「Drawing Works」展示風景 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

イリュージョンからの逸脱

 水玉の作品で知られるアーティストの草間弥生が1959年にニューヨークで制作発表した一連の絵画作品は、網の目にみえることから「ネット・ペインティング」とよばれました。
ニューヨークの当時の大きなアートのムーブメントであったミニマリズムの絵画作品と対比して評価され、「ネット・ペインティング」の作品は、絵画作品が奥行きを持った空間として認識されるときに成立するイリュージョニズムを排した先駆的な表現でした。
 網目をみていると点が浮き上がるような、病理的な反復性がもたらす、画面の網目の不規則さは有機物のような感覚を覚えます。
草間弥生の「ネット・ペインティング」の絵画作品は、水玉模様と並ぶ代表作として知られています。

-左より Drawing Works #19、Drawing Works #23、Drawing Works #21、Drawing Works #22、Drawing Works #13
Drawing Works #12、Drawing Works #20、Drawing Works #18 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

近代化が生み出した日本画技法

 近代日本画の絵画表現である「朦朧体(もうろうたい)」は、江戸時代の伝統的な絵画技法と違い、明治時代の岡倉天心を中心に、横山大観、菱田春草によって試みられ、確立した没線描法になります。
それまでの日本の伝統的な線描技法とは違い、空間や光を表現するために、輪郭線をぼかした色面描写を用いました。
 これは、当時の西洋画の浪漫主義的風潮を背景とした造形と対峙しながらも、西洋画の大気描写を新しい技法として取り入れ、余白を残さない、独自性の強い表現方法でした。
近代化を推し進める明治時代の特徴的な絵画として、日本画に革新をもたらし、不評を買いながらも、「朦朧体」に改良を加え、後の文部省主催の展覧会「文展」において、近代の名作が次々と生み出されました。

日常品によるドローイング

 ベルギーのアントワープ出身、1958年生まれのヤン・ファーブルの作品に、青インクのボールペンで、表面を青く描き埋め尽くしたドローイング作品群「The Hour Blue(青の時間)」があります。
「青の時間」とは、一日の中で、夜の昆虫の音色が一度静まり、また昼の昆虫が鳴き始めるまでの静寂な時間があり、「ファーブル昆虫記」で知られた、ファーブルの曾祖父がそう名付けたことに由来します。
 BICのメーカー名で知られる1950年代から普及したボールペンを使用し、画用紙の白い面に微妙に青色のトーンが違うボールペンの細い線で、空間の広がりを感じさせるドローイングの傑作です。

Drawing Works #03 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

紙を切るパフォーマンス

 身体表現のパフォーマンスアートは、1960年代のヴィト・アコンチ、アラン・カプロー、ヨーゼフ・ボイス、ヘルマン・ニッチェなどによって知られていますが、行為そのものを観客に上演していくものもあれば、行為の記録として写真、ビデオに残すこともあります。
またパフォーマンスアートは、ヌードで演じられることも多かったので、1960年代から1970年代前半は、フェミニズムの思想と結びついているケースも多くありました。
 「Cut Papers」のパフォーマンスで知られる1975年生まれの北九州在住の阿部幸子は、2004年ニューヨークのMOMA PS1での滞在制作を皮切りに、2010年リバプールビエンナーレ、2012年第18回シドニービエンナーレ、2013年ポンピドゥ・センター・メッスなど、世界各地で紙を切る非常に美しいパフォーマンスを展開してきました。

「Drawing Works(ドローイングワークス)」

 パフォーマンスアーティストの阿部幸子が制作する、「Drawing Works(ドローイングワークス)」一連のシリーズは、緻密に描かれた、識別の限界を超えた米粒の大きさの小さな粒が、編み目模様のように連鎖しながら広がり続けます。
この「ドローイングワークス」は、草間弥生の「ネットペインティング」と異なるのは、また離れて鑑賞すると、線画が消えることによって「朦朧体」のような独特のテクスチャーを生み出します。
あえて余白の空間を残さない表現方法により、微妙にトーンが残る独特の表現ですが、あくまでもヤン・ファーブルのように、日常品のインクペンを使用した線画になります。
 阿部幸子の「ドローイングワークス」は、能動的な鑑賞のあり方を問い直しながらも、絵画に向かう行為と姿勢とは何かを考えさせる作品です。

-左より Drawing Works #17、Drawing Works #16 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

阿部幸子ドローイングワークス展 概要
会  期:2016年1月16日(土) - 2月6日(土)金曜日から日曜日のみの展示
時  間:15:00–20:00
入場料:無料
会  場:Gallery SOAP
     福岡県北九州市小倉北区鍛冶町1-8-23 2F
     phone 093-551-5522
     fax 093-551-5522
     e-mail info@g-soap.jp
公式サイト:http://g-soap.jp/

森秀信 プロフィール

1966年長崎市生まれ。
武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻修了後、現代美術センターCCA北九州リサーチプログラム修了。
主に現代美術の創作活動の他、展覧会のキュレーションやワークショップの企画を担当。専門は現代美術。