「ホテルコパン」
10人の壊れる日本人。と、その10人の怪優たち。
第4回 大沢ひかる as LINE依存症の彼女:浜名美紀

監督の門馬直人です。
ついに公開まで1週間となりました。
そして今日も劇中で描ききれなかった10人のキャラと怪優たちの見どころについて紹介していきます。

必要とされない恐怖


漫画「ワンピース」にベビー5というメイド服の女性キャラがいます。ブキブキの実を食べ、体のあらゆる部位を武器に変身させる全身武器人間。そのベビー5の性格が面白い。頼まれれば断れず、「自分を必要としている」と感じると、敵味方関係なく相手を好きになってしまうのです。メンヘラですね。その性格は幼少期に母親から「必要のない人間」と言われ、口減らしのために山の中に捨てられた過去から形成されたものらしいです。なんか少年誌にしてはヘビーな設定ですね。でも、このベビー5って、まさに美紀なんです。

両親に捨てられたため、幼い頃より「必要とされないこと」に怯え、「必要とされること」に異常な執着があります。その必要とされないことへの恐怖は、ネットコミュニケーション依存をも引き起こしています。美紀はLINE依存症で、「つながり」から抜け出せない。
昨今では、美紀に限った話ではないですけど。例えばLINEの既読無視から引き起こる人間関係が社会問題化しつつあるとまで言われています。既読無視が社会問題になるって、どんだけ狂った社会なんだよ、とは思いますが、既読無視をきっかけに「うつ病」になり心療内科に通う、愚痴をきっかけに家庭内で諍いが起こる、さらには職場にいられない、いじめ問題で引っ越しをするというケースまであるそうです。さすが自殺大国ニッポン。

この映画の劇中でも風呂以外の全カットで美紀のそばには常にスマホがあります。「つながり」が絶たれてしまうことが怖く、常に連絡を取り合っていないと落ち着かないのですね。班目はそんな姿を寛容に見ているようで、本音のところ多くの男と頻繁に連絡を取り合う美紀に、持ち前の「女性」に対する思いも加わり、不信と嫌悪を奥底に抱いています。それは美紀と班目との関係の崩壊にも影響を与えています。そして美紀は「捨てられる」という一番の絶望に絶叫します。
携帯依存症の美紀の特徴的なシーンに、隣に座る斑目とLINEで会話するというのがあります。リアリティない気がするけど、フィクションとしてはこのくらいやらないとダメだよね?と2013年当時には思ったのですが、撮影の準備をしている頃、別件で会った大鶴義丹さんから、こんな話を聞きました。ファミレスで義丹さんの隣の席に、若いカップルが座ったそうです。そのカップルは入ってからずっとお互い自分の携帯だけをいじって、何の会話もしない。店員さんが注文を取りに来ると、女の子は自分の注文を伝えたのですが、男の子は顔すらあげず、彼女に「ぽむっ」とLINEを送信。女の子が自分のLINEを見て、店員に男の子の注文を伝えたというのです。「それを見てから気がついたんだけど、座ってからずっとぽむ、ぽむと音がしてたから、ずっとLINEで会話してたんだよね、その二人。衝撃でしょ?」と。「確かに、衝撃です。目の前にいるなら口で伝えた方が早いですよね」と僕が答えると、義丹さんは「いやいや、そうじゃなくて、何十年後かにはその方が当たり前で、普通に会話してる人の方がヘンになるんじゃないかってこと!SFみたいでしょ」と。僕には、その先鋭的で斜め上な視点の義丹さんの方が衝撃でしたけど(笑)。

ともかく、そういう人がすでにいるんだなぁと安心したのですが、最近、先ほどの既読無視の問題なども、LINEでのコミュニケーションと、電話などのリアルタイムコミュニケーションの境界線が希薄になって起こっていると知り、本当に義丹さんのいうSF時代が近づいているのかもなぁと、美紀のシーンを改めて見直しつつ衝撃を受けたのでした。

必要とされるための防衛本能。 怪優:大沢ひかる

もともとの美紀のキャラ設定って、もっとハイテンションで、頭が悪い故に屈託なく明るいギャルというイメージだったんですよね。嫌われたくない思いが、とにかく明るく振る舞う人格を形成した。そして、バカだから頼まれれば断れないし、バカだから必要とされれば男についていっちゃう。
これはこれで悲しいので、ベースはそのままなんですけど、「バカだから」という言葉に何か美紀なりの防衛本能が働いている気がしたんですよね。それにずっと引っかかっていた。ひかるちゃんは、イマドキの明るい女の子ですけど、すごく真面目で根性ある子で、頑張ります!感が半端ないんですよ。それを見て、美紀の頑張ります!感ってなんだろう?と思ったんですね。嫌われないという受動的なものでなく、必要とされるように能動的に働くもの。それはぶりっ子的なものなんじゃないかと。必要とされるため愛されるように、努めてぶりっ子に振る舞って生きてきた。そこに美紀なりの防衛本能があると腹落ちしたんです。ぶりっ子を努める美紀がちょっと斑目に気をつかっている感じを、映画を観て感じてもらえたら嬉しいです。その防衛本能があるから、反応の悪い返事に対して「冗談」とかいって誤魔化すことができる、顔を見合わせないLINEという言葉のコミュニケーションに本音を託すという美紀の生理も成立したと思っています。
その感じをひかるちゃんがうまく出してくれたおかげで、中盤くらいに清水さん演じる千里と露天風呂につかるシーンがあり、そこで防衛本能のない素の美紀がはじめて顔を出す瞬間を捉えられました。美紀はラスト近くに心の決壊から始まる見せ場的大芝居があるのですが、僕はこの何気ない露天風呂シーンの表情がすごく好きなんですよね。その表情を、劇場でぜひ観てください。あ、後半の大芝居の見せ場もぜひ!

-公開まで、あと7日-

映画「ホテルコパン」予告編

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