『起終点駅 ターミナル』
「ホテルローヤル」で直木賞を受賞した北海道出身・在住の桜木紫乃の短編小説を原作にした人間ドラマ。判事だった頃に体験した苦い出来事を引きずる55歳の弁護士が、孤独な25歳の女との出会いを経て再生していく様を追い掛ける。
メガホンを取るのは『小川の辺』『はつ恋』などドラマ作品に定評のある篠原哲雄。
『ザ・マジックアワー』などの佐藤浩市、『アオハライド』などの本田翼が主人公となる男女を、『そして父になる』などの尾野真千子が男の人生に深く関わる人物を演じる。実力派たちの共演に加え、ロケを敢行した北海道釧路市の風景も見どころ。音楽を小林武史が担当した。
佐藤浩市が圧倒的に素晴らしいね。重要なシーンのほとんどを台詞ではなく表情や動作での心理描写で演じ切ってるんだよね。北海道の風景を背景に少し落ちぶれた感じの佐藤浩市の抑揚なく淡々と進む一人暮らしの日常がすごく良いんだよね。そして佐藤浩市が作る料理の美味しそうなことといったらもう…。カリカリに揚がったザンギ、棒棒鶏載せ冷やし中華、プリップリのいくらの醤油漬け、熱々のお粥…。おまけにそれらを食べたときの本田翼の笑顔といったらもう…。こっちまでほっこりするよ。彼女には笑顔が似合うね。ただお箸の持ち方が気になったゾ(父親気分…演出だったら良いんだけれど)。他に中村獅童も目立ってたなあ。場面を持ってっちゃうというか、存在感たっぷりで安定感抜群。原作の桜木紫乃の小説の登場人物はみんなワケアリで、心に傷を負ってたり、孤独だったり、人生諦めてたりで…。でも最後は、ほんの一筋、未来への希望が垣間見えるっていうね。
本作もラスト、2人の別れは物悲しい雰囲気に包まれてるんだけれど、共に再生に向かって新たな一歩を踏み出すんだよね。そのときの佐藤浩市の寂しさの中の慈愛に満ちた笑顔に胸が熱くなった。
そこで流れるMy Little Loverの主題歌「ターミナル」。歌詞は良いけれど明る過ぎたかな…。いつも徒歩だからクルマないのかあと思わせておいて急にクルマ出てきたり、今まで元気だったのに急に高熱で倒れたり、急いでるはずなのに東京まで電車で行ったりなどツッコミドコロもあるけれどそんなの気にさせないほど素晴らしい作品だよね。今立ち止まってるこの場所は終着点ではなく、ここからも道は広がってるんだなあ。過去を背負って未来に踏み出すことこそが大事なんだなあって思える作品。さあ、まずはザンギを食べに行きましょうぞ。
シネフィル編集部 あまぴぃ