「エール!」「トゥモローランド」「インサイドヘッド」「野火」「パージ」「パージ・アナーキー」「ふたつの名前を持つ少年」「フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように」「ダライ・ラマ14世」「コンフェッション 友の告白」「奪還者」


第24回日本映画批評家大賞は5月28日に中野ZEROホールで開催されました。代表委員としてご挨拶。滞りなく授賞式を終えることができました。これもひとえに皆様方のご協力の賜物です。改めて感謝申し上げます。

「エール!」


「エール!」はフランス映画祭2015のオープニング作品。
フランスの田舎町で農場を営むペリエ一家。
長女のポーラ(ルアンヌ・エメラ)を除く、父母と弟は聴覚障害者。
ポーラは一家の通訳として忙しい。学校で音楽の授業中、ポーラの歌声を聴いた教師のトマソンはポーラの素晴らしい才能を見抜き、パリの音楽学校のオーディションを受けるように勧める。
しかし、両親らはポーラの歌声を聴けないために反対。しかも父親は工業誘致を進める村長に対抗して村長選挙に立候補すると言い始める。

のどかな田園風景を背景に、善人揃いの仲の良い一家が描き出す心温まる家族の愛。
歌声がいつまでも耳に残る、心地よい映画。

エリック・ラルティゴ監督。
クロックワークス配給。10月31日新宿バルト9。

映画『エール!』予告編

wrs.search.yahoo.co.jp

「トゥモローランド」はディズニー配給のSFアドベンチャー映画


「トゥモローランド」はディズニー配給のSFアドベンチャー映画。
この大がかりな仕掛けは、一見の価値ありといっておく。
1964年のニューヨーク万博。11歳の少年フランク・ウォーカーが自作の人間が空を飛ぶ装置を持ってやってくる。
出会った少女アテナ(ラフィー・キャシディ)はTという字の入ったピンバッジをくれる。それは未来都市トゥモローランドに行くためのキーだった。

時は移って現代。17歳の少女ケイシー・ニュートン(ブリット・ロバートソン)の持ち物にTのピンバッジが紛れ込む。それに触るとケイシーはたちまちトゥモローランドに飛んだ。
現代ではフランク・ウォーカー(ジョージ・クルーニー)が世捨て人のように暮らしている。ピンバッジのバッテリー切れで地上に戻ったケイシーは、アテナの指示でフランクに会いに行くが、フランクは会おうともしない。

最初から状況がよくわからないままに、引き込まれていく。
自分自身が冒険の旅をしているようだ。
まるで夢を見ているような魅惑的な状況が次々に変化していく。ディズニーランドの乗り物に乗っているようだ。
特にパリのエッフェル塔が2つに割れて、ロケットが飛び立つところなど、あっけにとられる映像だ。子供だましというなかれ。
紛争、異常気象、水不足などさまざまな要因で地球の危機が迫るという現実は現に進行している。この映画は意外にもアクションが多い。アテナ役のラフィー・キャシディは、実に素晴らしい美少女で、クロエ・グレース・モレッツが「キック・アス」で登場したときのようなインパクトを覚えた。
ケイシー役のブリット・ロバートソンもジェニファー・ローレンスに似た感じで、大物感が漂う。

監督は「ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル」のブラッド・バード。6月6日公開。

「インサイドヘッド」はピクサーのアニメーション


「インサイドヘッド」はピクサーのアニメーション。11歳の女の子、ライリーの脳内には、ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ムカムカ、ビビリの5つの感情があって、それぞれがライリーの成長を見守っている。まるで日本映画の「脳内ポイズンベリー」のアニメ版のような内容だ。ライリーは両親とともに見知らぬ土地に引っ越してきて、うまくいかず、家出しようとする。感情たちは大慌てする。なぜカナシミという感情があるのか。それが明らかになっていく過程で、思わず涙が出そうになった。さすがピクサーのアニメだ。大人も共感できる内容の確かさ。ディズニー配給。7月18日公開。

「野火」は塚本晋也監督の最新作。大岡昇平の原作


「野火」は塚本晋也監督の最新作。大岡昇平の原作で、ベネチア国際映画祭の出品が決まった。日本映画ペンクラブの例会で拝見。「野火」は市川崑監督が和田夏十脚本、船越英二、ミッキー・カーチス主演で映画化された(1959)。そのときはモノクロ作品だったが、今回はカラー。飢えと米軍の攻撃でバタバタと死んでいく日本兵の哀れな末路が鮮烈なカラーで描き出される。塚本監督自身が田村一等兵役で出演しているほか、リリー・フランキー、中村達也らが共演。戦場にいるような臨場感はさすがだ。手足がもぎ取られるところなどは気色悪いが、本当の戦争はこんなものではないだろう。怪獣シアター配給。7月25日ユーロスペース。

ユニバーサル映画「パージ」と「パージ・アナーキー」


ユニバーサル映画「パージ」と「パージ・アナーキー」を東宝東和で拝見。「パージ」はアメリカで1夜だけは人殺しや犯罪をしてもかまわないという法律ができる。そうなると、ほかの日々は安泰で犯罪が激減する。儲かるのは銃の販売とセキリュリティ会社だけ。主人公のジェームズ(イーサン・ホーク)はセキュリティー・システムのトップ・セールスマン。パージの当日、ジェームズ家の防犯システムが稼働。家は要塞のようになる。すると1人の男が家の玄関に逃げ込んでくる。男を殺そうと凶器を持って集まる人たち。ジェームズの息子は見かねて男を家に入れてやる。そこからジェームズ一家も人殺しの群れから狙われるはめになってしまう。管理社会の中で起きる何でもありの恐怖。マイケル・ベイが製作しているだけに緊迫感あふれる近未来スリラー。
監督・脚本はジェームズ・デモナコ。


「パージ・アナーキー」は続編というより、同じモチーフの別版。
「パージ」の夜が始まろうとしている。病気の父親を持つ貧しいウェイトレスのエヴァ(カルメン・イジョゴ)は娘のカリ(ゾーイ・ソウル)をかばって何とか一晩を安全に過ごそうとしている。しかし何者かの集団がこの地域を取り囲み侵入しようとしていた。そのころレオ(フランク・グリロ)は完全武装し、カスタマイズされた車で危険な街に走り始める。夜9時になると、サイレンが鳴りパージが始まる。家にいても襲われ、夜の街では誰も助けてくれない。ハラハラする展開の中、次から次へと危険が迫る。「パージ・アナーキー」のほうは群衆アクションでスケール感がある。アクション映画ファンは結構満足できる出来上がりだ。シリーズの3も製作進行中だという。「パージ」は7月18日公開。「アナーキー」は8月公開。

「奪還者」は「アニマル・キングダム」のオーストラリア人監督、ディヴィッド・ミショッドによる「マッド・マックス」風バイオレンス・アクション。

「奪還者」は「アニマル・キングダム」のオーストラリア人監督、ディヴィッド・ミショッドによる「マッド・マックス」風バイオレンス・アクション。

「ふたつの名前を持つ少年」はドイツ人監督、ペペ・ダンカートによるドイツ・フランス映画。
原作はイスラエルのウーリー・オルレブの「走れ、走って逃げろ」。

「ふたつの名前を持つ少年」はドイツ人監督、ペペ・ダンカートによるドイツ・フランス映画。原作はイスラエルのウーリー・オルレブの「走れ、走って逃げろ」。
ヨラム・フリードマンという人物の実話に基づく。

1942年、ナチス統治下にあったポーランドで、8歳のユダヤ人少年が生き延びた。
彼はゲットー(ユダヤ人強制収容住区)から脱走し、森に逃げ込んだ。
放浪を重ねるユダヤ人の青少年とグループで行動したが、ドイツ軍に追われて一人になってしまった。
親切な夫人にかくまわれたが、居どころを突き止められ再び脱走。農場で作業中に機械に挟まれ片手を失う。子供とて容赦せず殺そうとするドイツ軍。捕まえて報奨金をもらうポーランド人。あくまでもかばってくれる親切な大人たち。

それにしてもヒトラーのユダヤ人殲滅作戦は、常軌を逸している。
ふたつの名前とは、ユダヤ人の本名を隠してポーランド風の名前を付け、カトリック信者になって逃げる少年を指す。
少年を演じたカクツ兄弟は双子。二人が代わる代わる1人の少年を演じたので、撮影時間の制限に引っかからなかったという。
東北新社配給。8月15日ヒユーマントラストシネマ有楽町。

「フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように」は、小谷忠典監督のドキュメンタリー映画。

「フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように」は、小谷忠典監督のドキュメンタリー映画。
女性カメラマンの石内都が、メキシコの世界的画家フリーダ・カーロ(1907~1954)の遺品を収めた博物館で、これまで公表されなかった遺品の数々を撮影したもようを撮っている。

少女時代にはポリオで足が不自由だったばかりか、交通事故で半死半生だったフリーダ・カーロ。その強烈な絵画とメキシコ民族衣装をまとった鮮やかな容姿は、今も多くのファンを魅了している。

いまだにフィルムで撮影をする石内都の写真と、フリーダ・カーロの遺品のコラボレーションには、圧倒される。
ノンデライコ配給。8月シアターイメージフォーラム。

「ダライ・ラマ14世」もドキュメンタリー映画。光石冨士朗監督


「ダライ・ラマ14世」もドキュメンタリー映画。光石冨士朗監督作品だ。
チベットの生き仏といわれるダライ・ラマ法王14世。ノーベル平和賞を受賞。世界で平和を訴えている。気さくな人物で、多くの人々に影響を与えてきた。

映画のほとんどが日本における講演なので、あまり新味を感じなかった。
ただ、インドのダラムサラのチベット亡命政府施設で暮らす若い人たちが、自分の境遇に満足しているのが印象的だった。日本人の若い人たちが不平不満の塊になっているのとは正反対に思えた。日本人も失われた仏教精神を見直すべきではないか。6月ユーロスペース。

「コンフェッション 友の告白」は韓国の新鋭イ・ドユン監督の作品。


「コンフェッション 友の告白」は韓国の新鋭イ・ドユン監督の作品。
中学の同級生3人組が、卒業式の日に山で遭難。それでも無事で、大人になり、今も親交がある。

保険のセールスで調子よく世を渡っているインチョル(チュ・ジフン)、堅物の消防夫ヒョンテ(チソン)、いつも親友に助けられているドジなミンス(イ・グァンス)。
インチョルはヒョンテには内緒で、ヒョンテの母親が経営するゲーム賭博店の火災保険を契約させた。母親が強盗を装った保険金詐欺を持ち掛け、インチョルはミンスを巻き込んで、店を襲った。
ところがとんでもない事態になる。韓国映画らしい密度の高い人間模様が描かれる。
ただし、あまりうまく整理されていない。ストーリー展開がのろのろと感じられて仕方がなかった。そういうどろどろした感じが、韓国映画の特徴といわれてしまえばそれまでだが。
ツイン配給。夏シネマート新宿。

「奪還者」は「アニマル・キングダム」のオーストラリア人監督、ディヴィッド・ミショッドによる「マッド・マックス」風バイオレンス・アクション。


「奪還者」は「アニマル・キングダム」のオーストラリア人監督、ディヴィッド・ミショッドによる「マッド・マックス」風バイオレンス・アクション。
世界経済破たんから10年後の荒廃したオーストラリア。
車に執着するエリック(ガイ・ピアーズ)の愛車が男たちに奪われてしまった。どこまでも追跡するエリック。やがてエリックは傷ついた若者レイ(ロバート・パティンソン)を拾うが、彼は車を盗んだ犯人の1人の弟だった。

荒々しい映像は個性的だが、あまりにもストーリーが粗末ではないか。せっかく「L.Aコンフィデンシャル」のガイ・ピアーズ、「トワイライト~初恋~」のロバート・パティンソンといういい役者をそろえたのだから、もうちょっと頑張ってくれなくては。
ポニーキャニオン配給。7月25日ヒューマントラスト渋谷。

野島孝一@シネフィル編集部

コラム~野島孝一の試写室ぶうらぶら~シネフィル篇
野島孝一さんてこんなひと
■略歴
1941年9月29日、新潟県柏崎市の自宅で助産婦にとり上げられ誕生。
1964年、上智大学文学部新聞科をどうにかこうにか卒業。
そして、あの、毎日新聞社に入社。
岡山、京都支局を経て東京本社社会部、学芸部へ。
なんと、映画記者歴約25年!
2001年、毎日新聞定年退職。
その後、フリーの映画ジャーナリストになって大活躍。
■現在
日本映画ペンクラブ幹事
毎日映画コンクール選定委員、毎日映画コンクール諮問委員
アカデミー賞日本代表作品選考委員
日本映画批評家大賞選定委員
■著書
日本図書館協会選定図書
映画の現場に逢いたくて
ザ・セックスセラピスト THE SEX THERAPIST
野島 孝一 著

野島孝一の試写室ぶうらぶら 、オリジナル版は、アニープラネットWEBサイト
に掲載されています。
野島孝一@シネフィル編集部
アニープラネットWEBサイト
http://www.annieplanet.co.jp/