「サンセット・ストリップ」のストリップとは、本編中でも解説されているように、女性が裸になるショウのことではなく、細い長い土地、街路を意味している。

サンセット・ストリップ © 2013, SUNSET STRIP THE MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

アメリカのLA、サンセット・ブルヴァード(サンセット大通り)の長さ約2.4キロメートルのごくごく狭い地区だが、プレスシートの解説から引用すると“『ロック・オブ・エイジズ』の舞台となったこの地区は、今日に至るまで、音楽を中心とする様々なカルチャームーブメントを世界に発信し続けている”ということになる。付近にはキアヌー・リーヴス、レオナルド・ディカプリオ、パリス・ヒルトンらセレブの住宅もあり、リーヴスもヒルトンも本作に顔を出しているし、他にオジー・オズボーン、ミッキー・ローク、ジョニー・デップ、シャロン・ストーン、スラッシュらのスターもストリップへの愛を語っている。

ジョニー・デップ © 2013, SUNSET STRIP THE MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

キアヌ・リーヴス © 2013, SUNSET STRIP THE MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

ミッキー・ローク © 2013, SUNSET STRIP THE MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

 サブタイトルはロックンロールの誕生だが、単にロック、音楽の歴史に止まらず、アメリカの大衆文化、社会の変化を鮮烈に紹介した映画である。
古い写真と映像を使って、サンセット・ストリップを含むハリウッド地区の歴史が語られる。
何もない荒地が買われて畑となり、やがて住宅が建ち始める。近くの山にはHOLLYWOODLANDという不動産屋の広告モニュメントも建てられたが、のちにLANDの四文字が取り外され、我々がよく知っているハリウッドのシンボルとなった。

映画産業のメッカとなり、禁酒法時代にはスピーク・イージーと呼ばれるもぐり酒場が軒を並べ、賭博、売春といった悪の華が栄えた。警察官の多くが買収され、犯罪多発地帯でもあった。 犯罪者の代表として紹介されるのがミッキー・コーエンで、彼の肉声が聞かれるもすごい。本作では省略されているが、彼の用心棒をしていたジョニー・ストンパナートは、当時の大スターであるラナ・ターナーの情夫で、ラナの娘に刺殺されるというスキャンダラスな事件もおきている。ちなみにコーエンは映画でもよく取り上げられ、ハーヴェイ・カイテル、ショーン・ペンらが演じている。

サンセット・ストリップで開かれるショー © 2013, SUNSET STRIP THE MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

 私がサンセット・ストリップという地名を知ったのはTVシリーズ「サンセット77」からだ(多分日本人の多くは私と同じだと思う)。アメリカでは58年から64年まで放送されたミステリーもので、サンセット・ストリップ77番地にオフィスを構える二人の私立探偵が犯罪捜査にあたるという内容で、軽快なメロディと指を鳴らす音が入った主題歌は今でも口ずさむことができる(冒頭だけだが)。駐車係のクーキーがいつも髪をくしけずっていて、それで有名になったのだが、なんと演じた当の本人エド・バーンズが登場するんだからうれしい限りである。

 50〜60年代はシロ、モガンボ、トロカデロといったナイトクラブが全盛だったが、やがてヒッピー・ムーブメントが盛んになると、長髪の若者が通りを埋め尽くすことになる。ドキュメンタリー・フィルムをうまく使ってあって、オーセンティックな雰囲気を保っているのが本作の特徴だが、町を歩く人々のファッションを見ても時代の変化がうかがい知れる。ウィスキー・ア・ゴーゴーやロキシーといったクラブで、レッド・ツェッペリン、ドアーズ、ザ・フーといったロック・グループがライヴ演奏を聞かせて若者を熱狂の渦に巻き込んだものだ。

スティール・パンサー © 2013, SUNSET STRIP THE MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

オジー・オズボーン © 2013, SUNSET STRIP THE MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

スラッシュ(Guns N' Roses)&ファーギー © 2013, SUNSET STRIP THE MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

監督は音楽ドキュメンタリーを撮り続けているハンス・フェルスタッド。
4月23日から新宿シネマカリテで封切られ、全国順次公開の予定。29日には公開を記念してロック・トーク・バトルが新宿シネマカリテで開催される予定。
                                  北島晃弘

映画【サンセット・ストリップ~ロックンロールの生誕地~】予告

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北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。
大好きなSF、ミステリー関係の映画について、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。