ルーム

4月8日から公開中の「ルーム」。
アカデミー賞で主演女優賞を受賞しました。
大手の映画会社が制作したものではなく、配給網を持たない小さな製作会社が手がける低予算映画をインディペンデント系=独立系作品といいますが、「ルーム」もそんな独立系の映画です。
近年は、作品の質や作家の特長を発揮している作品として、アカデミー会員にもインデぃペンデント系作品が認知されてきました。現在アカデミー会員の高齢化が問題になっていますが、高齢化といっても、この人たちがアメリカンニューシネマの時代を支え、新しい映画の動きをアメリカ映画に持ち込んだ人たちなのです。なので、比較的柔軟に、作品の質をこそ評価すべきだという考えを持つこともできるようになったのだと思います。だからでしょう。アカデミー賞にもインディペンデント系の、批評家が喜ぶような作品がノミネートされるようになりました。
いろいろと問題はあるものの、とりあえず同じ土俵で、ハリウッド映画とインディペンデント系映画が評価されることになったことは、現在アメリカ社会を映画を通して観察するうえで、いい材料になっています。
 さて。この「ルーム」という作品、主演女優・作品・監督・脚本とノミネートされていますが、その誰もがほとんど無名の人たちです。
主演のブリー・ラーソンは、子役出身でテレビシリーズや映画の脇役としては何本も出ていましたが、映画で注目されるようになったのは、「ショートターム」という作品での演技です。「ショートターム」はサンダンス映画祭というインディペンデント映画の映画祭で賞を取り話題になった短編を監督自らが長編に書き換え発表し、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で審査員賞と観客賞を受賞しています。フリー・ラーソンはスカイプによるオーディションでキャスティングされました。少年保護施設の指導員という地味な役でしたが、その演技のナチュラルさ、細やかさに、一躍あの人は誰、と感心した人が多かったのでしょう。その後二本ほどの出演作の後に「ルーム」に抜擢、アカデミー賞主演女優賞までいっきにかけあがったわけです。
 監督はレニー・アブラハムソンというアイルランド出身の人で、2014年「フランク」という作品で注目を浴びた人です。原作・脚本はエマ・ドナヒュー。ベストセラーになった小説を自ら脚本化して、映画化を働きかけたというたくましい女性です。
 
 実際に、数年前のアメリカで、若い女性を拉致し何年も監禁して子供まで生ませていた男が捕まったことがありましたね。原作小説はその事件を元にしたものではなく、オーストリアで子どもたちと共に24年間地下室に閉じ込められていた女性の事件をもとにしたものだそうです。昔も映画にもなった「コレクター」という小説がありましたが、異常性格の青年のゆがんだ欲望を描いた「コレクター」とは違うリアルさが「ルーム」にはありました。
 さらわれた人をどのように監禁しつづけるのか、さらわれた本人はどんな思いでいるのか、残された人たちはどんな日々を過ごすのか。監禁された場所で生まれ、それ以外の場所を知らない子どもは、どんなことを考え、どんなふうに育って行くのか。そして、いきなり解放され、元の、本物の世界に戻った時、彼らには何が起こり、彼らはどう感じるのだろうか…。この辺りを緻密に考え、血の通った登場人物として作り上げ、それを演じる。映画として存在するためには、いくつもの段階が必要ですが、このスタッフ・キャストはそれを見事に成し遂げています。
 ブリ―・ラーソンは素晴らしいのですが、ジャックを演じた子役ジェイコブ・トレンブレイ君が、スゴイ。かわいいだけではありません。この子なくしてはこの作品は成り立たなかったろうという、スゴサ、です。ちなみに彼はなぜジャックという名前なのか。家に戻ったママは昔自分が行方不明になった時、17歳の時のままの部屋に戻るのですが、その部屋の壁には若いころのレオナルド・ディカプリオのポスターが貼ってありました。ジャックといえば、「タイタニック」の時のディカプリオの役名です。そこからきているのかも、とは私の解釈ですが…
「ルーム」はムービックス埼玉、ユナイテッドシネマ浦和他で公開中です。

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