再会、つれて行かれた先で待っていたのは…

 映像の世界ではCGを使えば何でもできる時代です。けれど、それがCGであることがわかったとたんに面白味がなくなってしまうのが、マジックとアクションです。
 
 といって人間業と思えないアクションはそれなりにおもしろいわけで、そのためにファンタジーやコミックヒーローという、もともと人間ではないものがアクションするという設定の物語になるわけですね。
 それでもやはり、人間が限界まで「生身の体」を使ってみせるアクションの魅力は格別なものです。映像処理によるアクションが飽和状態になると必ず「生身の」とわざわざ歌いあげるアクションが登場します。ブルース・リーやジャン・クロード・バンダム、ジェット・リー、そしてジャッキー・チェンなど、カンフー系のスターたちの登場がそれでした。近年ではバルクールが生身のアクションとして定番になり、最近のアクション映画のスタントを変えてきました。
 
 ではマジックはどうかといえば、大がかりな仕掛けでショーアップされた「イリュージョン」という形になって、今も生の舞台としてお客さんを引きつけています。大切なのは生の舞台というところ。難しいのは、それを映像化してしまうとCGなどの映像効果と区別がつかないくらいに精巧でリアルに見えてしまうわけですね。マジックだと映像上で納得させ、観客を驚かせるためには、実際に俳優がカメラの前でマジックをやってみせることと、その種明かしをして、今スクリーン上で行われたのは、トリックを使ったマジックであることを披露してしまうことです。それをして見せたのが「グランドイリュージョン」なのですね。
今回もコネタから大がかりなトリックまで、イリージョニスト・デビット・カッパーフィールドの監修を受け、俳優たちは一流のマジシャンたちについて訓練を重ねたそうです。その訓練の成果は、スクリーンで確かめてください。

マジックやイリュージョンの種明かしもしてしまうので、いいのかしら、と心配になってしまうほどの鮮やかさです。ただし、ちゃんと伏線は仕掛けてありますので、さぁ、知恵比べ、スクリーンの隅々までしっかりとみておいてくださいね。

公開は9月1日から、新宿ピカデリー、ムービックス埼玉などで上映されます。