今さらかという話題かも知れませんが、『スター・ウォーズ』のSFXが『2001年宇宙の旅』のSFX(特撮)と決定的に異なるのは、"モーション・ブラー"(ぶれ)なんですよね。
具体的に比較すると『2001年…』のディスカバリー号のミニチュアは、大きいサイズのものは15mほどもあり、普通に撮影すると、奥の方がボケてミニチュア然としてしまいます。
それを防ぐために、それこそ1フレームに長い露光時間をかけて、パン・フォーカスで撮影しています。

もちろん人力では到底無理なので、ミニチュアを固定し、カメラをレールに載せ、フィルムのコマも同期させて、ステッピング・モーターで精密に制御し、カメラを動かしたといいます。

対して『スター・ウォーズ』は、発想は同じなのですが、こちらはモーションコントロール・カメラを導入し、コンピュータのプログラムによりカメラを支持するアームを動かして、固定されたミニチュアを撮影する訳ですが、その時、故意にカメラのシャッターを開けたまま動かすことで対象はぶれ、スピード感のある映像が撮れるというわけなんですね。

このぶれを映像に生かすということは、その後もILM(ルーカスが立ち上げたSFX専門の会社)のメイン・テーマとなり、ゴー・モーションや、『スター・ウォーズ~ジェダイの復讐』における森の中のスピーダー・バイクの背景映像、さらに『インディジョーンズ~魔宮の伝説』のトロッコのチェイスシーンへと繋がっていく訳なんですよね。

『2001年宇宙の旅』から、ディスカバリー号

『2001年宇宙の旅』から、ディスカバリー号

『スター・ウォーズ』から、デススターへのアタック場面。Xーウィングも背景も意図的にぶれさせています。この手法でスピード感を演出。

上の画像は、『スター・ウォーズ』から、デススターへのアタック場面です。
Xーウィングも背景も意図的にぶれさせています。
この手法でスピード感を演出しています。

今回の『スター・ウォーズ~フォースの覚醒』においても、Xーウィング等がCG然としていないのは、このモーションブラーをCGに巧みに利用している成果だと思いますね。

さらに言うと、この技術の違いで『2001年…』の宇宙船は直線的な動きとなり、またそれが映像に独特の様式美を与える結果となっているのですが、『スター・ウォーズ』の宇宙船はモーション・コントロールカメラにより三次元的な動きを得たと言えます。

あの回転している宇宙ステーションにシャトルが近づいて行く場面は、凄いと思いますよ。
あれはステーションの方もカメラの動きと同期させて動かしているわけですから…。
シャトルと背景の地球は、さらに合成しているのでしょうね。

「スター・ウォーズ~ジェダイの帰還」より
©cinefil nishina hideaki

上の画像にある『スターウォーズ~ジェダイの帰還』の背景素材は、カメラマンがステディカムカメラを装着して、森の中を実際に歩き、スローシャッターで撮影してスピード感とぶれを演出したそうです。

ウェザリングを施したリアルなミニチュアの質感は、CGにも受け継がれ、トランスフォーマーもパシフィックリムも、何故か傷だらけ錆びだらけでリアルに見せる方法をとってはおりますが、やはり物体が持つ独特の「存在感」はCGアニメではなかなか出ないですね。

モーションコントロールカメラと、カメラが動く事で動きをつけて合成するミニチュアの方が、やはりリアルに見えます。
最近ですと「インターステラー」とかやはり上手いですね、ライトスタッフ的な感じですね。


モーションブラーはCGの動きも非常に滑らかにしますから、人間の脳を騙すには最適の方法なんですね。
追いきれてないものが間に挟まるだけで、滑らかに見えてしまうんでしょうか?

溝口健二監督の『雨月物語』(1953年)における、この琵琶湖の湖面を行くシーン
©cinefil nishina hideaki

余談ながら…溝口健二監督の『雨月物語』(1953年)における、この琵琶湖の湖面を行くシーン。
これはロケでなく、スタジオの中でスモークを炊いて撮影しているのですが、実際は舟はほとんど動いていないのですよね。
カメラを載せたクレーンの方を動かすことで、あたかも舟が進んでいるように見せているんです。
撮影の理屈は『スター・ウォーズ』のモーション・コントロール・カメラと同じというのが、凄いですね。
撮影は宮川一夫。
さらにこの場合には、編集の巧みさも貢献しているのですが…。

©cinefil nishina hideaki
仁科 秀昭
:天井桟敷、東宝撮影所などの美術スタッフを経て、
現在はミュージアムプランナーとして、活躍中。