『日本で一番悪い奴ら』
でっちあげ・やらせ逮捕・おとり捜査・拳銃購入・覚せい剤密輸――

あらゆる悪事に手を汚す北海道警察本部の刑事・諸星要一。
悪を絶ち正義を守るために、警察へ忠誠を誓いすぎた男の歪んだ正義が暴走する映画『日本で一番悪い奴ら』。監督は、『凶悪』で人間の悪意を容赦ない視点で描き2013年度映画賞28冠に輝いた白石和彌。本作では『凶悪』を超える猛毒で登場人物が“悪”に冒され、不謹慎な笑いと凍りつくような衝撃を叩きつける。

©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

 柔道特別訓練隊員として警察に入った諸星は、20代後半になって現場に配属されるが、叩き上げの刑事たちの前では右往左往するのみ。警察組織に認められる唯一の方法――それは【点数】を稼ぐこと。あらゆる罪状が点数別にカテゴライズされ、熾烈な競争に勝利した者だけが認められ、生き残る。そのためには汚物に飛び込み、“S(エス)(=スパイ)”を見つけだせば、優先的に情報が手に入る。こうして諸星を慕って集まった3人のS(エス)たちとの狂喜と波乱に満ちた四半世紀が始まる。

©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

 主人公の諸星要一を演じるのは、『そこのみにて光輝く』『新宿スワン』『リップヴァンウィンクルの花嫁』をはじめ、次に何を演じるかに今、最も注目が集まる綾野剛。本作では諸星のたどった26年を演じきり、年齢にあわせて体重を10キロ増減させるなど、外見も大きく変貌させながら己の信じる正義を貫きとおすアンチ・ヒーローを誕生させる。

©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

 そして諸星のS(エス)となる男たちには異色のキャスティングが実現。

諸星の違法捜査に抗議するはずが、すっかり意気投合して兄弟分となる暴力団幹部・黒岩勝典役に中村獅童。舞台『大和三銃士』(13)、映画『振り子』(15)で主演をつとめるなど、日本を代表する俳優として独特の存在感に近年ますます磨きがかかった中村が、70年代東映実録ヤクザ映画の登場人物を思わせる強面と優形を併せ持つヤクザを怪演。
諸星に心酔し、S(エス)として献身的に仕える山辺太郎役はHIPHOPアーティストとして活動するかたわら、園子温監督『TOKYO TRIBE』(14)で主演に抜擢され、新人俳優の最有力株に躍り出たYOUNG DAISが絶妙の舎弟感で寄り添う。

そして、うってつけての適役と既に絶賛と爆笑を集めているのが中古車販売業者アクラム・ラシード役の植野行雄(デニス)。日本語はペラペラだが、外国語は全く喋ることができないという本人があえて片言の日本語でまくしたて、実写映画初出演を果たす。

さらに、諸星が手を汚すきっかけを与える先輩刑事・村井定夫役に「電気グルーヴ」メンバー・声優・ナレーターとして幅広く活躍する一方で、俳優としても独特の個性を発揮するピエール瀧。白石監督の『凶悪』で演じた文字通り凶悪な怪物に続き、本作では諸星の耳元に悪魔の囁きを吹きかける。
 

©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

スタッフは脚本に『アンダルシア 女神の報復』(11)、『任侠ヘルパー』(12)の池上純哉を迎え、撮影に『共喰い』『ピンクとグレー』の今井孝博、美術に『誘拐報道』『マークスの山』の今村力、音楽に『八日目の蝉』『ソロモンの偽証』の安川午朗など、『凶悪』で白石を支えたスタッフが顔を揃える。

©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

主題歌として、スカパラと横山健の初コラボとなった、東京スカパラダイスオーケストラfeat. Ken Yokoyamaによる「道なき道、反骨の。」がエンディングを飾っている。なお、本作で描かれる<日本警察史上最大の不祥事>は実話をもとにしており、映画はモデルとなった北海道警察の実在の刑事の手記「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(稲葉圭昭 著/講談社文庫)を原作にした
フィクションである。

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[インタビュー]1 綾野剛

――今回演じられた諸星要一は実在の人物がモデルです。どのように彼の人生を演じましたか?

綾野 その時、その時を瞬間的に生きている方だと思ったので、僕も撮影現場でその瞬間ごとに演じることで、あまり気負わずに諸星という人間の長い歳月を生きられたんじゃないかと思っています。具体的にその時代を生きるために衣装などをいろいろ相談して、髪型も決めていきました。

――「稲葉事件」と呼ばれた実際に起きた事件を映画で演じることについては?

綾野 映画としてその題材でフィクションを製作しているわけですから、その中で大事なことは一人の人間がいて、人との出会いと別れを繰り返して、今もまた新たな一歩を踏み出しているということなんだと思います。そうやって人は成長していくんだなということをきちんと表現するのがこの映画にとって一番大事なことだと思っているんです。

――中村獅童さんとの共演はいかがでしたか?

綾野 獅童さんとは、今まで何度か共演させて頂いて、一緒に飲みに行ってもらったりもしているんですが、今回は「剛が主役をやるんだったら出るよ」と男気でやってもらったところもあるんです。現場に来たら黒岩をしっかり作ってこられていて、本物なんじゃないかって思わせる説得力がありました。役を生きる説得力が獅童さんは根本的に違うと思いました。その説得力を間近で改めて拝見させて頂くと、やっぱりカッコイイですよね。

――エス(スパイ)として関係するYOUNG DAISさん、植野行雄さんとの共演シーンも印象深いですね。

綾野 太郎役のYOUNG DAISさんは同い年なんですが、彼の人懐っこさや礼儀正しさには感銘を受けました。彼はヒップホップグループをやってますが、「これ芝居なの?」っていうぐらいナチュラルに太郎を演じていて、アーティストの良い部分を最大限に生かして太郎を演じていたのが、僕にもとても影響しました。本当に太郎なくして諸星はなかったのでは、と思うほどです。デニスの植野さんも僕と同い年ですが、ハーフということもあって役柄的にもぴったりでした。面白く見えることを本人はいたって真剣にやっているから、怒ってる芝居自体が面白い(笑)。芸人さんということはもちろんありますが、そこを置いてもラシードを魅力的に演じてくれました。

――綾野さんと獅童さん、DAISさん、行雄さんが一緒に過ごす時間がとても魅力的に映っています。

綾野 あの4人での時間は、ずっと時を止めて見ていたいと思えるぐらい、ものすごく良い関係性だと思います。もちろん役の上では利害関係をもっていますが、それを忘れた時間のほうが圧倒的に多かったんじゃないかなって思います。あの3人のことを思うと、どこか胸が熱くなるんですよね。

――1日の撮影が終わると監督と握手されていましたが?

綾野 最初は確か監督のほうから「今日もお疲れさま」って握手して頂いたんですけど、途中からは「無事に今日撮り終えてよかったね。またひとつのシーンが撮れて歴史を刻んでいるね」という意味で握手させてもらっています。と言うのも、これだけ強度のある作品は、今の時代、コンプライアンスのこともあって簡単に撮れないと思うんです。でも、映画で出来る表現をあきらめずにやっていた時代があって、僕もそういう映画を観て育ってきたので、今それを堂々とやりきるには、それ相応の覚悟がないとできないと思っているんです。その覚悟を毎回握手して確かめ合っているんだと思います。

――『日本で一番悪い奴ら』は綾野さんにとって特別な1本になりそうですね。

綾野 本当にそうです。間違いなく。僕にとっての代表作になりますし、表現方法も含めて、なかなかできないことをやらせてもらっています。理解をいただいた自分の周りの関係者や普段からお世話になっている方々にも改めて感謝を申し上げたいと思います。それから、やはり白石和彌という監督でないと絶対撮れない血の通った人間賛歌になっています。白石監督は誰かを演出している時も、その役になりきって演出するので、全部の役が出来ちゃうんじゃないかっていうぐらいなんです。僕も白石監督から受けるパワーを全部吸収して武器にさせてもらいました。唯一無二の監督です。

©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

[インタビュー]2 白石和彌監督

――白石監督と脚本の池上純哉さんが映画化を提案されたそうですね。

白石 『凶悪』が公開された時に「『グッドフェローズ』や『カジノ』みたいな一代記をやったら合うんじゃないですか?」と言われたことがあったんですよ。でも「日本映画じゃ難しいし、題材がないよ」って言ってたんです。その後にたまたま池上さんから企画を見せてもらった時に、これだったら警察官だけどギャングの一代記みたいな映画ができると思ったんです。

――主人公の諸星要一を綾野剛さんが演じることについては?

白石 こういう不道徳な一代記をなかなか今の日本でやる機会もないので、それをやるなら、今一番ノッてる俳優に最初に当たるのがスジだと思ってお願いしました。撮影前日に綾野君と酒を飲みながら翌日の撮影プランを話し合ったら一致したところがあったんです。一度そうなれば後はもう託して、やりたいように演ってもらいました。撮影中は時には爆笑しながら一緒に作っていったという実感がありますね。

――ヤクザの幹部ながら諸星の協力者となる中村獅童さんはいかがでした?

白石 最初に撮ったのは、組事務所で綾野君と出逢うシーンでしたが、台詞にはない「ハイ、こんにちわ〜」と言いながら部屋に入ってくるところから役を作ってこられていて。声を張り上げる台詞も、テストの時から手を抜かないんですよね。本番の時に声が枯れると不味いので抑え目でいいですよと言っても「大丈夫ですから」と。歌舞伎役者だから、それぐらいじゃ平気なんですよね。

――YOUNG DAISさん、植野行雄(デニス)さんのキャスティングは意表をつくものでした。

白石 DAISは『TOKYO TRIBE』が素晴らしかったので。オーディションもやって俳優にも何人も会ったんですけど、DAISみたいな目の輝きと、あの雰囲気がないんですよ。あの役は闇の世界も知っていながら純粋に生きているという稀有な存在ですよね。それからアタマからケツまでインチキな植野行雄のパチもん感はなかなか出ないですよ。あれこそ才能です(笑)。

――三重を北海道に見立てて撮影することについては?

白石 北海道に行ったとしても、時代を追ったロケーションが難しいと思うんですよ。『仁義なき戦い』も広島の話と言いつつ京都で撮っていたりするので(笑)、昭和の感じが残っている町で撮りたいとオーダーしていたら、どこで撮っても嫌われる不道徳な映画を桑名・四日市の方々が受け入れてくれたのが大きかったですね。四日市で撮影している時、綾野君にギャラリーが集まりすぎると近くの交番から若い警官たちが出て来て協力してくれてありがたかったんだけど、こんな映画の撮影だって言えない(笑)。でも彼らに早く観て欲しいですね。感想を聞きたいですよ。

――諸星のモデルとなった稲葉圭昭さんにも撮影前に会ったそうですね?

白石 色っぽい方なんですよ。連絡も含めてやっぱりマメな方なんです。三重のロケが終わってから夏の北海道に1日だけ撮影に行きましたが、その時は稲葉さんが見に来てくれたんです。あるシーンで1カットだけ綾野君と稲葉さんが一緒に映っています。

――諸星の様に仕事の成果が点数に換算されて、時には身銭まで切って点数を稼いで警察組織から認められようとする姿は他の仕事にも通じる部分がありますね。

白石 たまたま警察は扱っているのがシャブや拳銃で、他の物に置き換えれば共感する部分があると思うんですよ。劇中で何キロ以内のシャブなら密輸を見逃してもいいかという会議がありますが、観た人からはあのシーンが一番共感したと言われて(笑)。だから諸星は組織から逸脱してないですよね。組織が逸脱しているから〈悪い奴ら〉なんですよ。

――かつての日本映画が持っていた色気と不道徳な匂いのする映画になりましたね。

白石 観ちゃいけないものを、かつて僕たちは映画で観ていましたからね。今でも憶えている映画やテレビってインモラルなものが多いと思うんですよ。今はテレビだとそういうものが出来なくなって、日本映画もそれに近いものになりつつある。だからこの映画に関しては、インモラルなことを出来る範囲でやらなきゃダメだと思ったし、なおかつ面白い映画をめざしました。
そういうものを作る責任が自分にはあると勝手に思っているところがあったので、それが出来たのは誇らしく思いますね。最終的にはすごくシンプルな、主人公が登場人物ほぼ全員と出逢って別れていく青春映画になったんじゃないかと思います。だから、まずは楽しんで観て欲しいです。その先にお腹にドーンと来るものがたぶんあると思います。

映画『日本で一番悪い奴ら』 予告

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STORY
大学柔道部での腕を買われ、北海道警察に勧誘された諸星要一(綾野剛)。
26歳で北海道警察本部の刑事となる。しかし、捜査も事務も満足にできない諸星は周囲から邪魔者扱い。そんな諸星に声をかけてきたのは署内でも抜きん出た捜査能力を発揮する刑事・村井定夫(ピエール瀧)。「刑事が認められるには犯人を挙げて点数を稼げ。そのためには協力者=S(エス)(スパイ)を作れ」と説かれ、自分の名刺をいたるところにばら撒き、裏社会との接触をはかる。
ようやく内通を得て、暴力団組員を覚せい剤・拳銃所持で逮捕した功績で本部長賞を授与されるが、令状のない違法捜査に暴力団側が激怒。幹部の黒岩勝典(中村獅童)と面会することになった諸星だが、無鉄砲な性分を買われ兄弟盃を交わす。以降、S(エス)となった黒岩から裏社会の情報が提供されることになる。
 


監督:白石和彌 
脚本:池上純哉 
音楽:安川午朗
原作:稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
出演:綾野剛
   YOUNG DAIS 植野行雄(デニス)・矢吹春奈 瀧内公美
   田中隆三 みのすけ 中村倫也 勝矢 斎藤 歩
   青木崇高 木下隆行(TKO) 音尾琢真 ピエール瀧 ・ 中村獅童
配給:東映・日活
©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

2016年6月25日全国ロードショー