6月11日(土)〜18日(土)まで、テアトル新宿にてレイトショー開催される映画「モラトリアム・カットアップ」をメインに据え、演劇やライブも日替わりで行う「モラトリアム・カットアップ・ショーケース」。同作の監督であり、今回のイベントの発起人である、柴野太朗監督にインタビューをさせて頂きました。

柴野太朗監督

よろしくお願い致します。早速ですが、今回のイベントの概要をお聞かせください。

「モラトリアム・カットアップ」という作品が田辺・弁慶映画祭でグランプリを頂いて、その流れでテアトル新宿のレイトショー枠を一週間頂けるということになりました。一週間何をやってもいいということだったので、映画を上映するだけでなく、劇団を主宰している出演者や音楽担当と協力して、「映画×演劇×音楽」の複合イベントという形にすることに決めました。

メインとなる映画「モラトリアム・カットアップ」はどのような話なのでしょうか。

一言でいえば、時代の流れに取り残されてしまう男の話です。同じ位置に立っていると思っていた友人達が、みんな気付いたら自分より先を歩いてて、一人だけ取り残されてしまってるみたいな感覚、それって割と「モラトリアム」な感覚だと思うのですが、そんなことを考えながら悶々とする男の頭の中の話ですね。

今回映画と演劇と音楽の複合イベントということですが、その経緯はどのようなものだったのでしょうか。

お話を頂いたときにまず本作が38分しかないというのと、客観的に見た時に自主映画をながすだけだとなぁ…と思っていた部分があって、せっかくの機会なんで自分の周りにいる、ほとんど世には出てないけど面白いことをやっている人を紹介できるような場にしたいと考えました。自分は映画をつくってますけれども、趣味としては音楽を聴くことが好きだったり、演劇を観ることも好きです。もちろん映画を観ることを目的として来ていただける方が大多数だと思うんですが、そういう方々に演劇や音楽などの別のコンテンツも紹介できたらと思ってます。なので、今回のイベントではプロデューサー、キュレーターみたいな位置に立っている部分もありますね。みんな知名度は低いけど、ちゃんとオススメできるコンテンツを揃えたつもりです。

もともとそういった「複合」に興味があったんですね。

自分は例えば音楽でいうとテクノ、クラブミュージックだったり、あとは一昔前のJ-POPが好きなんですが、いわゆる90年代の「渋谷系」とかって、CDジャケットや広告などのヴィジュアルに他ジャンルのデザインの要素が入ってたり、洋楽や映画からの引用だったり、そういう枠にとらわれないコラージュ感というか、いい意味でのごちゃごちゃ感があると思うんですが、そういうのが自分はすごく好きで。「渋谷系」の再評価の波が昨今来てますけど、そういうものに近い感覚で今回のイベントも考えているところはあると思います。

「モラトリアム・カットアップ」など、柴野監督の作品自体にもそれが反映されているように感じます。

タイトルに「カットアップ」というのが入っているんですけれども、これはそれこそ自分がカットアップ系の音楽にハマっていて、そこからインスパイアされた部分があります。トランソニックっていうテクノ系のレーベルから出てた常磐響さんと砂原良徳さんのカットアップのCDとか、そういうカットアップ&コラージュで構成されたアルバムの感覚を映画に持ち込んだというのが自分の中のイメージです。あとはコーネリアスの名盤「FANTASMA」の構造に割と影響を受けてる部分もあると思います。映画以外のものから着想することが多いんですよね。

なるほど。今回新作の公開もあるということで。3本もあるんですよね。

どうせやるなら無茶苦茶なことをしようと思って、かなり無理して3本走らせています。さすがに上映が決まってから、その上映に合わせて新作を3本も持ってくる人はいないだろうと。自分は普段、結構脚本を書くのが遅くて、「モラトリアム・カットアップ」も短編の割に10ヶ月とか費やしてるんですけれど、今回はこういう縛りがあったおかげでフットワーク軽くというか、ある意味直感的に、いい意味で軽い気持ちで3本つくれたのではないかと思います。なるべく「モラトリアム・カットアップ」とは違うアプローチをできたら良いなと思ったので、1本はテンポを落として、語弊があるかもしれませんが邦画っぽい作品(「ナンセンスな季節」)を目指しました。演技とロケーションを比較的大事にしています。もう1本は自然な演技や会話の雰囲気を追求した作品(「Retro Fiction Landscape」)で、これはあえて編集を封印して22分ワンカットで撮りました。

22分ワンカット!見応えがありそうですね。もう1本は?

最後の1本は自分の趣味大爆発の、電車の画とかを細かい編集で切り刻んで、それをいい感じの音楽に乗せるみたいな、自分の得意技を盛り込んだ超短編作品(「東京乗換案内」)があります。せっかくショーケースと銘打ってるので、演劇や音楽をやるというだけでなく、メインの映画でも自分達の色々な面を見せていければと思ってます。

電車が趣味という話もありましたが、今回公開される過去作もその要素がある作品ですよね。

はい。「ひかりタイプ」という作品で、新幹線がモチーフとして出てくる作品なんですけれども、これは割と多くの人がスッキリとわかるような作品にしようと思ってつくりました。普段は最後にわざと謎を残したり、一捻りして考えさせるような終わり方をさせるのが好きなんですけれど、そういうのはあえてやめて、ほのぼのと安心して観れるような作品ですね。モチーフとか諸々は「モラトリアム・カットアップ」と結構かぶってるので、その原形に見えるかもしれないですね。そして、高校生のときに撮った作品(「seven segment colors」)なんかも、かなり恥ずかしいんですけれども、こんな機会二度と無いと思ったんで全部見せようと思っています。

「ひかりタイプ」や「モラトリアム・カットアップ」は映画祭にノミネートされていますね。特に「モラトリアム・カットアップ」は田辺・弁慶映画祭と青山フィルメイトでグランプリ、PFFアワードにノミネートということですが、観客のみなさんの反響というのはありますか。

そうですね。PFFの地方上映にお伺いしてるんですが、地域で反応がだいぶ違うなという印象を受けました。関東よりも関西の方が反応がよくて、テンポの早い感じがもしかしたら関西の方の方がしっくりくるものがあるのかな、なんて思いました。

今回はテアトル新宿の上映ですが、あたたかな会場になるといいですね。今後、柴野監督は将来的に映画監督を目指すのでしょうかということが気になります。

自分はなんていうか、その都度目の前のやりたいことをやってきたっていう感じなので、実際のところ趣味の延長みたいな部分もあるんですよ。自分は映画監督になるぞ!と思ったことは正直あまり無くて、おこがましくて言えないということもあるんですけど。なので、映画に限らず、例えば脚本だけとか音楽だけとか、何か自分のことを面白がってくれる人と行く行くは仕事をしていければ嬉しいなぁ、なんて漠然と思ってます。

エンターテインメント性がある作品だと私は感じているのですが、商業的にということは意識しているのでしょうか。

実際問題、何か創作をするならお金にならないとしょうがないのかなぁという気持ちはありますね。自分がエンターテインメントよりのものをつくるのも、自己表現をするだけじゃしょうがない、特に映画に関しては人に観てもらわないとしょうがないと思っているので。受け手のことをちゃんと考えてつくっているというのはありますね。

では、最後に今回のショーケースにむけて注目ポイントであったり、お客さんへのメッセージがあればお願いします。

正直、今回のイベントって、無名な監督の自主映画によく分からない人の演劇とライブが付いてくるという、我ながらなかなか得体の知れないものなんですよね。ただ、それにこんだけの熱量でやっている人達はなかなかいないのではないかと思います。とにかく来て頂けさえすれば1500円は全然払う価値がある、満足できるイベントにはなっていると思います。映画はともかく、演劇もライブもこの値段で見れるってのもなかなか破格だと思います。是非、我々のやっていることを劇場に来て目撃して欲しいと思っています。

今回はイベントも日替わりコンテンツで、リピーター割引などもあるということですよね。

音楽メインの日、演劇メインの日など、コンテンツが変わって何回でも楽しめるようになっています。作品としても例えば、「モラトリアム・カットアップ」は1回ではなかなかわからないようにつくっていて、2回目に観た方が楽しめるということも実はよく言われるので、繰り返し観に来ていただければとても嬉しいです。

6月11日(土)から6月18日(土)までテアトル新宿で開催される「モラトリアム・カットアップ・ショーケース」この実験的なイベントを多くの方に目撃して頂きたいなと私も思います!
本日はありがとうございました。

インタビュー動画はこちらから!

©moratoriumcutup 公式ヴィジュアル

もっと柴野監督を知ってもらいたい 趣味に迫るアフタートーク

インタビューとして行わせて頂いたあとにフリートークをしました。より柴野太朗監督を知ってイベントにも興味を持って頂ければと思います!最後には柴野監督の好きな鉄道と音楽の情報も載ってます!趣味が合うな・・・と思ったら気軽にお話をしに劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

電車とか音楽とか趣味の話ありましたけど、それって昔から好きなんですか?

鉄道はものごころついたときから好きで、それからずっと好きですね。撮るのも乗るのも、ここ数年撮るのはあんまりしませんが、割と全般好きです。最近思うのは、だいたい乗り物とか好きだった人が多いのに、そういうのを小学校に入ったくらいでやめちゃうのがわかんないんですよね。プラレールとかトミカとか、そこでゴソッと捨てちゃったりして。もともとビデオカメラで遊んでたのも小学校低学年からでした。

えーすごい!どんなものを撮ってたんですか?

ジャンプして消えるとか、細かく録画して切ってつなげてとか。コマ撮りとか。

その頃から実験的だったんだ!それはなんか本当、ルーツですね。

まぁある意味、みんな通るルートですよね。あとレゴとかコマ撮りしてたし。あとは音楽でいうと小学校からずっと放送委員会で。給食の時間とか掃除の時間に音楽を流したりとかしてて、機材とか裏方とかにも興味があったかな。演劇もそれになんか近い。学内でやる演劇の音響とか、裏方みたいなことは好きでやってたね。あと、一時期バンドでドラムやったり、今もシンセサイザー集めてたり、ほんと趣味はたくさんあるんですよ。あ、監督をやっていて最近思うのが、DTMとかの音楽ソフトも一応扱えるから、テクニカルな指示がある程度できるのは強みだなと思いますね。映画だけやってると、なかなか音響面まで手が回らなかったりするでしょう?

確かに映画監督で音楽強いっていうのは強みですよね。柴野さん、DJもやってますよね。

DJも基本的には家で好きでやってるだけで。大してスキルがあるわけでもないんで、家の車でドライブする時のための自分用にCD焼いたりしてるだけなんだけどね。まずDJってわかる?

あんまり。なんかパーティーとか場所でやるみたいなイメージです。曲を繋げたりとかですよね。

曲を繋げる、うん。途切れさせないようにタイミングとかを合わせて。もしかしたらこういうこも、放送委員会がルーツなのかもしれないな。

あー、なんとなくわかりました。カッコいい放送委員会みたいな!

そうだね(笑)。カッコいい放送委員会みたいなことは6月12日(日)にちょっとだけやります。

アナログが好きっていうのも柴野さん、あると思うんですけど。アナログが好きな気持ちって?

なかなか難しいけど…単純にごちゃごちゃしてるのが好きなんですよね。ラジカセとかでもボタンがいっぱいついてるのとかカッコよくないですか?ハードオフのジャンクコーナーとか大好きなんで。だからアナログが好きっていうか、ただの機材好き?レコードもたくさん買うけど、アナログだから好きなのかって言われると…。

かけるまでの経緯がいいとかじゃないんですか。例えばコーヒーの淹れる過程がいいとかあるじゃないですか。

うーん、なんか違うかなぁ。音の温かみとか、手間が楽しいとかそういうことでもなくて。でも単純にレコードのジャケットが大きいのはカッコいいと思うし、単純にコレクター魂とか所有欲とかな気もする。好きなものは集めたいみたいな、無いですか?好きなアルバムはCDでもレコードでも欲しいし。何なら国内盤も輸入盤も全部揃えちゃう、みたいな。

なくはないけど、私は買ったら安心しちゃうからな。DVDとかそこまで集めないでレンタルしますね、10回とか。

なるほど…その発想はなかったな。音楽でいうとあんまり配信では買いたくなくて、モノがほしい。でも結局はパソコンに取り込んじゃうけどね。

だめじゃないですか(笑)

いや、やっぱりそこはモノとして持っておきたいし、揃えておきたいから。モノとして残しておけば、数年後にそれを見て、あの時あの店で見つけて買ったんだったなーとか、その時はあんなこと考えてたなーって思い出せるし。自分にとってCDとかレコードを買うのって、ある意味日記を書くみたいなことなのかもしれない。そうやってなんか、数年後に思い返して楽しめるように、ちょっとずつ思い出を残してるのかも。

それは作品からも感じますね。ノスタルジーみたいな。

まぁ普段からそんなことばっかり考えてる人間なんで、作品もそういう感じになりますよね(笑)

好きな鉄道路線

1位 弥彦線
短い区間の中で信濃川を渡る大きな鉄橋があったり、住宅地の合間を縫ったり、高架区間があったり、多彩な車窓を一気に見ることができて楽しめる路線。115系のボックスシートで乗りたいところです。

2位 長野電鉄長野線
渋くて良い駅舎がたくさんあるのに加え、長野駅寄りの地下区間の時代感が好き。乗っても撮っても楽しい、良い規模の中小私鉄。2000系が健在だった頃はよく好んでB特急に乗ってました。

3位 福井鉄道福武線
なんと言っても、併用軌道に大型車が乗り入れるというアンバランスさが面白い。市役所前駅付近の運行形態が特殊なので、見ていて飽きません。

好きな音楽アルバム

1位 砂原良徳「LOVEBEAT」
音の構成の緻密さと美しいメロディラインのバランスが完璧だと思ってます。アートワークへのこだわりも含めて、これを超えるテクノ・エレクトロニカ系のアルバムはなかなか無いと思います。ずっと好きなアルバムです。

2位 一十三十一「CITY DIVE」
2010年代のシティポップの名盤だと思います。特にDorian氏作曲のTr.3やTr.8はものすごい再生回数です。このアルバムをきっかけにして、過去のシティポップ系をどんどん掘り下げていくようになったような気がします。

3位 コーネリアス「FANTASMA」
「モラトリアム・カットアップ」もこのアルバムから影響を受けた部分が多々ありますが、過剰なほど音を詰め込み、実験的かつポップに仕上げているこのアルバムはやっぱり好きです。

柴野太朗 Taro Shibano

©moratoriumcutup 柴野太朗監督写真

1992年新潟県出身。幼少期にビデオカメラなどの機材に興味を持ち、中学時代には独学で撮影や編集の技術を習得。2009年、高校在学中に制作した「seven segment colors」が映画甲子園2009にて最優秀作品賞を受賞。以降、実験的な要素とエンターテインメント性とのバランスを追求しながら、自主映画の制作をコンスタントに続けている。