友人が発行しているZine(ジン:小冊子、同人誌)である『Nase Zine』に寄稿しました。
ウィーン在住のトルコ系移民のアートコミュニティーから生まれたジンで、シンプルな作りですが
トルコ語・ドイツ語・英語で構成された珍しい雑誌です。

Nase Zine vol.2 "50/50"

第2号となる今回のテーマは「50/50」。

リリースパーティーの様子

リリースパーティーで展示されていた雑誌に使われた作品や原画

このZineの話をいただいたのは2016年5月のオーストリア大統領選挙の結果がでた直後でした。最終選挙の候補は二人。しかも、もともとナチスを支援していたという歴史を持つ極右政党で移民排斥を推進している自由党のノルベルト・ホーファーと、移民に対して寛容な政策を取ろうとする緑の党に支援されたアレクサンドル・ファン・デア・ベレンという、立場が真逆の二人です。この選挙の結果はほぼ半分ずつに票が分かれ、わずか3万票でアレクサンドル・ファン・デア・ベレンが勝利しました。

このジンのテーマが決められたのは、この結果を受け、極右政党にならずに済んだ安堵と同時に、国民が真っ二つに分断されているようなある種の怖さのようなものを、みんなが共有していた時でした。しかも、都市と地方、学歴、労働階級による分断が数字によって示されていたのも特徴的な選挙でした。
(しかし、緑の党に支援された新大統領を迎える直前に、この統領選挙が無効となるという裁判結果がでました。そのため再び10月に選挙が行われることになっています。本当に残念。)

また、先日のイギリスのEU離脱を投げかけた国民投票でも僅差で離脱が決まっていたり、アメリカ大統領も待ち受けていたりするなど、選挙による分断がより深刻な状況として浮かび上がっているように思います。
選挙によって国民が分断されてしまう危機感。
選挙によって生かされた数字と、切り捨てられた数字。
周りにいる人は、もしかしたら自分とは真反対の意見を持っているのかもしれないという不安。

とくに、オーストリアに移民系の人々の多くは、中東からの難民の受け入れの困難とともに、世界的に加速していっている移民排斥の波のなかにあります。しかし、移民としてすでに定住した人々が、移民として暮らすことができている状況を維持するために、新たな移民系の人々を受け入れたくないという態度を示すなど、同じ状況を持っている人々の間でも軋轢が生まれていると聞いています。

今回のジンには、オーストリアにおけるトルコ系移民の問題(学校制度や労働状況など)をラップパフォーマンスにしているアーティストや、セルビアのゲイ・アクティヴィストなども寄稿していて、オーストリアの問題から始まっているものの、様々な事柄が取り上げられています。
ドイツ語で「鼻」を意味する「Nase」は、「To stick your nose in someone else's business(英語)/die Nase in etwas stecken(ドイツ語)/herşeye burnunu sokmak(トルコ語)」というフレーズに由来しているそうです。どれも、「鼻を突っ込むことが」日本語でいう「首を突っ込む」という意味を持っています。つまり、自分に関係ないことにでもなんでも、首を突っ込んで意見を言おうという小さな雑誌です。状況が刻々と変化していく中、選挙結果を受け入れるだけの人々のなかで、さまざまな50/50にまつわる問いが提起されていました。