『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』を観た。べらぼうに面白かった。ジェームス・ブラウンのパワーにあてられて、まだ頭の中がグルグルまわっている。
貧困。父と自分を棄てて去った母──。幼いジェームス少年は父とともに、叔母が経営する、遠い町の売春宿に身を寄せることになる。
その店での呼び込みや客引き。町での靴磨きや肉体労働。そうした厳しい暮らしのなか、少年はある日、ささいな窃盗事件を起こして警察に逮捕されてしまう。
しかし、そんな少年の歌声に、以前から熱い視線を送っていた者がいた。ミュージシャンの彼は少年の身柄を引き受け、自分のバンドにボーカルとして招き入れる。シンガー ジェームス・ブラウンの誕生だった──。
豊富なライブ映像とニュース・フッテージ、充実したインタビューが、人間ジェームス・ブラウンと、彼が生まれ、育ち、生きた時代、そしてその両者の関わり、交わりのさまを、じつに鮮やかに浮き彫りにしてみせてくれている。
先行するスター、リトル・リチャードの求めに応じ、ライブで彼になりすまして替え玉をまんまとつとめあげたエピソードなどは傑作だ。
歌でいえば『トライ・ミー』も『プリーズ・プリーズ・プリーズ』も『パパズ・ガット・ア・ブランニュー・バッグ』も『セックス・マシーン』も、ふんだんに聴ける。ふるい素材のものも、音は、さほど悪くない。ジェームス・ブラウンの歌を楽しむというだけでも、もうゴキゲンで、大満足なのである。
ブルース、ゴスペル、ジャズ、スウィング、R&B、ソウル、ビバップ、ファンク・・・、アメリカ音楽のたいていのものが、この映画を観るうちに、すべて楽しめるのだ。
しかしそれにしても、ジェームス・ブラウンの動き、とくに足のさばきの、なんと見事なことか。ダンス、ステップの、超人的なまでのキレのよさよ!
この映画のプロデューサーをつとめたミック・ジャガー自身へのインタビューも、さすが、ちゃんと入っている。その彼ミックの、ジェームス・ブラウンへのかぎりないリスペクトの思いをにじませた語り口が、じつに感動的である。
(2に つづく)
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』
(アレックス・ギブニー監督作品)
公式サイト
東京の角川シネマ新宿ほかにて上映中
旦(だん) 雄二 DAN Yuji
〇映画監督・シナリオライター
〇CMディレクター20年を経て現職
〇武蔵野美術大学卒(美術 デザイン)
〇城戸賞、ACC奨励賞、経産省HVC特別賞 受賞
〇日本映画監督協会会員(在籍25年)