岩井俊二監督の最新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」(現在公開中)のリップヴァンウィンクルという名の由来について、すでに映画をご覧になった方、またこれから劇場に足を運ばれる方へ、重箱の隅を突くようなネタですが、これを知るとなんだか物語の世界観に奥行き感が増し増しになります。私はそうでした。本作品の中でリップヴァンウィンクルが誰だったのかは、映画を観てからのお楽しみとして....

きっと名前はなんでもよかったんだと思います。でもファンは固有名詞に何らかの意味を見出してしまうのが、岩井作品でもあったりで.... 。すでに記事になっている先日の単独インタビューでも質問させていただきました。そちらの記事も合わせてご覧ください。

All the photographs: Kyoshiro Yoda/ WACCA

リップヴァンウィンクルは、実はお酒の名前

知る人ぞ知る手作りアメリカン・バーボンの銘酒にリップ・ヴァン・ウィンクルという名の酒がある。1800年代中頃から4代に渡るヴァン・ウィンクル家が作り続けたオールド・リップ・ヴァン・ウィンクル醸造所が家族の名を冠した由緒あるバーボンなのです。

こちらのバーボンのレシピの特徴は、ライ麦は使わず、小麦を使うことで、ソフトでまろやかな味わいを作り出しています。機会があったら、10年物のオールド・リップヴァンウィンクルをオーダーしてみたいものです。バーに行く愉しみが一つ増えました。

Old Rip Van Winkle Handmade Bourbon

oldripvanwinkle.com

リップヴァンウィンクルは、アメリカ版浦島太郎といわれた寓話の主人公の名前

インタビュー中、岩井監督の口からこの短編小説家・ワシントン・アーヴィングの名前が出て来ました。映画そのものは、お酒を飲んで寝ている内に数十年経過する話ではありません。

リップ・ヴァン・ウィンクルは、旅先で出会った小人に酒をご馳走になります。あまりに美味しいお酒なので、飲み過ぎて寝てしまい、目覚めると数十年経ってしまっていた、という昔話。

この名前だけ、シンクしている感じではあるのですが、本編中、何度となく、酒宴があって、その度に黒木 華演じる主人公・七海は、自らの人生に翻弄され、あらぬ方向へ流されてゆくので、なんとはなしに、この浦島太郎な話とリンクしている印象はあります。

1987年にフランシス・フォード・コッポラ監督が、TVドラマのワン・エピソードとして、名優、ハリー・ディーン・スタントンを迎えて、ワシントン・アーヴィング作の寓話リップ・ヴァン・ウィンクルを映像化しています。いかにもなキャスティングで、ちょっと観てみたいものです。

リップ・ヴァン・ウィンクルの話が引用された日本映画の名シーンがある

松田優作の名作映画「野獣死すべし」(1980)の有名なワンシーンでリップ・ヴァン・ウィンクルの寓話を話すシーンが出てきます。瞬き一つせずにこの話を蕩々と語る優作の鬼気迫る名演は、今でも色褪せません。

Story Of Rip Van Winkle

www.youtube.com

リップヴァンウィンクルは、本当の自分と出会うまでの気まぐれなハートのナビゲーター

現在公開中の映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」は、見終わってから、しばらく時間が経っても、尾を引きます。後になってからシーンを思い出しては、様々なことに思考を巡らせることができる映画は、きっと何かを与えてくれる映画だなと思います。

アメリカのスラングで"リップ・ヴァン・ウィンクル"とは、"時代遅れの人"という意味だそうです。映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」の主人公・七海も時間をかけて、様々なことを身をもって、体験しながら、本当の自分と出会うまでの帳尻合わせを荒唐無稽なストーリーラインだったり、あるある的なリアリティとソーシャル・ネットワークが並列で語られてゆきながら、これは犯罪なのか、温情なのか?愛なのか?はて?と混濁しながら、全てがマッシュアップされて、ヒロインは、なんとか奇跡的に無事、いるべき場所へ着地できるのかも....という、インスピレーションに富んだ作品となっています。