2015年は写真家をテーマにしたドキュメンタリーが当たり年だった。
南米ブラジルのカメラマンを描いた「セバスチャン・サルガド」、死後に多数のネガが発見されて有名になった「ヴィヴィアン・マイヤーを探して 地球へのラブレター」、そして12月5日に東京のイメージフォーラムで公開され、その後名古屋、神戸、川崎でも上映が予定されている「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」の三本だ。
それぞれ違ったタイプの写真家の人生、作品、彼らが与えた影響を、それぞれ違ったアプローチで描いているのが実に面白い。例えば、「セバスチャン・サルガド」はドイツの監督ヴィム・ヴェンダースと息子のジュリアーノ・リベイロ・サルガドとともに今なお現役のサルガドに密着し、彼が寒冷の地シベリアで動物を撮るのに随行して、その過酷ともいえる撮影状況をルポ。
「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」は家政婦をしながら写真を撮りまくり、しかもそのことを誰にも打ち明けずに死亡したヴィヴィアンの全貌に迫っていく。
死後、その膨大なネガをオークションで見つけた青年の尽力で少しずつ彼女の人生が明らかになっていく。まるで謎解きのような印象を受けた。
そして「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」。
12歳のときにカメラを買ってもらい、1940年代という早い時期からカラー写真を撮り始め、『ハーパーズ・バザール』や『ヴォーグ』といった著名なファッション雑誌のカバーも飾ったりしたが、80年代に入ると表舞台から姿を消してしまったソール。
2006年に彼の写真集が発売され、再び脚光を浴びるようになった。「有名人を撮るよりも雨に濡れた窓を撮るほうが私には興味深いんだ」とのことで、ニューヨークの街をカメラを持って歩く姿は飄々としていて、それでいて撮影された切れ味のよい写真は人をひきつけずにはおかない。
カメラを向けられると、「私はたいした人物ではない。映画にする価値などあるもんか」と照れつつ、「でも仕方ないか」と受け入れ、「人生で大事なことは、何を手に入れるかじゃなくて、何を捨てるのかだ」といった警句をはき、人生を振り返りながら、己の人生哲学を吐露する。
監督のトーマス・リーチはイギリス出身で、CMで実力を認められ、短編ドキュメンタリーをてがけたあと、本作で長編デビュー。日本語字幕をアメリカ文学研究者で翻訳家にして東大教授の柴田元幸が手がけているのも話題のひとつ。
これらの三本を見て、あらためて写真の持つ魅力に気づかされるとともに、素人でも撮れる写真とプロの、芸術家の写真との違いに圧倒させられた。写真を通して、撮影者の美意識、被写体に対する思いがくっきりと見て取れ、その時代の雰囲気、社会情勢も表現されていた。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。
大好きなSF、ミステリー関係の映画について、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。