まつかわゆまのカレイドシアター ⑤ 

『ルーム』

公開中の「ルーム」。
アカデミー賞で主演女優賞を受賞しました。

大手の映画会社が制作したものではなく、配給網を持たない小さな製作会社が手がける低予算映画をインディペンデント系=独立系作品といいますが、「ルーム」もそんな独立系の映画です。

近年は、作品の質や作家の特長を発揮している作品として、アカデミー会員にもインディペンデント系作品が認知されてきました。
現在アカデミー会員の高齢化が問題になっていますが、高齢化といっても、この人たちがアメリカンニューシネマの時代を支え、新しい映画の動きをアメリカ映画に持ち込んだ人たちなのです。
なので、比較的柔軟に、作品の質をこそ評価すべきだという考えを持つこともできるようになったのだと思います。だからでしょう。アカデミー賞にもインディペンデント系の、批評家が喜ぶような作品がノミネートされるようになりました。

いろいろと問題はあるものの、とりあえず同じ土俵で、ハリウッド映画とインディペンデント系映画が評価されることになったことは、現在アメリカ社会を映画を通して観察するうえで、いい材料になっています。

 さて。この「ルーム」という作品、主演女優・作品・監督・脚本とノミネートされていますが、その誰もがほとんど無名の人たちです。
主演のブリー・ラーソンは、子役出身でテレビシリーズや映画の脇役としては何本も出ていましたが、映画で注目されるようになったのは、「ショートターム」という作品での演技です。
「ショートターム」はサンダンス映画祭というインディペンデント映画の映画祭で賞を取り話題になった短編を監督自らが長編に書き換え発表し、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で審査員賞と観客賞を受賞しています。
ブリー・ラーソンはスカイプによるオーディションでキャスティングされました。少年保護施設の指導員という地味な役でしたが、その演技のナチュラルさ、細やかさに、一躍あの人は誰、と感心した人が多かったのでしょう。その後二本ほどの出演作の後に「ルーム」に抜擢、アカデミー賞主演女優賞までいっきにかけあがったわけです。

 監督はレニー・アブラハムソンというアイルランド出身の人で、2014年「フランク」という作品で注目を浴びた人です。原作・脚本はエマ・ドナヒュー。ベストセラーになった小説を自ら脚本化して、映画化を働きかけたというたくましい女性です。
 
 実際に、数年前のアメリカで、若い女性を拉致し何年も監禁して子供まで生ませていた男が捕まったことがありましたね。原作小説はその事件を元にしたものではなく、オーストリアで子どもたちと共に24年間地下室に閉じ込められていた女性の事件をもとにしたものだそうです。昔も映画にもなった「コレクター」という小説がありましたが、異常性格の青年のゆがんだ欲望を描いた「コレクター」とは違うリアルさが「ルーム」にはありました。

 さらわれた人をどのように監禁しつづけるのか、さらわれた本人はどんな思いでいるのか、残された人たちはどんな日々を過ごすのか。監禁された場所で生まれ、それ以外の場所を知らない子どもは、どんなことを考え、どんなふうに育って行くのか。そして、いきなり解放され、元の、本物の世界に戻った時、彼らには何が起こり、彼らはどう感じるのだろうか…。
この辺りを緻密に考え、血の通った登場人物として作り上げ、それを演じる。映画として存在するためには、いくつもの段階が必要ですが、このスタッフ・キャストはそれを見事に成し遂げています。

 ブリ―・ラーソンは素晴らしいのですが、ジャックを演じた子役ジェイコブ・トレンブレイ君が、スゴイ。かわいいだけではありません。この子なくしてはこの作品は成り立たなかったろうという、スゴサ、です。
ちなみに彼はなぜジャックという名前なのか。家に戻ったママは昔自分が行方不明になった時、17歳の時のままの部屋に戻るのですが、その部屋の壁には若いころのレオナルド・ディカプリオのポスターが貼ってありました。
ジャックといえば、「タイタニック」の時のディカプリオの役名です。そこからきているのかも、とは私の解釈ですが…

「ルーム」はムービックス埼玉、ユナイテッドシネマ浦和他全国で公開中です。

「ルーム」本予告

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「レヴェナント 蘇りし者」

さて、もう一本は4月22日より、ムービックス川口他、ムービックス・イオン・ユナイテッドなど各シネコンで公開される「レヴェナント 蘇りし者」をご紹介しましょう。

アカデミー賞で、無冠の帝王と言われたレオナルド・ディカプリオがやっと主演男優賞を受賞したことが大変話題になりました。監督賞のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥも二年連続の監督賞を受賞しましたし、撮影のエマニュエル・ルベツキは三年連続の撮影賞を受賞、とプロにも評価の高い作品です。19世紀初めのアメリカ西部で起こった実話をもとにしています。

 1823年。西部ミズーリ―川沿いを進むハンターの一隊が、毛皮を集め、基地に持ち帰ろうとするところを、白人によって娘をさらわれた先住民アリカラ族の一団に襲われます。このハンター隊のガイドを務めていたのが、ポーニー族の妻を殺され息子と共に白人ハンター隊のガイドをしているヒュー・グラスでした。

ハンター隊はどうにか川に逃れますが、グラスはこのまま川を下ることに反対し、隊長の判断で一行は船を捨て、陸路を基地に向かうことになります。道を知っているのはグラスだけ。しかし、偵察に出たグラスはクマに襲われ、瀕死の重傷を負ってしまいます。グラスによって何度も助けられたと恩を感じている隊長は彼を基地まで運ぼうとしますが、道は困難でとても担架を運んで行ける状態ではありません。

 仕方なく隊長はグラスとその息子、グラスを慕う若い隊員ジム、そして、グラスを敵視しながら、高額の報奨金を目当てに名乗り出たフイッツジェラルドを残し、グラスの死を見届けきちんと埋葬するように命令します。

 しかし、数日たってもグラスは死なず、業を煮やしたフィッジェラルドはグラスを生き埋めにしてしまおうとします。それに抗ったグラスの息子はフィッジェラルドに殺されてしまうのでした。その一部始終を見ながら、何もできない父グラス。かれの心に決して死なない、息子のカタキを取るために、という決意が生まれたのはその時でした。

 凍りつく大地に残されたグラスは、渾身の力を振り絞り立ち上がります。息子を埋葬し、フイッツジェラルドを追うために。
 誰も想像できない、苦難の追跡が始まります。

 冒頭の襲撃シーンからものすごい迫力でぐいぐいと引き込まれ、あれよあれよという内に、決死のサバイバル、次から次へとグラスを襲う苦難、またまた決死のサバイバル、襲いくる自然と先住民…、と、絶体絶命の繰り返し。そんなアクションの中に、土地を奪い、人を殺し、自然を破壊する白人と、それに怒りをぶつける先住民の想い、生と死のはざまを生き抜いていくグラスの心の変遷などが描きこまれていきます。

これは大きなスクリーンで見ていただきたい一本。
お近くのシネマコンプレックスでご覧になれるので、ぜひ。
上映劇場は各地のムービックス・イオンシネマ・ユナイテッドシネマなどです。

映画「レヴェナント:蘇えりし者」予告2(90秒) アカデミー賞主要3部門受賞

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