「ヴィンセントが教えてくれたこと」「人生スイッチ」「アリスのままで」「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」「ラブ&ピース」「この国の空」「海のふた」「アリのままでいたい」「戦場ぬ止み」「東京無国籍少女」「Mr.タスク」

「ヴィンセントが教えてくれたこと」はアメリカで大ヒット!
2500館まで公開拡大のお宝映画。

「ヴィンセントが教えてくれたこと」はアメリカで、最初4館で公開されたが、評判を呼んで大ヒット、2500館まで公開が拡大したというお宝映画。

主人公ヴィンセントを演じているのは、ビル・マーレイだ。
ヴィンセントは嫌味なじいさんで、一人で住んでいる。いや、真っ白なペルシャ猫と一緒に住んでいる。
アルコールとギャンブル漬けで毒舌家。偏屈なので嫌われ者だ。
ただ妊婦のロシア人ストリッパー(なんとナオミ・ワッツ!)だけは付き合ってくれる。
古いオープンカーに乗っている一見ダンディー風な、ヴィンセントじいさんの家の隣に、シングルマザーのマギー(メリッサ・マッカーシー)と、12歳の少年オリバー(ジェイデン・リーベラー)が越してくる。
医療技師のマギーは忙しく、オリバーは独りぼっちになる。
金にしわいヴィンセントは、時給12ドルでオリバーのベビーシッターになる。
まずはいじめられっ子のオリバーにケンカを教えることから始め、オリバーを競馬場やバーに連れまわすヴィンセント。

映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』予告編

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オリバーが万馬券を当てるシーンなど最高の面白さ。そして幕切れもすばらしい。
思わずジーンときた。
ビル・マーレイの飄々とした持ち味が効いている。メリッサ・マッカーシーの母親役もいい。なによりオリバーのリーバラー君がいいねえ。


キノフィルムズ配給。9月4日TOHOシネマズシャンテ。

「人生スイッチ」はアルゼンチンのダミアン・ジフロン監督のオムニバス。プロデューサーは、ペドロ・アルモドバル監督

「人生スイッチ」はアルゼンチンのダミアン・ジフロン監督のオムニバス。なにしろプロデューサーのペドロ・アルモドバル監督がほれ込んだだけあって、この監督の才気は尋常ではない。
第87回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。

6つの話から成り立つ。
そのどれもが強烈なブラックユーモアと、とんでもない奇想天外なエピソードから成っている。
たとえば第3話の「エンスト」。山道を走る新車。前方をポンコツの車がヨタヨタ走っている。
そしてなかなか追い越しをさせてくれない。
ようやく追い越した新車の男は、追い越しざまに「トロいんだよ。田舎者が」と吐き捨てる。

ところがしばらく行ったところでパンク。
車輪を交換しているとポンコツ車がやってきて、乗っている男が降りたと思うと、スパナで新車をボコボコにしてしまった。

この先がまたすさまじい。目には目でエスカレート。
このように全部の話に強烈な衝撃が仕掛けられていて、その爆発ぶりが、いっそ気持ちいい。
アルゼンチンではあの「アナと雪の女王」を抜き、国内興行収入1位の記録を打ち立てた。
これは見ておくべきです。
ギャガ配給。7月25日ヒューマントラストシネマ有楽町。

「アリスのままで」は、主人公アリスを演じたジュリアン・ムーアが第87回アカデミー賞主演女優賞を受賞した作品。

「アリスのままで」は、主人公アリスを演じたジュリアン・ムーアが第87回アカデミー賞主演女優賞を受賞した作品。
監督はウォッシュ・ウェストモアランドとリチャード・グラッツアー。

リチャード・グラッツアーはALS(筋委縮性測索硬化症)で、不自由な体で監督をしていたが、ジュリアン・ムーアの受賞の報を受けた直後、亡くなった。

原作はリサ・ジェノヴァ。

50歳の誕生日を祝ってもらうアリス(ジュリアン・ムーア)は、名門コロンビア大学の言語学教授。夫のジョン(アレック・ボールドウィン)は学者。
長女のアナ(ケイト・ボスワース)は法科大学を卒業して結婚。
長男のトム(ハンター・パリッシュ)は医学大学院生。
二女リディア(クリスティン・スチュワート)は演劇志望で西海岸へ行っており、アリスの唯一の心配のタネだ。

アリスは授業中、大事な言葉が出てこなくなり、ジョギングをしていて居場所がわからなくなる。
神経科で診断を受けた結果、若年性アルツハイマーと宣告される。
根本的な治療法はないという。

次第に物忘れが激しくなり、授業も続けられなくなる。
アリスはパソコンで、何もわからなくなったときの自分に対して、伝言を録画する。

次第に記憶がなくなる恐怖感と不安感。
支えてくれる夫と家族。それでも消えない不安。
ジュリアン・ムーアの演技が鬼気迫る。
パソコンに自殺するための睡眠薬のあり場所を吹き込み『一気に水で飲みなさい』と示唆する。

ところが病気が進んだアリスは、その画面を見ても瞬間で忘れてしまい、また戻ってくるという繰り返しで、自殺もままならない。
ひときわ哀れを誘い、それでも自殺せずに生きていてほしいと思わせる迫真の演技には泣けてくる。若い人たちにみてほしい。

キノフィルムズ配給。6月27日新宿ピカデリー。

「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」は大ヒットシリーズの最新作。

「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」は大ヒットシリーズの最新作。
なにしろコミックのヒーローを集結させているものだから、やたらに強い。
向かうところ敵なしだから、強敵を作り出すほうが難しいだろう。

アベンジャーズのヒーローたちは、アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)、ソー(クリス・ヘルムズワース)、ハルク(マーク・ラファエロ)、キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)、ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)ホーク・アイ(ジェレミー・レナー)ら。

それに今回、特殊な能力を持つ姉弟(エリザベス・オルセンとアーロン・テイラー=ジョンソン)が加わる。

アイアンマンことトニー・スタークが開発した、禁断の平和維持システムの人工頭脳<ウルトロン>。
だが、それこそ平和を脅かす存在である人類を、絶滅に追いやる機能を持っていた。
豪華な配役、壮大なスケールの映像。
普通の映画の2倍ほどあるボリューム感。
世界的なヒットは、約束されたのも同然だ。

この際、細かいことを言わずに大きな画面の映画館に行くべきだろう。
ジョス・ウェドン監督。

ディズニー配給。7月4日公開。

長谷川博已主演の日本映画を2本!「ラブ&ピース」と「この国の空」で主演男優賞の有力候補!
まずは「ラブ&ピース」

長谷川博已主演の日本映画を2本見た。
この人は、鈴木京香主演のテレビドラマと、映画「セカンドバージン」で、いきなり出てきた感じだった。

周防正行監督の「舞妓はレディ」で、いい味を出していたが、「ラブ&ピース」と「この国の空」で主演男優賞の有力候補になりそうだ。

「ラブ&ピース」は園子温監督のファンタジー。
うだつの上がらないサラリーマンの鈴木良一(長谷川博已)は、上司や同僚からバカにされている。何をやってもダメで会社のお荷物扱いだ。
以前はロックミュージシャンを目指したことがあり、同僚のさえないOL寺島裕子(麻生久美子)に惚れているのに、言葉もかけられない。

そんなある日、屋上で売っていたミドリガメと目が合ってしまう。
基本的にはコメディーで、それに西田敏行が演じる不思議な老人と壊れたおもちゃたち、動物たちのファンタジーがからむ。

最初、鈴木良一は、徹底的にいじめられる。
同姓同名の人がきっとたくさんいるだろうが、きっと腹を立てるだろう。
だが、ミドリガメの目が、こんなにかわゆいとは思わなかったので、すべて許すだろう(なんのこっちゃ)。
あとは一気呵成に、良一のサクセスストーリー・プラス・ファンタジー・プラス・特撮の世界に突っ走り、最後はなぜか泣ける、という不思議な映画。

長谷川博已という俳優の多面性を、認識させられた。
園子温監督のオリジナル脚本の奇想天外が、異彩を放っている。

アスミック・エース配給。6月27日TOHOシネマズ新宿。

長谷川博已主演の2本目は荒井晴彦監督・脚本の「この国の空」

長谷川博已主演の2本目は荒井晴彦監督・脚本の「この国の空」。
終戦直前の空爆にさらされる東京が舞台。
空爆を辛くも逃れてきた杉並区あたり。

里子(二階堂ふみ)は母親(工藤夕貴)と二人暮らしだが、横浜の空襲で家を焼かれた伯母(富田靖子)が転がり込んでくる。
食糧難の折、食べ物をめぐって争いも起きる。

隣家は銀行の支店長をしている市毛(長谷川博已)が、妻子を疎開させて暮らしている。
市毛は里子に親切で、里子も掃除など、なにくれとなく市毛の世話をしている。
終戦の年の1945年夏。空襲警報のサイレンが当時の悪夢を思い出させる。

お嫁にも行けず、空襲で死ぬのだろうか、という19歳の里子。
周囲に男は老人ばかりしかいない。
彼女が40代の男性である市毛に、心通わせるのは当然だろう。

市毛も召集を恐れながら生きており、里子の若さがまぶしく思える。
そんな切羽詰まった中の官能。
荒井晴彦監督のパワーが感じられる映像(撮影・川上晧一)にぐいぐいと引き込まれる。
長谷川の演技もさることながら、二階堂ふみの存在感が圧倒的。
きっと主演女優賞の候補になるだろう。

ファントムフィルム配給。8月8日テアトル新宿。

「海のふた」はよしもとばななの原作を豊島圭介監督で映画化


「海のふた」はよしもとばななの原作を豊島圭介監督で映画化。
ばなな原作で思い出すのが、市川準監督の「つぐみ」。牧瀬里穂と中嶋朋子が共演した。
伊豆の海辺の街が舞台であることは、「海のふた」も一緒。

「海のふた」は、都会から故郷の街に帰ってきた、まり(菊池亜希子)が、自分の味にこだわったかき氷の店を開く。
母親の大学時代の友人の娘はじめちゃん(三根梓)が遊びに来て、お店を手伝ってくれる。
はじめちゃんは、顔にあざがあり、心にも傷を負っている。

スケッチ絵のように淡々とした調子で、昔に比べてさびれてきた伊豆の海岸を描く。
若い女性二人の関係が、なんとなく「つぐみ」の繊細な感じを呼び覚ます。

三根梓の個性が光っている。
お金をかけた大作ではないが、どこかほっとさせる安らぎがある。
亡くなってしまった市川準監督のことがしのばれてならない。
豊島監督お疲れ様。

ファントムフィルム配給。7月18日新宿武蔵野館。

「アリのままでいたい」は、生物生態カメラマンの栗林彗が撮った昆虫映像

「アリのままでいたい」は、生物生態カメラマンの栗林彗が撮った昆虫映像をまとめたもので、アニメーションの解説も付き、夏休み中の子供たちにぴったりだ。
3Dで見たので、とくに臨場感があった。

カブトムシ、カマキリなどおなじみの昆虫が多く出てくるのだが、初めて目にする生態には、とても惹かれる。
昆虫に対する見方も変わってくるだろう。

昆虫の数は明らかに減っていると栗林さんはいう。
それでも日本にはまだ豊かな自然が残されている。
ぜひ親子で鑑賞し、自然の驚異を目の当たりにしてほしい。
主題歌は福山雅治の「蜜柑色の夏休み 2105」。

東映配給。7月11日。

三上智恵監督の「戦場ぬ止み」

「標的の村」を作った三上智恵監督の「戦場ぬ止み」は、「いくさばぬとぅどぅみ」と読む。
戦いに終止符を打つという意味だ。

沖縄の辺野古をめぐる、埋め立て反対運動に焦点を当てたドキュメンタリー映画だ。
辺野古の基地建設については、沖縄県知事選挙で翁長知事が当選してからも、日本政府は全く意に介さず、工事を続けた。

しかし沖縄県民の怒りは確実に高まり、普天間基地の移設という当初の話とは違ってきた。
もう基地を作るなという、県民の総意が固まってきている。

明らかに本土とは違う空気が醸し出されてきている。
それを見誤ると、政府も痛い目に遭うだろう。
住民を阻止する海上保安官や機動隊警官は圧倒的な力だが、彼らの心中はいかなるものだろうか。
同じうちなんちゅーの小競り合いは、見ていてつらい。

東風配給。東中野ポレポレで公開。

「東京無国籍少女」は押井守監督作品。清野菜名の初主演作

「東京無国籍少女」は押井守監督作品。清野菜名の初主演作だ。
女子美術高校で教師(金子ノブアキ)にデッサンの授業を受ける藍(清野菜名)。

体調不良で校医(りりィ)のところで薬をもらう。
鳥の羽音のような幻聴がある。彼女はクラスでいじめられ、浮いた存在だ。
講堂に寝泊まりして何か大きなオブジェを作っている。

という一見、普通の青春映画から一転。いきなり戦闘場面。
あれよあれよの押井ワールド。
そりゃ押井ファンは、これを期待しただろうけど…。ねえ。
園子温監督の「リアル鬼ごっこ」といい勝負か。

東映ビデオ配給。7月25日新宿バルト9。

ケヴィン・スミス監督、アメリカ・カナダ合作映画「Mr.タスク」

映画『Mr.タスク』予告編

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ケヴィン・スミス監督のアメリカ・カナダ合作映画「Mr.タスク」は、相当グロテスクな映画だ。なにしろ人間をセイウチに改造してしまうのだから。

ネット番組でネタ探しをしているウォレス(ジャスティン・ロング)は、カナダでハワード・ハウ(マイケル・パークス)という老人に会い、海でセイウチに助けられた話を聞く。翌日、ウォレスはハウ老人の広大な屋敷に閉じ込められ、足を切断させているのに気付く。

これがセイウチ人間だ!映画『Mr.タスク』本編映像

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ブラックユーモアもあるが、あまり品がよくない。
グロテスクで、しかも特殊メイクや装置が、安っぽいのも気になった。
「シックス・センス」のハーレイ・ジョエル・オスメントも出演しているが、こんな太目の大人にはなってほしくなかったなあ。

武蔵野エンタテインメント配給。7月18日新宿シネマカリテ。

野島孝一@シネフィル編集部

コラム~野島孝一の試写室ぶうらぶら~シネフィル篇
野島孝一さんてこんなひと
■略歴
1941年、新潟県柏崎市の自宅で助産婦にとり上げられ誕生。
1964年、上智大学文学部新聞科をどうにかこうにか卒業。
そして、あの、毎日新聞社に入社。
岡山、京都支局を経て東京本社社会部、学芸部へ。
なんと、映画記者歴約25年!
2001年、毎日新聞定年退職。
その後、フリーの映画ジャーナリストになって大活躍。
■現在
日本映画ペンクラブ幹事
毎日映画コンクール選定委員、毎日映画コンクール諮問委員
アカデミー賞日本代表作品選考委員
日本映画批評家大賞選定委員
■著書
日本図書館協会選定図書
映画の現場に逢いたくて
ザ・セックスセラピスト THE SEX THERAPIST
野島 孝一 著

野島孝一の試写室ぶうらぶら 、オリジナル版は、アニープラネットWEBサイト
に掲載されています。
野島孝一@シネフィル編集部
アニープラネットWEBサイト
http://www.annieplanet.co.jp/