小野耕世のプレイタイム⑦
ターザンの最後とその後

「ディズニーの長編アニメの『ターザン』で、私は映画のはじめの荒れ狂う海の描写などを手がけたよ」
と語ったのは、日本で「ブラック・サッド」というハードボイルドのフランス・コミックス(BD)の作者として知られるスペイン生まれのBD作家フォアンホ・ガルニドである。
どんな動物の骨格や筋肉の動きでも描くことができるこのアーティストは、人間の骨格と筋肉の動きも正確に描くことができるので、人間と動物を合体させたブラックサッド(黒ネコの頭と人間のからだを持つ私立探偵)を真実味をもって描くことができるのだった。
「そのディズニーのターザン映画では、アフリカの先住民たちがまったく登場していなくて、それはすべて動物たちに置きかえられていますね」と私が言うと、「置きかえられた」という表現に、彼はちょっととまどっていた。
「実はあのアニメのアート・ディレクターは、アフリカ系アメリカ人で、彼を中心に、みなでいろいろ検討したんだよ。これまでのターザンの劇映画では、アフリカへ来る白人の探検家や商人たちが、アフリカの先住民たちを従えている――という構図が一般的だったから、それは良くないと考え、そうした白人に従属した奴隷のようなアフリカ人は登場させないことにしたんだよ」
その点は私も納得し、理解できた。興味深かったのは、ターザンの物語をアニメにすることの意味を、彼が説明してくれたことだった。
「赤ん坊のターザンは、アフリカの動物たちによって育てられた。ということは、彼は育ての親のチンパンジーの両親や、周囲の他の動物たちのしぐさを、子どもらしく真似ていたと思われるじゃないか。本能的に親の真似をしようとする子どもにとって、それは自然なことだろう?」
とフォアンホ・ガルニド氏は語った。
「だから、このアニメでは、幼児のターザンが、動物のしぐさを真似する場面をとりいれたんだよ。例えば彼がヘビの真似をしたり、他の動物のかっこうをしてみる場面などをね」
「なるほど、ターザンの劇映画のなかでは、人間の俳優がターザンを演じているから、動物の真似をするには無理がありますね」
「そうなんだ。アニメなら、実際に人間には無理なからだの動きでも、誇張して描けるからね。それがマンガ映画としてのアニメらしい利点なんだよ」
それはたしかにそうだ。ディズニーのアニメ版「ターザン」は、これまでの劇映画版ではできなかった新しい要素を加えたことになる・・・。
と、ここまで書いてきた私、話をもとに戻さなくてはならない。
そもそもこれは、バート・ランカスター主演の『泳ぐひと』という映画について語ることから始まって、ディズニーのアニメ『ターザン』まで、内容がおよんでしまったのだった。
そう、『泳ぐひと』は、私にとって1968年という学生運動などに揺れた世界の動きを反映したアメリカ映画のひとつだったという気がする。
それは、カーク・ダグラス主演の『脱獄』と同様にモノクローム版で、日本での興行成績はほとんど問題にならなかった作品であるにもかかわらず、私には忘れ難い。
また、それぞれが私が中学・高校時代を経て、大学に進む時期に親しんでいたふたりのアメリカのアクション・スターによる映画であった。

http://blog.goo.ne.jp/7makemono-8n8n/e/600c2cab3ffe53988dad14bbf104681b

http://cinematch.jp/person/?id=6676

このふたりが共演した映画には、『OK牧場の決闘』や『5月の7日間』といった作品がある。
カーク・ダグラスには、西部劇『ガンヒルの決闘』という秀作もあり、やがてスタンリー・クーブリック監督の大作『スパルタカス』に主演する。彼には『屑屋の息子』(早川書房刊)という自伝があり、これは非常におもしろい。なんだか映画『星のない男』のように、彼にももちろん苦難時代があり、下積みからはいあがっていく姿が記されている。

Gunfight at the OK Corral

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ウォルト・ディズニーがロサンジェルスにディズニーランドを作ったとき、招かれたカーク・ダグラスが、園内を走る汽車に乗る場面が撮影された。そのフィルムを、ディズニーはカーク・ダグラスに無断でテレビ番組に使用したので、ダグラスは怒って中止させたエピソードなど興味深い。
私は日本で放映されたTV番組「ディズニーランド」で、カーク・ダグラスが汽車に乗って手を振っていたことを覚えていたからだ。
バート・ランカスターは『ヴェラクルス』(1956)というメキシコを舞台にした西部劇のなかで、拳銃を後ろ向きで撃ったあと、くるっと回転させてホルスターに収めてみて、『星のない男』のカーク・ダグラスとは別の拳銃さばきを見せて人気を呼んだ。
ランカスターは、ルキノ・ヴィスコンティの秀作『山猫』(1963)で、主人公のシチリア貴族を見事に演じて、ダグラスに水をあけたが、1994年に亡くなっている。そして、カーク・ダグラスの息子であるマイクル・ダグラスは、まちがいなく父親を超えた演技派俳優のスターとして、いま存在感を示している。

Lonely are the Brave trailer

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Veracruz

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