映画『独裁者と小さな孫(原題: The President)』

ヴェネツィア国際映画祭やシカゴ国際映画祭など各国の映画祭で称賛されたヒューマンドラマ。

とある国の独裁者として君臨するもクーデターによって追われる身となった老いた男が、幼い孫を連れて逃亡した果てに辿る運命を描く。
メガホンを取るのは『キシュ島の物語』『カンダハール』などで知られるイラン出身の巨匠モフセン・マフマルバフ。ユーモアとスリルをちりばめながら平和を深く見つめた物語もさることながら、主人公の孫に扮したダチ・オルウェラシュヴィリの愛くるしい姿にも注目。

第15回(2014年)東京フィルメックスにて『プレジデント』のタイトルで上映され、観客賞を受賞。
ジョージア(グルジア)・フランス・イギリス・ドイツ合作。これは傑作と言って良いんじゃないかしら? 右を見ても、左を見ても暴力ばかりのこの世の中に生きる意味を改めて考えさせてくれる素晴らしい作品だ。

国や時代や人名をあえて語っていないのでイラクのフセインやリビアのカダフィ、北朝鮮の金正恩、監督の出身地イランのパーレビ国王などを想像するけれど、権力を奪われた独裁者とその孫の視点でその後の社会までをも捉えていくという設定が何よりのキモだろう。
独裁者が孫を膝に載せた冒頭のシーンでいきなり、一気に引き込まれた。単純な展開ではあるけれど、所々挿入される悲惨なエピソードやふと心が緩む瞬間の積み重ね具合は絶妙で見事としか言えないし、逃げる先々で出会う一般人の言葉も独裁者だけでなくボクにまで様々な感情を抱かせる。この辺りの演出も見事だ。
そして物語の展開を引っ張るのがかわいらしい孫というのもズルいほど上手だ。その孫がとにかく愛おしくて、抑え切れずに出てくる愛らしい言動に癒されるんだよね。

独裁者が緩やかに人間に戻っていくんだけど、ギリギリのところで止めてるのも上手いと思う。独裁者が途中負の連鎖を断ち切るために耐えるシーンは印象的だ。イチイチびしっと決まった画面構成といい、画面の質感といい、監督の力量を随所に感じたなあ。

刑務所から5年ぶりに妻の元へ帰る革命家の男の悲劇を、顔のアップの長回しだけで見せるシーンの演出は忘れられない。ストレートに反戦を訴えるラストシーンには胸が熱くなった。
何度か出てくるギター演奏や嗄れた歌声も良かったなあ。憎しみの感情は人間性を問われるのかしらね。これまで虐げられた人々の心が救われるために、独裁者はどんな報いを受ければいいのだろうか。難しいね…。そんなことを考えさせられた素晴らしい作品。

シネフィル編集部 あまぴぃ

映画『独裁者と小さな孫』予告篇

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